全国から視察殺到! 最新野菜工場を探訪する

リスク覚悟で地域農業の明日を開く、JAしまね

あのシャキシャキの歯ごたえがたまらない。野菜工場で水耕栽培されたリーフレタス類だ。露地栽培の玉レタスに比べ緑が濃く、それが栄養価の高さも感じさせる。ただ、野菜工場は固定費負担が重く、運営を成り立たせるのは容易ではない。課題を克服する確かな戦略が求められる。そうした厳しい現実の中、JAしまねの出雲地区本部が傘下の株式会社を通じて開設した野菜工場では、3年目で黒字化を達成した。成功の秘訣は、どこにあるのか。

 白いボードの上に等間隔で植え付けられた緑の葉が、見渡す限り続く。幾重にも重なり近く収穫を迎えそうなものもあれば、植え付けられたばかりの成長が待たれる苗もある。これらの作物は、グリーンオーク、グリーンクリスピー、サラダ菜などのリーフレタス類。白いボードの下を流れる養液で水耕栽培する。頭上からはフィルム越しに太陽の光が注ぎ、室内では所々で循環扇が温度ムラをなくす。

野菜工場「出雲vege」のハウス内観。奥に見えるのは循環扇。グリーンオーク(左)はしっとりした食感で、日持ちが良く変色しにくい特徴がある。グリーンクリスピー(右)は食べるとほんのりと甘く、シャキシャキした食感が美味しい
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野菜工場「出雲vege」のハウス内観。奥に見えるのは循環扇。グリーンオーク(左)はしっとりした食感で、日持ちが良く変色しにくい特徴がある。グリーンクリスピー(右)は食べるとほんのりと甘く、シャキシャキした食感が美味しい
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野菜工場「出雲vege」のハウス内観。奥に見えるのは循環扇。グリーンオーク(左)はしっとりした食感で、日持ちが良く変色しにくい特徴がある。グリーンクリスピー(右)は食べるとほんのりと甘く、シャキシャキした食感が美味しい

 ここはJAいずもアグリ開発(株)が島根県出雲市内で2019年2月に開設した野菜工場「出雲vege」。間口10m近いハウスを横方向に16棟連ねた広大な空間だ。広さはサッカーコートに匹敵する約9200㎡に及ぶ。

 この野菜工場、開設3年目で黒字化を達成したというから、驚きだ。

リスク覚悟で野菜工場に飛び込む理由

 野菜工場と言えば、品質のよい野菜を安定して供給できることから一定のニーズが見込める。一方で、栽培環境を維持するため初期投資や生産コストがかさみ、販売単価は高くなりがちだ。稼働率・回転率を上げられず、赤字を抱える工場が少なくない。テクノロジーの力を借りて農業生産に参入しようと工場運営に乗り出したものの、売り先を安定的に確保できず、経営破綻に陥る民間企業も見られる。

 そもそも事業リスクがこれだけ見込まれる中、JAしまねが野菜工場の運営に乗り出そうと決断したのは、なぜなのか。

 野菜工場の運営を着想したのは、現在JAしまねで代表理事組合長を務める石川寿樹氏だ。10年ほど前、北海道に視察に赴いた際、苫小牧市内で民間企業が運営する野菜工場を見学し、民間企業の農業への参入に危機感を覚えたのが、きっかけという。

イベントで講演を行うJAしまね 代表理事組合長 石川寿樹 氏
イベントで講演を行うJAしまね 代表理事組合長 石川寿樹 氏

 「もともと『食』に携わる私たちが、遅れを取ってはいけない。最先端の野菜工場を自ら運営し、地域の農業にもこれだけのことができる、と若い生産者に刺激を与えながら、地域にその輪を広げていきたい。そういう思いから、JAで推進する事業としていつか乗り出そう、と構想を温めていました」

 その思いを実現するチャンスが、2016年に訪れる。JAしまね出雲地区本部の本部長に石川氏が就任したのだ。構想はそこから一気に具体化し、事業主体はJAいずもアグリ開発(株)を想定していた。

 この会社は、出雲地区本部の前身とも言える旧JAいずもが2008年に立ち上げた会社で、水稲、果樹、野菜という3つの生産部門を持つ。出雲市内の遊休農地でこれらの農産物を生産しながら、新たな担い手候補を受け入れ、栽培技術の研修機会を提供し、自営就農を後押ししてきた。その立ち上げの背景にも、農業生産に自ら取り組み、その可能性を示す必要がある、という堅い信念がある。

 なぜ、その必要があるのか――。地域の農業が抱える課題を、JAいずもアグリ開発(株)代表取締役の石飛(いしとび)英彦氏はこう解説する。

JAいずもアグリ開発(株) 代表取締役 石飛英彦 氏
JAいずもアグリ開発(株) 代表取締役 石飛英彦 氏

 「出雲では西日本で一番おいしい米が獲れると言われ、稲作だけで生活が成り立った時代もありました。ところが昨今は、米価が下がり、それは叶いません。また秋から冬にかけては天候不順のため、農閑期が続きます。都市化が進む中、生活の安定を考えれば勤めに出た方がいい。しかしそれでは、地域の農業は立ち行かなくなります」

 野菜工場の運営も、同じ課題意識に根差す。「年間で収益確保を見込める地域農業の一つのモデルです。新しい生産部門を設け、その運営に自ら取り組むことを、会社設立から約10年の区切りで新機軸として打ち出しました」(石飛氏)。