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2020.09.03
文=長田真理
JA津南町がある新潟県中魚沼郡津南町は豪雪地帯で、それ故豊かな水資源に恵まれている。高品質で知られる魚沼産コシヒカリの産地で、高原野菜や花き(かき:観賞用の植物)生産も盛ん。花きで高い人気を誇るのが、「雪美人」だ。
雪美人はJA津南町の組合員15軒19名による津南町ユリ切花組合(以下、ユリ組合)が栽培している。通常ユリはオランダから球根を輸入し、そのまま定植して栽培する。一方ユリ組合では、オランダから輸入した小さな球根を1年間育て太らせ、改めて翌年定植し栽培する。それにより茎が太く、蕾の大きいしっかりとしたユリに育つのだ。その高品質と地域の努力が認められ、1999年には日本農業賞の大賞を受賞。現在の年間出荷本数は約120万本、売り上げは4億円近くに上る。花き市場での人気は高く、95%が競り前の指名買いで売れる。なかでも大輪の白く輝く花が高貴な品種「カサブランカ」は、絶大な人気を誇る。JA津南町 営農部 営農センター 福原健之氏は、「カサブランカは国内では人気ですが、海外ではあまり作られていません。津南は日本一のカサブランカ産地なので、世界一の産地です」と語る。
そこにコロナ禍が襲った。多くの冠婚葬祭やイベントが自粛され、商業施設などのディスプレイ需要も激減するなか、多くの花き産地が出荷・単価減に見舞われた。それでも雪美人は、ブランド力や人気の下支えがあり、出荷量はほとんど変わらず、単価も最安値が2割減程度だった。単価が3~4割減の花き産地もあったことを考えると比較的損害は軽微だったように思えるが、決してそうではない。生産者で津南町ユリ切花組合 理事 兼 技術部 部長 藤木直人氏は、「ユリは経費率(生産コストなど)が8割を超えるため、2割減でも大打撃です」と説明する。8月になって単価は1割減程度にとどまるものの、まだ本来の水準には戻っていない。
コロナ禍で、津南町の観光業も深刻なダメージを受けた。津南町の温泉旅館「しなの荘」では、売上が2020年3月から急落し始め、5月は95%減、6、7月は半分程度まで持ち直したが、本来なら繁忙期のはずの7月半ばから再度国内で感染が拡大。しなの荘の女将 山岸麗好氏は、「当面、回復は見込めません」とあきらめ顔だ。老舗の綿屋旅館も状況は同じ。女将 風巻早苗氏は、「これまで経験したことのない事態に旅館業はすべてが手探りです」と嘆息を漏らす。
両氏は4年前から、津南町の農産物を観光に活かす地域団体「つなベジ会」の活動をしてきた。「つなベジ」は“津南”と“繋がる”の“つな”と、ベジタブル(野菜)の“ベジ”を掛け合わせた造語だ。町内の旅館や飲食店で地域の野菜を提供・紹介するだけでなく、収穫体験などのイベントも開催。津南町を盛り上げる目的でSNSを中心とした情報提供を継続して行っており、山岸氏が代表を務めている。
両氏は結婚を機に津南町に来た。津南町で生まれ育った住民には当たり前に映る風景や産物も、地域を盛り上げる素晴らしい資源になると確信したという。県内には、地域資源を活性化につなげる好事例もあった。燕三条地域で2013年から開催されてきた「燕三条 工場の祭典」である。金属加工を中心とした工場の集積地燕三条地域が、毎年工場を開放するイベントで、2019年は4日間で5万人を集めるまでに成長している。山岸氏は、「津南町の魅力は何より農業。魅力ある農産物や風土を旅行者に楽しんでいただき、地元の人も自慢できる町にしていきたい」と意気込む。
つなベジ会の活動に手ごたえを感じていた矢先のコロナ禍。手をこまねいているわけにはいかないと打ち手を模索していた矢先、町役場で桑原悠町長から耳にしたのが、「津南町が誇るユリが危機にある」という話だった。以前からユリを観光資源として位置付けたいと考えていた桑原町長が橋渡しする形で、ユリ組合にコンタクト。農商連携の「ユリ×観光」のプロジェクトがスタートした。人気ブランドだった雪美人は、それまで関東・関西を中心に展開されていたため、生産者も地元とのつながりが強いとはいえなかった。コロナを契機に、互いに苦境を抱える業界同士、業種の垣根を越えて地域を盛り立てていこうと、一致団結した。