「農業男子×総選挙」で魅せた東京の農業!

大消費地での農業理解、その可能性に挑むJA東京中央会

2020年10月、JA東京中央会(東京都立川市)のユニークなイベントが話題を呼んだ。題して「農業男子×総選挙 東京の農業は、オレに任せろ!」。14人の若手農業者から東京の農業をPRする「広報大使」を選ぶ企画だ。一見地味な企画に見えて、ふたを開けると選挙は激戦を展開。その模様は30以上のメディアでも取り上げられ、イベントは盛況のうちに幕を閉じた。なぜ今、「農業男子」に注目が集まるのか。企画の経緯や工夫について主催者に話を聞いた。

東京の食料自給率は1%

 日本国内の都市別食料自給率で東京はワースト1位。東京都内で収穫された農産物は、都民の年間消費量のわずか1%しかない。

 東京都の農家数は年々減少。1990年には3万5,535人いた農家は、2015年は約3分の1の1万986人(農林業センサス:各年度)。これに伴い農地面積も少なくなり、年間約100ヘクタールのペースで消失している。100ヘクタールとは、大根を栽培した場合、1,300万本を作れる面積だ。

 それでも今なお東京には多くの畑があり、就農者もいる。東京の農業が果たす役割やそれを支える農家に関心を持ってほしいと実施されたのが、JA東京中央会(東京都立川市)主催の「農業男子×総選挙 東京の農業は、オレに任せろ!」だ。

 東京都内にある14のJAから次代を担う20代~40代の農業者14人を選抜。一般投票により東京の農業をPRする「広報大使」を選ぶ投票企画で、今回が初めての試みだ。

 特設ウェブサイトで、候補者の農作業をする「ビジネス・オン」の写真と、私服やスーツ姿の「ビジネス・オフ」の写真を公開。親しみを感じてもらえるよう、候補者それぞれに「東京の畑の中心で、ITをさけぶ」「スマイリー・トマト・レボリューション」といったキャッチコピーをつけ、横顔を紹介した。

広告換算額は2億円を超え、大成功

 インターネットで全国から投票を受け付けたところ、2020年10月14日から12月15日まで約2カ月の期間中に、13万8,052票が集まった。12月24日に結果を発表した。

 得票数1位を獲得したのは、岡田啓太氏(JA東京むさし代表)。岡田氏は結婚を機に、江戸時代から約300年続く妻の実家「岡田農園」の15代目となり、就農4年目。実は社会人アメリカンフットボールリーグ(Xリーグ)LIXILディアーズに所属する現役選手で、アメリカンフットボール日本代表に2度、選ばれた実績を持つ変わり種。「総選挙をきっかけに、東京でこんなにおいしい野菜が作られているのかと、興味を持ってもらえる機会が増えた」と岡田氏は話す。

総選挙第1位の岡田啓太 氏。キャッチフレーズは「体格もやさしさもヘビー級」。三鷹市で年間約30品目の野菜を生産している
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総選挙第1位の岡田啓太 氏。キャッチフレーズは「体格もやさしさもヘビー級」。三鷹市で年間約30品目の野菜を生産している
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総選挙第1位の岡田啓太 氏。キャッチフレーズは「体格もやさしさもヘビー級」。三鷹市で年間約30品目の野菜を生産している

 岡田氏ら上位入賞者3人は今後1年間、広報大使として活動する。早速、初仕事として2020年12月27日、立川市で開催された男子プロバスケットボールBリーグ「アルバルク東京」の公式戦に出席。特設ブースでの撮影会やプレゼント抽選会などを実施し、大いに会場を盛り上げた。

 農業男子×総選挙への注目度は高く、全国ネットのテレビ番組や大手新聞などで数多く取り上げられ、広告換算額は2億円(2021年2月末現在)を超えた。従来の広報活動では例がないほどの広告効果だという。

広報大使としての初仕事となった、男子プロバスケットボールBリーグ「アルバルク東京」の公式戦の会場にて
広報大使としての初仕事となった、男子プロバスケットボールBリーグ「アルバルク東京」の公式戦の会場にて

近隣住民からのクレームがきっかけ

「農業男子×総選挙」を企画したJA東京中央会都市農業支援部広報課の大島誠明 課長
「農業男子×総選挙」を企画したJA東京中央会都市農業支援部広報課の大島誠明 課長

 なぜJA東京中央会は、こうしたユニークな試みにチャレンジしたのか。企画したJA東京中央会都市農業支援部広報課の大島誠明課長いわく「長年構想を温め続け、昨年やっと実現できた」という。

 それは遡ること8年前、1本のクレームの電話がきっかけだ。

 新聞の折り込みチラシとして、管内の家庭に広報誌を配布していた。その記事の中である農家を紹介すると、近隣住民が「農家を持ち上げるな」と電話をかけてきたのだ。

 日本の農業は主に3つに分けられる。山間部での農業、平野での大規模農業、そして「市街地およびその周辺の地域において行われる」都市農業だ。

都市農業の支援を続けるJA東京中央会都市農業支援部 江戸東京野菜普及推進室の水口均 氏
都市農業の支援を続けるJA東京中央会都市農業支援部 江戸東京野菜普及推進室の水口均 氏

 東京都内で営まれる農業の大半が都市農業の範疇に入るが、必ずしも農家と近隣住民が良好な関係を築いているわけではない。「都市農業の場合、住宅地の中に農地があるため、『土ぼこりで洗濯物が汚れて困る』『(堆肥の)においがくさい』といった不満を持つ人もいる。住民の身近にあり、生活と密接に関連しているがゆえに、他の地域にはない難しさもある」(JA東京中央会都市農業支援部 江戸東京野菜普及推進室の水口均氏)のだ。

 とはいえ、都市農業は都市住民にさまざまな恩恵をもたらしている。消費地に近いため、輸送する距離や時間が短く、より新鮮な農産物を食卓に届けられるほか、土に触れる機会の少ない子供たちに貴重な農業体験の場を提供したり、災害時の一時避難場所として活用されたりなど、多様な役割を果たしている。

 「都市農業の維持には地域との共生が欠かせない。そのためには、都市農業の持つ多面的な機能や重要性を多くの人に理解してもらうことが欠かせないと考えた」(大島課長)。