クラウドで小麦を収穫せよ!7日間の決戦

~農業×ICTで業務改革に成功したJAめむろが見据える未来

ICTの活用は農業ビジネスに何をもたらすのか。生産者の課題解決のため、2000年初頭から先進的な取り組みを続けてきたのが北海道のJAめむろだ。衛星画像を使って小麦の成熟度を判定するシステムを構築。2013年にはクラウドの活用を開始し、圃場での収穫状況をリアルタイムに把握することで小麦の品質向上と受入体制の大幅な効率化を実現した。JAめむろのデジタル革新の軌跡と、農業におけるICT導入を成功に導く秘訣を探る。

生産者一戸当たりの作付面積は東京ドーム7個分

 JAめむろのある北海道河西郡芽室町は、十勝平野の中西部に位置し、東西22.6km、南北35.4kmという広さを持つ。町を流れる十勝川、芽室川、美生川などの河川に恵まれ、肥沃で平坦な大地が広がり、その約42%が畑を中心とした農地だ。1戸あたりの作付面積は約33ヘクタールと、実に東京ドーム約7個分の広さになる。

 JAめむろで最大の作付面積を誇るのは小麦であり、約6,200ha。耕種作物のおよそ3割を占め、栽培品種は「きたほなみ」「ゆめちから」「キタノカオリ」の3品種である。その次は馬鈴薯で3,200ha。以下、てん菜(ビート)が約2,800ha、大豆が1,200ha、小豆が1,500haと続く。

小麦をはじめとした広大な畑作地帯が広がる北海道の芽室町
小麦をはじめとした広大な畑作地帯が広がる北海道の芽室町

小麦の収穫時期にはコンバインの取り合いに

 JAめむろが農業におけるIT活用を検討し始めたきっかけは、当時8カ所に分散していた生産物の受入施設を集約したいという思いだった。また、小麦の収穫に必要なコンバインはJAが購入し組合員全員で共用しているが、その利用の順番が問題だった。当時の課題を、小麦の生産農家である高野満氏は次のように振り返る。

小麦の収穫時期における生産者の悩みを振り返る高野氏
小麦の収穫時期における生産者の悩みを振り返る高野氏

 「小麦は発芽すると品質が落ちるため、発芽前に収穫する必要があります。また、子実水分が多いと受入施設で乾燥用の燃料などのコストが余計にかかるので、できるだけ水分が少なくなったタイミングで一気に刈り取りたい。収穫期に雨が降るとすぐ発芽する上に子実水分も増えるため、誰もがその前に収穫したいと思うわけです。小麦の収穫時期は7月末からの7日間程と短く、コンバインの利用希望が集中するので、いつも取り合いになり大変でした」

 一方で、取り合いになる割に、必ずしもコンバインがフル稼働していないという実態もあった。JAめむろ 営農部 農業振興センター長 長濱修氏は、「地域を9エリアに分け、グループごとにコンバインを配置しています。町の中央部は気温が高く生育が早いため収穫が忙しいのに、周辺の畑はまだ収穫期になりません。そのため、コンバインの稼働状況はエリアにより異なり、全体では最適ではありませんでした。全体の状況を把握し、遊んでいるコンバインをうまく応援に回せれば、町全体で大きなメリットが出せると考えていました」と語る。

収穫時期は7月末からの7日間程。日が暮れてもコンバインが走り続ける
収穫時期は7月末からの7日間程。日が暮れてもコンバインが走り続ける

「空からの目」で小麦の収穫時期を見極める

衛星画像の活用について話すJAめむろ 農業振興センター長の長濱氏
衛星画像の活用について話すJAめむろ 農業振興センター長の長濱氏

 ここでJAめむろが着目したのが、人工衛星から芽室町の圃場全体を撮影した画像を解析し、小麦の成熟度を判定、刈り取り時期を見定めて効率的にコンバインを融通する方法だった。長濱氏は、「広大な圃場を一元的に把握し、すべての生産者を公平に評価するには衛星画像の活用が有効だと考えました」と説明する。

