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2026.03.05
文=茂木俊輔

連携活動の拠点は、JAたじま本店1階に置く「JJエリアセンター但馬」。2025年4月、農協観光から2代目センター長に就いた梅澤大助氏が常駐する。
役割は「従来の観光事業とは異なる人流、商流を生み出すのが、最大のミッションです」。梅澤氏はこう説明する。
農業関連の観光事業と言えば、野菜収穫や果物狩りが多い。観光客を農園に受け入れ、収穫体験を提供する。観光客とは一期一会だ。リピーターの獲得につながるようなストーリーはそこでは描きにくい。
「JJエリアセンター但馬」が目指すのは、より深い関係性の構築だ。但馬地域のファンを獲得し、その関係人口を増やす。「生産者には地域活性化を自分ごとと捉えてもらい、地域力を高めていきたい」(梅澤氏)
例えば、田植えと稲刈りの農業体験がある。田植えは5月、稲刈りは9月。一般的な体験だと年2回で終わるが、但馬では年4回とし、但馬地域ならではの工夫を凝らす。
秘密は生産する米だ。主食用米ではなく酒造好適米の五百万石にすることで、米づくりに続く日本酒づくりの工程を、体験メニューに加える。それにより、但馬に来る動機を増やした。
造り酒屋はこの地域で約300年前に創業した香住鶴(かすみつる)。酒造好適米は自社栽培田から収穫する一方、JAたじまからも仕入れている。

農業体験に香住鶴の参画が得られたのは、この関係性があったからこそ。「JAとしては、地元産米での酒造りを大事にしている香住鶴を支えたい」とJAたじま総合企画室経営戦略課課長の黒田祐介氏。主食用米が値上がりする中、酒造好適米の生産もしっかりと維持していく狙いもあり、話を持ち掛けたという。
参加者は、組織間連携に乗り出したJAたじま、農協観光、日本航空(JAL)それぞれの職員・社員。そこに香住鶴の社員を加えた15~20人。各組織で若手を中心に人選した。同世代の参加者が年4回、体験活動の場で一堂に会する。
日本酒づくりに向けた仕込みをすでに終え、販売に向けた準備を進める。「JALふるさとアンバサダーの意見を中心に、仕込みの配合を市販の取扱銘柄から変えてみたり、ラベルをオリジナルにデザインしたりと、販売促進に向けた工夫を凝らしています」(梅澤氏)
完成予定の日本酒は、4合瓶(720ml)で約3000本の数量を見込む。取扱店舗には、JAたじま管内の直売所「たじまんま」やJALのオンラインショッピングモール「JAL Mall」などが候補にあがる。
この農業体験を身内開催で試行した結果、組織間連携の効果は想像以上だった。
「地元の生産者は、日ごろ接する機会のない企業の社員からビジネス面での刺激を受け、企業の参加者は都会で仕事に励む日常を離れ、心の健康を取り戻す機会を得られます」。活動から得られた手応えを梅澤氏は話す。
そこでいま企画するのが、企業研修プログラムの提供だ。企業側の需要を掘り起こせるのではないか、と前向きに捉える。
可能性の一つは、エンゲージメント(仕事に抱く愛着心など)強化である。「農業体験を通じて、参加者に社会貢献の実感を抱かせることが可能です。『社会にとっていいことを、自分の会社でもやっている。ここでもう少し、頑張ってみよう!』。そんなふうに、会社に対する帰属意識を高めるのに役立ちそうです」(梅澤氏)
もう一つは、事業創出への期待である。多くの企業はいま、新たな成長市場を探り当て、持続可能なビジネスモデルの再構築に迫られている。農業体験はそのリサーチ範囲をぐっと広げる機会としても役立てられる。
「但馬地域でも、高齢化や空き家など地方特有の様々な課題を抱えています。この地域を実際に訪れることで社会課題を目の当たりにし、新規事業を生み出すヒントを掴むことにも繋がりそうです」(梅澤氏)
何より、企業研修なら企業社会に接点の多いJALグループの顧客基盤が生かせる。JALのネットワークを活かした活動は魅力的だ。「生産地に我々JAグループ以外の新たな人流が生まれます。これまでにない化学反応が期待できます」。梅澤氏は意欲を燃やす。