ドローン&AIでぶどう栽培はどう変わる!?

~テクノロジー導入でノウハウ習得の短期化に挑むJA梨北

ぶどうは高級品になると一房数千円で店頭に並ぶ販売価格の高い果物だ。一方で栽培には様々なノウハウが必要で手間もかかり、一人前の生産者になるには10年かかるともいわれる。地域の生産者が減少する中、ぶどう産地を維持するには新規就農者の増加と彼らが早く独り立ちしていくことが不可欠だ。今回はテクノロジーを活用して生産の改革に挑んでいる生産者2人とJA梨北の取り組みを取材した。

異業種から就農した2人がぶどう栽培の課題に取り組む

 ぶどうやりんご、桃などの果樹栽培が盛んな山梨県のJA梨北管内でぶどうを生産する岩下忠士氏が就農したのは、15年ほど前の55歳のときだ。それまで建設関係の会社を経営していたが、将来的には家業のぶどう園を継ぐと約束していたためそれを実行に移した。

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ぶどうの収益性は高いが、栽培のノウハウ習得に時間がかかる
株式会社クピド・ファーム 代表取締役 岩下 忠士 氏

 しかし、ぶどう栽培は一筋縄ではいかなかった。ぶどうは単価も高く農業経営の確立が見込めるものの、その分手間暇がかかりノウハウも必要だ。一方で地域の生産者は高齢化が進み、相談できる熟練者が減少していた。「先輩の生産者がどんどん減り、相談できる人がほとんどいませんでした。しかし、自然は刻々と動いており待ってくれません。課題を感じながら解決できない日々が続いていました」(岩下氏)。

 そんなとき新たに就農したのが、2軒隣で昔からよく知る安部正彦氏だ。2014年のことである。安部氏は元会社員で、やはり実家はぶどう農家。それまで電機メーカーで生産管理の仕事をしてきたが、50歳を過ぎた頃から今後の働き方を考えるようになった。「せっかくなら地域のために働きたいと思いました。実家のぶどう園も私が手伝わないと立ち行かなくなり始めていました。ぶどう栽培は、リスクはあるものの、比較的収入が高いという見込みもありました」と安部氏。

ドメーヌ 茅ヶ岳 代表 安部 正彦 氏

 実際に就農すると、頑張っただけの売り上げがありやりがいを感じたが、うまくいかず落ち込むことも少なくなかった。そこで岩下氏に相談をしたところ、すぐさま反応が返ってきた。安部氏は、「岩下さんは共感してすぐに行動する力が、他の人とは違います。農業はもちろん社会問題なども勉強されていて、どんな話をしても理解してもらえました」と語る。

 こうして2人を中心としたプロジェクトは始まった。

収穫量を左右する剪定作業。その樹形の把握が大問題

 日本のぶどう栽培は棚作りが一般的だ。ぶどうはつる性果樹で、枝は棚をはうように伸びるが、実がなるのは先端部分のみ。樹齢は長く50年以上実をつけるため、放っておくと収拾がつかない枝ぶりになってしまう。畑全体で均等に実がなるようにするには、剪定(せんてい)作業が極めて重要だ。

JA梨北 営農部 営農指導課 課長 矢崎 輝幸 氏

 しかし、剪定するには葉がすべて落ちていなければならず、剪定に最適な時期は樹形を見定められる12月~3月。最も寒い時期である。JA梨北で営農指導をする矢崎輝幸氏も実家がぶどう農家で、剪定は難しいと語る。「父は寒い中ぶどう棚の下に座って、長時間たばこを吸いながら樹形を見ていました。その時間がとにかく長い。そうやってどう剪定するかプランを立てていました」。

 岩下氏もどう剪定すべきか分からず、樹形が正しく分かるよう上から見てみたいと高台や柱に上ってみたこともある。そんなとき安部氏が持ち掛けたのが、ドローンを活用できないかというアイデアだった。2016年12月のことである。ドローンが出始めた頃で話題になっていた。「岩下さんに山梨でドローンを扱っているベンチャー企業の話をしたところ、じゃあ明日行ってみようと即決でした。実際、翌日に訪問し、ドローンを購入しました」と安部氏は語る。

 自分たちの課題から試行錯誤を始めた2人だが、彼らの目的はそれだけではなかった。岩下氏は、「我々は特別なぶどうを作りたいわけではありません。テクノロジーを活用してぶどう栽培のハードルを下げ、B級品を減らして収入の底上げを図りたい。これまで長くかかっていた新規就農者が自立できるまでの期間を短縮したいのです」と語る。

 岩下氏はJA梨北でぶどう生産部会の部会長を務めていたこともあり、地域課題である生産者の減少を食い止める活動も行っている。離農により空いた畑を借り受け、新規就農者にあっせんする事業である。これを行うには法人化が必要なため、新たに「クピド・ファーム」を立ち上げた。クピド・ファームで新規就農した人をサポートするだけでなく、経験の浅い人でも短期間で農業経営を確立できるよう、テクノロジーを活用して武器を与えようと考えたのである。

ドローンを活用した樹形把握の試行錯誤

 実際にドローンを使って空撮を始めてみると、予想以上に樹形がよく分かり効果を感じた。しかし、1枚の画像で畑全体を見ようとすると、多くの課題が立ちはだかった。広い範囲を1枚に収めようと広角レンズで撮影すると、角がゆがんでしまう。複数枚撮影して合成しようとすると、今度は画像の縮尺率が問題となった。合成するには各画像が均一の縮尺率でなければならず、同じ高度からの撮影が必須。均一高度を保ちながら畑全体を撮影するには、ドローンを精緻にコントロールする必要も出てきた。撮影ができても、自然な1枚にするためにどの程度画像をオーバーラップさせるべきかなど試行錯誤が続いた。しかも、実際に試せるのは葉が落ちて樹形が見える12月~3月の間だけだ。もちろんその間自分の畑の剪定作業も行わなければならない。

 課題を解決すべく、大手電機メーカーなど全国の様々な企業や研究機関を訪問したが、解決策はなかなか見つからなかった。「有望そうな話を耳にすると、すぐに話を聞きに行きましたが、その時点では多くは我々の方が進んでいました」(岩下氏)。

 様々なドローンやソフトウエアの調達や企業や研究機関を訪問する交通費など、費用面も課題だった。そこをサポートすべく動いたのがJA梨北である。「農林水産業みらい基金」を紹介。全国展開を見据えた事業計画が評価され、2016年度の助成金を受けることができ、開発に弾みがついた。「自分たちがやるべきことなのかと悩んだこともありましたが、やればやるほど課題が出てきて引くに引けなくなりました。資金力がなくこれ以上は難しいと思っていたときに、JA梨北の紹介で助成金を受けることができました」(岩下氏)。

 その後ドローンによる空撮や画像処理に強みを持つ会社とJA梨北がパートナー契約を結び、開発が進展。画像撮影から合成画像の提供まで全国展開する環境はほぼ整った。その流れはこうだ。空撮サービスを担当する会社の全国ネットワークにより、希望する畑にスタッフが訪問して撮影。撮影された画像はクラウドにアップし、クピド・ファームで合成して畑全体を1枚にした画像をクラウドで送り返す。画像を受け取った生産者は、仮に経験が少なく自分で判断できなくても、各地域のJAの指導員やベテラン生産者に画像を見せれば指導が受けられるようになる。

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低い棚の下からでは想像できない樹形の様子が空撮により把握できた

 実際に撮影した写真を見せると、熟練者からも“上から見てみたい”という反応が返ってきた。ベテランにとっても、低い棚の下から全体を想像するのは容易ではなかったのだ。