 しかし一JAが、衛星画像を活用するまでにはどのような経緯があったのか。実現につながった理由についてJAめむろ 管理部 総務課 課長 山口正広氏は、「何よりも生産者の課題が明確だったことです」と断言する。

IT活用の経緯を語るJAめむろ 管理部 総務課 課長の山口氏
IT活用の経緯を語るJAめむろ 管理部 総務課 課長の山口氏

 「衛星画像を使った判定は当時米作での実用例がありました。芽室町にある国と道の農業試験場も小麦で試してみたいと考えていました。それが、生産者の課題解決のためJAが支援したいと思っていたことと、一致したのです。それからもう一つは、JAの経営層に“解決手段のひとつとしてITを用いる”という意識があったことも大きい。さらに組合員の理解もあり、一丸となって取り組むことができました。どれかひとつが欠けてもできなかったと思います」と話す。

 そして2003年、衛星画像を活用した「小麦収穫支援システム」が完成。近赤外線画像で葉緑素を分析して生育状況を予測し、圃場ごとの最適な収穫時期を予想できるようになった。高野氏はそのメリットをこう語る。

 「収穫の決定には現物の確認が欠かせませんが、以前はその地域のすべての圃場を見て回る必要があり大変でした。それが、システムから出力された地図画像を見ながら圃場の確認をピンポイントで行えるようになったことで、一人でも見回れるようになりました」

 さらに、収穫時期がずれるグループから応援が受けられるようになったことで、生産者の収穫作業を大幅に効率化。取り組みの結果、JAでは8カ所あった受入施設を1カ所に集約した。

衛星画像を解析することにより小麦の成熟期を予測できる
衛星画像を解析することにより小麦の成熟期を予測できる
JAめむろの受入施設の様子。収穫した小麦を適正な水分に乾燥させる
JAめむろの受入施設の様子。収穫した小麦を適正な水分に乾燥させる

ペーパーレス化で生産者にさらなる利便性を

 衛星画像の活用で大きな成果をあげたJAめむろだが、生産者の支援において、新たな課題が立ちはだかる。それは「ペーパーレス化」である。長濱氏は「当時は、最終的に衛星画像の解析結果をプリントして生産者の皆様に渡していました。せっかくシステムを作ったのに現場では紙の情報しかない。圃場には紙を広げる机もありませんし、紙が汚れたら使えなくなる。これを何とかしたいと考えました」と話す。

 だがすぐに取り組むことはできなかった。JAめむろでは、iPadが出始めた頃からこれを使って圃場で分析結果を確認したり、収穫した作物の情報を入力したいと考え、検証を始めた。しかし、都市部に比べて携帯電話のネットワークの整備が遅れていたため、地図情報の表示など場所によってはまったく使い物にならなかったのである。そこで大手キャリアに相談。町内の調査を経て、全域でネットワークが利用できる環境が整った。

 JAめむろは、満を持して新たなICT活用に乗り出す。ターゲットは2つ。衛星画像も含めた収穫情報の見える化とコンバインへの給油の効率化である。

 従来は、圃場で収穫時に情報をハンディターミナルに入力し、レシートを発行。作物とレシートをセットでJAに納品していた。レシートはJAの受入施設で読み取るが、土やホコリの舞う圃場で扱うため汚れやすく、読み取りづらい場合もあり、紛失の恐れもある。JAの受入施設に行ったトラックがいつ戻ってくるかも分からないし、受入側のJAも、いつ何がどれだけ荷卸しされるかが分からない。これらをペーパーレス化することで、すべての課題解決を図ろうとしたのである。

 また、収穫期にフル稼働するコンバインは、毎日1回は給油が必要だ。従来はコンバインが給油所まで行って給油していたが、畑が広大なうえ、コンバインは速く走れないので移動に時間がかかる。同時に給油するコンバインがいると待ち時間も発生し、非効率だった。

コンバインによる小麦の収穫風景。作業効率化には収穫情報の見える化が必須だった
コンバインによる小麦の収穫風景。作業効率化には収穫情報の見える化が必須だった