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2020.10.23
文=長田真理
鹿児島県内には13のJAがある。JA鹿児島県経済連は、これらのJAと連携して事業を行い、その傘下のJA物流かごしまが物流業務を担う。管内では黒牛、黒豚など畜産が盛んでブランド力も高い。水稲も種子島産を筆頭に超早場米産地として知られる。全国一の生産量を誇るさつまいもやオクラ、全国2位のジャガイモやお茶など特産品も多い。2019年の農業産出額は約5,000億円で、北海道に次ぐ日本を代表する食料供給地となっている。
一方大消費地から遠いという課題があり、新鮮な生鮮食品を消費地に届けるためには、物流がカギを握る。とりわけ高品質が求められるブランド産品は、効率的で管理の行き届いた物流が必須だ。
多くの産業に悪影響を及ぼした新型コロナ感染症だが、鹿児島県産の農畜産物の物流に関しては大きな影響はなかった。ただしドライバーの安全確保にはかなり気を遣ったという。マスクや消毒液を支給し、感染者が多い都市部などに行くドライバーの家族に医療・介護関係者がいる場合は、感染防止のため宿泊ホテルを用意した。さらにドライバーの衛生面にも配慮したと、JA物流かごしま 幹線事業部長 小園伸二氏は次のように語る。「通常ドライバーはガソリンスタンドのシャワー設備を利用しますが、コロナ禍で使えなくなりました。そこで、急遽各地の協力会社にお願いし、設備を使わせてもらいました」。
多くの物流会社同様、県をまたいだ移動が制限される中で物流業務に従事するドライバーには、普段にない苦労があった。
ここで日本の物流業界の課題をおさらいしておこう。近年、職業ドライバーの人手不足や労働環境の問題は、広く知られるようになった。実際ドライバーは欠員率が高い。若年層の就労が少なく、ドライバーの高齢化は深刻な問題だ。
背景にあるのが、労働時間の長さと所得の低さだ。年間労働時間が産業全体に対して400時間以上も多く、年間所得は40~80万円も低い。2024年には労働基準法が改正され、自動車運転業務の時間外労働時間の上限を年960時間、月平均80時間とした罰則付きの規制も始まる。ドライバーの働き方改革は、喫緊の課題だ。
このような現状に対して、国土交通省は、経済産業省、農林水産省と共に「ホワイト物流」推進運動を展開。トラック輸送の生産性向上・物流の効率化とトラックドライバーの労働環境改善を目指す。また、国はディーゼル重量車の排ガス規制を強化しており、よりエネルギー効率のよい鉄道や船舶へのモーダルシフトも推進している。実際に輸送量当たりのCO2排出量は、船舶がトラックの6分の1、鉄道に至っては11分の1しかない(※)。トラックドライバーの労働環境の改善と、物流の環境対応は待ったなしの状況だ。
物流業界の課題に加え、鹿児島県には大消費地から遠いというハンディキャップがある。JA物流かごしま 総務部 企画課長 平瀨継志氏は、「距離が長くなれば乗務時間は長くなり、長時間労働にもつながります。燃料費、高速料金も高額になります」と、地理的な課題を語る。
トラックドライバーが長時間労働になりがちなのは、運転時間が長いことだけが理由ではない。荷受け時の荷主や荷下ろし時の納品先での待ち時間が少なくないのだ。「指定の時間に到着しても別のトラックが作業中で1~2時間待たされることは珍しくありません」と小園氏。このようなロスが積み重なると労働時間が増えてしまう。
長距離輸送で生鮮品の鮮度を保つためには、温度管理が極めて重要だ。ブランド産品となると、さらに気を遣う。「荷積みや荷下ろしの際、手際よくやらないと品質低下の原因になりかねません。ドライバーは温度管理にかなり神経をつかいます」(小園氏)。一方で生産者の減少に伴い、出荷物は少量多品種になりつつある。そうなると混載が増え、さらに品種ごとの温度管理が難しくなる。
少量多品種は集荷の面でも問題が多い。同じ品目なら1つの集荷場で積み込み作業が完了するが、品目が異なると多くの集荷場を回る必要がある。そのため、さらにドライバーの負担が増加してしまう。