絶品の「せとだエコレモン」をご存じか?

危機を乗り越え、国産レモンが花開く、JAひろしま

国産レモンの生産量で日本一を誇る広島県の瀬戸田町。この町ではその座を60年間、守り抜く。首位陥落の窮地には幾度も立たされてきたが、日本一の誇りがそれを許さなかった。危機を迎えるたびに生産者を鼓舞してきた一人が、JAひろしまの理事で、せとだエコレモングループ会長の宮本悟郎氏だ。国産レモンの市場をさらに切り開いていこうと、「せとだエコレモン」という国産の安心を訴えるブランドを築き、強い産地づくりに取り組む。

 「帰ってこいやあ。レモン、売ってくれんかあ」。2003年、JA広島果実連東京支所長を務めていた宮本悟郎氏は、JAせとだ(現JAひろしま)の組合長から地元に戻るように声を掛けられる。実家は、広島県尾道市瀬戸田町、瀬戸内海に浮かぶ高根島の柑橘農家である。レモンは、ごく身近な農産物の一つだった。

 当時、国産レモンが売れない時期だったという。確かに消費量は限られる。ほかの柑橘類のように皮をむいて丸ごと食べるわけではない。生カキや唐揚げには欠かせないが、決して主役ではない。その限られた消費量を、輸入レモンと奪い合っていた。

JAひろしま 理事 せとだエコレモングループ 会長 宮本悟郎 氏
JAひろしま 理事 せとだエコレモングループ 会長 宮本悟郎 氏

 ところが、市場に出回るレモンの割合は当時、95%程度を輸入物が占めた。売り場はどうしても、輸入レモンに占領される。「しかも、売り場の広さは売れ行き次第ですから、国産レモンはスーパーの店舗内でも存在感を打ち出せませんでした」(宮本氏)。

 それでいて、生産量は日本一。1963年にその称号を得て以降、輸入自由化や寒波の襲来など荒波を乗り越えながら、トップの座を守り抜いてきた。日本一の生産量を、売り場では輸入レモンが圧倒的な優位に立つ中、どうさばいていくか――。

瀬戸内海の多々羅大橋(たたらおおはし)を背景に、国産レモン発祥の地を称える石碑がある。サイクリングで有名なしまなみ海道沿いに設置され、瀬戸田産レモンの歴史を観光客に伝える
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瀬戸内海の多々羅大橋(たたらおおはし)を背景に、国産レモン発祥の地を称える石碑がある。サイクリングで有名なしまなみ海道沿いに設置され、瀬戸田産レモンの歴史を観光客に伝える
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瀬戸内海の多々羅大橋(たたらおおはし)を背景に、国産レモン発祥の地を称える石碑がある。サイクリングで有名なしまなみ海道沿いに設置され、瀬戸田産レモンの歴史を観光客に伝える

皮まで安心して食べられるレモンとは?

 「瀬戸田産のレモンをブランド化し、販路を新しく切り開いていこう」。宮本氏は地元のJAせとだ(現JAひろしま)に転じ、その後の合併によりJA三原においてレモンの販売促進に携わる。JA広島果実連東京支所長時代には販売の最前線に立っていた。その経験から、やるべきことは見えていた。

 国産レモンはニッチな市場だけに、販路開拓の余地は十分に見込める。「新しいスーパーや生活協同組合(生協)でも扱ってもらえるようになれば、販売単価を下げることなく、販路を広げられると踏んでいました」(宮本氏)。

 その起点はあくまで、信頼関係を築いてきた卸売市場だ。販路開拓では多くの場合、直販の道を探るが、宮本氏はその道を選ばなかった。「市場を経由せずに直販にすると、事務量が増え、人件費もかさみます。未収金のリスクも生じる。たとえ手数料を支払ってでも市場の仕組みを活用するほうが得策です」。

 販路開拓には、市場の担当者からスーパーや生協のバイヤーに対して、瀬戸田産レモンの魅力を伝えてもらう必要がある。それには、その魅力をまず、市場の担当者に共感してもらわなければならない。では、魅力とは何か――。

 宮本氏が掲げたのは、「皮まで安心して食べられる」というキャッチフレーズだ。国産レモンは輸入レモンと違って店頭に届くまでの日数が短いため、防カビ剤を使用しないで済む。その安心感という魅力を前面に打ち出す戦略だ。

 実は1970年代には、輸入レモンの安全性が問われた過去がある。原因物質は、防カビ剤として用いられるOPP(オルトフェニルフェノール)と、TBZ(チアベンダゾール)。米国産グレープフルーツの皮から、食品添加物として日本では許可されていないOPPが検出されたという報道をきっかけに、その人体への影響や法制度上の課題が取り沙汰された。安全・安心の観点から国産レモンを見直す動きが、半世紀ほど前に起きていたのである。そんな出来事があったからこそ、「皮まで安心して食べられる」のフレーズが生きた。

取材を行った9月時点では緑色だったレモン。概ね12月から1月にかけて一気に熟し、イメージ通りの鮮やかな黄色に変化する
取材を行った9月時点では緑色だったレモン。概ね12月から1月にかけて一気に熟し、イメージ通りの鮮やかな黄色に変化する

 国産の安心をさらに強く打ち出すために宮本氏が活用を考えたのが、特別栽培農産物という国の仕組みだ。生産地域の慣行レベルに比べ、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下という条件の下で栽培された農産物として、都道府県の認証を得たものである。「減農薬・減化学肥料」を訴えることができる。

 しかし一方で、生産者自身の思いは複雑だった。足元で国産レモンの売れ行きは芳しくない。それでも、日本一の産地として安定供給を目指すなら、将来に備え、苗木を植えていく必要がある。「このままで大丈夫なのか?」。不安は尽きない。

 ブランド化に不可欠の特別栽培農産物の認証にしても、生産者にとってはリスクがある。「減農薬」を貫けば、それだけ病害を受ける危険が高い。外観が悪く、選果基準を満たさなければ、そのレモンは加工品の原材料に回さざるを得ない。加工品の原材料は生果に比べ、販売単価は10分の1ほど。特別栽培農産物の認証にこだわる余り、加工品率が上がると、生産者の収入は下がりかねない、という事情があった。

※本文中の二つ目の写真キャプションに誤りがありました。
 生口橋→多々羅大橋 に訂正(2023年12月26日)