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2023.03.06
文=茂木俊輔
熱々の肉をほお張ると、じゅわっ、とうま味が口に広がる。赤身だけあってしつこさはなく、歯ざわりは柔らかい。ステーキに使われている肉は「えこめ牛」。JA菊池が2009年度から生産を始め、ブランド化を図るホルスタイン種のオス牛だ。
「えこめ」という名は環境配慮の「エコ」と飼料用の「米」に由来する。地元産の飼料用米を配合した飼料で肥育された肉牛に、その名がつく。
何が「エコ」なのか。一つは、配合飼料に地元産の飼料用米を用いることで、その多くを占める輸入穀物に頼らずに済むこと。その量が減れば、輸送時における二酸化炭素(CO2)の排出量削減につながる。
もう一つ、地下水の涵養源という水田が担う機能を維持できることだ。主食用米の需要や価格が落ち込む中、飼料用米への転換が進めば、休耕田化は避けられる。水が張られれば、涵養源としての機能は安泰だ。
「エコ」で、しかもおいしい「えこめ牛」。この「えこめ牛」こそ、畜産と稲作というJA菊池管内の2つの生産を結び付ける耕畜連携のつなぎ目である。

管内の農業を簡単に紹介しておこう。JA菊池は菊池地域の8市町村にそれぞれ所在していたJAが合併したものだけに、管内は、水田地帯、畜産地帯、露地野菜、施設園芸と多彩な顔を持つ。販売高は280億円規模。代表理事組合長の三角修氏は「1県1JAを除けば、全国500を超えるJAの中で15位以内です」と胸を張る。
主力は乳牛や肉牛を中心とする畜産だ。販売高で言えば、その80%以上を占める。西日本有数と言われる酪農地帯を抱え、「えこめ牛」のほか、熊本県を代表する先輩格のブランド牛「味彩牛」などの肉牛でも知られる。
耕畜連携の起点になったのは、主力産業を支える農家の悩み、すなわち家畜排せつ物の管理である。2004年11月、家畜排せつ物法が本格施行されたことで、野積みや素掘りといった不適切な管理が禁じられ、適正な管理や利用の促進が求められた。
それをきっかけに、JA菊池は堆肥作りに乗り出す。田畑を耕す耕種農家が土壌改良や栄養補給を目的に使う堆肥を、畜産農家が管理に困る牛ふんなどから作ろうというのである。堆肥作りは地元の畜産農家自らも取り組むが、設備投資や販路開拓の負担からJAへの期待は膨らんだ。三角氏は「『堆肥をうんと売ってくれ。そうすればオレら、牛ば増やせる』と、希望に満ちた声が上がるほどだった」とほほ笑む。

JA菊池では2005年度以降、堆肥作りを担う施設として有機支援センターを順次整備していく。現在は「旭志」「合志」「菊池」の3カ所で稼働する。
畜産農家はまず、ホイルローダーと呼ばれる建設機械で混ぜ合わせ1次発酵を済ませた牛ふんなどを、センターに持ち込む。それをセンター側が撹拌機を用いてさらに時間を掛けて2次発酵させ、堆肥を作っていくという工程だ。
この堆肥は、主に九州各地のJAを通して耕種農家に販売する。主要な取引先は、JA熊本市、JAやつしろ、JA福岡市と広域に及ぶ。営業担当は2人。「口コミを頼りに営業先を開拓し、売り込みをかけています。強みは、品質の高さです」(三角氏)。
畜産農家からは持ち込み時に1t当たり500円の処理料を受け取るが、堆肥作りは決して牛ふんなどの処理に留まらず、その利用促進を図る事業の一つ。最終顧客である耕種農家に提供する堆肥の品質に無頓着ではいられない。
品質確保のポイントは、腐熟度の管理、つまり完熟と呼べる状態に持ち込むことにある。「完熟に至れば、発酵熱で雑菌を死滅させられます。品質の低い堆肥では見知らぬ草が生えてくる、とよく言われますが、それは熱処理が不十分だから。JA菊池では腐熟度を水分の比率を基に確実に見極めます」(三角氏)。
センター職員は堆肥の生産に長ける。熊本県畜産課やJA熊本中央会などで構成される熊本県耕畜連携推進協議会(くまもと堆肥ネット)では良質な堆肥の利用拡大を図ろうと、一定の基準を満たす堆肥の生産者を「たい肥の達人」と認定する。達人には複数の職員が認定済みだ。

品質の高さと並ぶ強みは、ペレット堆肥を取り扱うこと。このペレットとは、バラ堆肥をさらに乾燥させ、小さな円筒形に成型したものだ。「散布時は、バラと違って大掛かりな専用機器は不要で、身近な機器でも扱えます。しかも大量に散布するなら、ペレットのほうが安上がりに済みます」(三角氏)。