山崎製パンがJAいちかわと手を組む理由

「市川のなし」の安定供給が、商品開発を支え続ける

「地産地消」を旗印に、地元JAと連携した商品を開発する山崎製パン。創業の地、千葉県市川市では10年以上前から、JAいちかわと連携し、「市川のなし」を活用した商品を製造・販売する。開発商品は季節限定商品だけで30点。ほかにも、「梨ウォーター」「和梨バウム」といった定番商品も生み出してきた。10年以上にわたる連携関係を成り立たせているものは、何なのか――。山崎製パンがJAいちかわと手を組む理由を探る。

特産品を活用した地産地消の商品開発

 今年もまた、みずみずしい梨の季節がやって来た。旬は、夏から秋にかけて。季節限定は果実の魅力である半面、食べる期間が限られるものである。

 その梨を通年で味わえるのが、山崎製パン松戸工場が開発したコラボレーション商品である。グループ会社がJR市川駅北口で運営する「ヤマザキプラザ市川」には特設コーナーを置き、梨の風味を味わえる350ml缶の清涼飲料水「梨ウォーター」や梨のジャムを練り込んだバウムクーヘン「和梨バウム」など定番商品を並べる。商品パッケージや350ml缶に記された「市川の梨」や「千葉県産和梨」の文字が、目を引き付ける。

定番商品の清涼飲料水「梨ウォーター」とバウムクーヘン「和梨バウム」
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定番商品の清涼飲料水「梨ウォーター」とバウムクーヘン「和梨バウム」
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定番商品の清涼飲料水「梨ウォーター」とバウムクーヘン「和梨バウム」

 コラボレーションの相手はJAいちかわ。梨は管内の特産品である。現在の岐阜県美濃国から200年以上前、この地に伝わり、土壌や気候などの条件が適していたことから産地として根付いた。市川市は市町村別産出額で全国トップクラスに位置する。

 グループを挙げて製造・販売にあたる山崎製パンの松戸工場で商品開発を担当する営業課業務係の門屋裕子氏は、「市川は創業の地ですから、地域に貢献したいという思いが強くあります。会社として地産地消の商品開発に取り組む中、松戸工場ではその市川の特産品である梨を活用することで地域貢献も果たそうと、コラボレーションに踏み切りました」と、JAいちかわと手を組む狙いを語る。

山崎製パン株式会社 松戸工場 営業課 業務係 門屋裕子 氏
山崎製パン株式会社 松戸工場 営業課 業務係 門屋裕子 氏

 山崎製パンにとって地産地消は商品開発の方向性の一つ。「商品の競争力を高めるには、時代の先を見すえた開発が欠かせません。この先、何がヒットするかを見極めながら商品開発にあたる必要があります。地産地消については、松戸工場としてコラボレーションを決める前から、全国でブームになるとみていました」(門屋氏)。

 両者の出合いは、2008年にさかのぼる。

 JAいちかわでは前年の8月、「市川の梨」「市川のなし」の2つの商標について地域団体商標登録認証を取得。以来、市川商工会議所を事務局とする市川地域ブランド協議会の一員として地域ブランド化を推進してきた。2008年には世界保健機関(WHO)が共催する健康都市連合国際大会が市内で開催されることから、特産品である梨の加工品を開発し、世界に発信していく機運が高まっていた。

 「市川のなし」で世界に通用する加工品を開発する――。そうした地域ブランド構築という狙いを胸に、JAいちかわは市川商工会議所の仲立ちで、市川を創業の地とする山崎製パンと手を組んだのである。

規格外の活用にあらためて挑戦

 JAいちかわでは当時、地域ブランド構築という狙いのほかにも、加工品の開発に懸ける一つの思いを抱いていた。JAいちかわで6次化の事業を担当する経済部市川経済センター営農課課長の武藤健司氏はこう振り返る。

JAいちかわ 経済部 市川経済センター 営農課 課長 武藤健司 氏
JAいちかわ 経済部 市川経済センター 営農課 課長 武藤健司 氏

 「出荷基準は満たさないものの処分するには惜しい規格外の梨の活用です。生産者自らが処分せざるを得ないものは生産量のざっと1割。そのうち規格外の梨を加工品の開発に活用できないか、以前から可能性を探っていました」

 山崎製パンに期待したのは、しっかりした販路を持つメーカーという点だ。JAいちかわでは加工品の開発には取り組んできたが、6次化の事業には発展しなかったという過去がある。「加工品をつくることまでは決して難しくありませんが、問題はその先です。販路を確保できず、在庫を抱えたまま売り抜くことができませんでした。6次化のプロセスを全てやり切るのは、ハードルが高いと感じていました」(武藤氏)。

 両者の思いはうまくかみ合い、JAいちかわは規格外の梨という原材料を提供し、山崎製パンはグループを挙げて加工品の製造・販売にあたる、という役割分担が決まる。こうして6次化の事業に向けたコラボレーションの体制が生まれた。

 コラボレーション第一号は、山崎製パンの定番商品である「ランチパック」に和梨ジャムを組み合わせた季節限定品。発売は、2011年6月だ。以降、「コッペパン」「薄皮クリームパン」「ナイススティック」など、ほかの定番商品にも和梨のジャムや和梨のクリームを組み合わせ、夏から秋にかけての季節限定品として販売してきた。こうした季節限定品の点数は、この10年で計30点に上る。

 販路は、山崎製パンで運営するコンビニエンスストア「デイリーヤマザキ」やスーパーだ。関東地方を中心とするエリア一帯の店舗で売るのが基本だが、商品によっては全国に展開する。商品パッケージには地域団体商標として登録済みの「市川のなし」というロゴタイプを印刷し、消費者に対して産地の安心を印象付ける。

 最近、新たに取り組み始めたのは、スイーツの開発だ。2020年8月、2種類のクリームを味わえる「大きなツインシュー」に和梨クリームを組み合わせた季節限定品を発売したのを皮切りに、「市川のなし」のスイーツ展開に力を入れる。

 門屋氏は「梨の特徴はみずみずしさにあります。スイーツなら、それをうまく引き出せるのではないか、と考えました。市場の動向を見ても、最近はスイーツが伸びているだけに、この分野をさらに開拓していきます」と、意欲を見せる。