活躍する女性たち、“和牛女子”に訊く!

多様性を活かす経営、JAあいら

姶♡LOVE(アイラブ)和牛女子」というグループが、鹿児島県霧島市に本所を置くJAあいらの管内にある。経営強化に向けた研修や鹿児島黒牛(鹿児島産黒毛和牛)のPR活動をする団体だ。「姶」は「あいら(姶良)」の「あい」。英語の「I」との掛け合わせだ。繁殖農家を中心に、肥育農家の経営に関わる。子牛価格の下落や飼料・資材の高騰を背景に経営の厳しさが増す中、総勢37人の女性達が活動を繰り広げるその効果とは――。

 ふだん何気なく口にする和牛には多くの人手がかかっている。“繁殖農家”は、雌牛に子牛を産ませ、8~9カ月間の哺乳期間を経て家畜市場に出荷する。“肥育農家”は、子牛を競り落とし、成育を管理しながら約20カ月間育て、家畜市場に売りに出す。繁殖と肥育の間には見事な役割分担が見られる。

「姶♡LOVE和牛女子」会長 久留須美鈴 氏
「姶♡LOVE和牛女子」会長 久留須美鈴 氏

 とりわけ手間がかかるのが生殖段階を受け持つ繁殖農家だ。発情を見逃さずに授精を済ませたり、安全に分娩できるよう立ち合ったりするなど、臨機応変が求められる。子牛の健康管理も欠かせない。「休む間もありませんよ」。霧島市内で家族4人と従業員1人で雌牛約200頭を世話する久留須美鈴氏は笑う。

 約30年前、結婚を機に看護師から転じた際には愕然としたという。「以前は土日の休日がありましたからね。でもいまでは経営への欲が出て、休みを取りたいと思わなくなりました。いざとなれば家族内で交代で休めますし」。

 牛中心の日常にはむしろ感謝の念を抱く。「牛のおかげで毎日ご飯を食べられる。私たちの生活を牛が支えてくれているのです」と久留須氏。牛のいる暮らしを当たり前のものとして、いまではすっかり受け入れている。

久留須氏一家が営む「玉牧場」の外観(左)。朝から始まる牛たちとの仕事は、毎日欠かされることなく続く(右)
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久留須氏一家が営む「玉牧場」の外観(左)。朝から始まる牛たちとの仕事は、毎日欠かされることなく続く(右)
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久留須氏一家が営む「玉牧場」の外観(左)。朝から始まる牛たちとの仕事は、毎日欠かされることなく続く(右)

 基本は家族経営というのが持論だ。「生まれたての子牛は、人間の赤ちゃんのように弱いのです。体調不良があれば早期治療が欠かせません。ひとたびお産が始まったら、勤務時間が終わったからと言って帰れません。仕事そのものが日常の暮らしになるのです」と久留須氏は語る。

 仕事の性質上、家族経営が基本ともなれば、家族の誰もが経営の一端を担う立場となる。実際、久留須氏は家族経営の牧場運営会社で取締役の座に就く。JAあいらでも、非常勤理事の1人として4年目を務める。

 「姶♡LOVE和牛女子」は、その久留須氏が2020年2月に立ち上げ、以来会長を務める女性グループだ。新規就農者からベテランまで幅広い世代が集う。

 繁殖農家にとって和牛は愛すべき相手。「I LOVE」は分かる。しかし立ち上げの狙いは感情的なものだけではない。「まずは仲間づくり。次に経営力向上。さらに鹿児島黒牛のPRです」。久留須氏は結成の狙いを挙げる。

 背景の一つには、鹿児島黒牛の血統が全国に出回り、県内の家畜市場に子牛を買い付けに来る肥育農家が減ってきた、という事情がある。

ネットワーク構築力の強みを経営に活かす

JAあいら 東條史典 氏
JAあいら 東條史典 氏

 解説するのはJAあいらの東條史典氏だ。「鹿児島黒牛が評価された時代にその血統が全国に広まり、根付いていきました。そういった優秀な血統をもとにして全国各地で育種改良が進み、全国的なレベルが大幅に上がりました。その結果、よほど目新しい血統を求めないのであれば、わざわざ県内に買い付けに来る必要はありません。家畜市場ではこの20年、県外からの肥育農家がずいぶん減りましたね。だからこそ鹿児島黒牛は今でも全国トップレベルの品質であるとPRし続ける必要があるのです」。

 そこに子牛価格の下落である。JAあいらの資料によれば、2020年12月開催のせりで平均75万円近かった子牛価格は、2023年12月のせりでは同50万円を割るほどに下落している。一方で飼料や資材は、国際情勢の悪化や諸物価の値上がりから高騰するばかり。繁殖農家の経営は圧迫されるようになった。

 「繁殖農家の経営は大型化の傾向にあります。30年以上前はトラクター1台で経営していましたが、最近は4、5台で経営するのが当たり前です。コストはどうしてもかさみ、採算は悪化するばかりです」(久留須氏)

牛には1頭ずつ名前入りのタグが耳につく。写真の子牛の名前は「さらうどん」(左)。子牛への哺乳作業を自動化する「哺乳ロボット」。繁殖農家の大型化に伴い設備投資もかさむ(右)
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牛には1頭ずつ名前入りのタグが耳につく。写真の子牛の名前は「さらうどん」(左)。子牛への哺乳作業を自動化する「哺乳ロボット」。繁殖農家の大型化に伴い設備投資もかさむ(右)
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牛には1頭ずつ名前入りのタグが耳につく。写真の子牛の名前は「さらうどん」(左)。子牛への哺乳作業を自動化する「哺乳ロボット」。繁殖農家の大型化に伴い設備投資もかさむ(右)

 難局を乗り越え、将来にわたって経営を安定させるには経営力の向上が欠かせない。「和牛女子」の立ち上げは、そこに女性の力を反映させようという発想に立つ。狙いの一番にも挙げる「仲間づくり」。言い換えればネットワーク力である。「男性は経営について教え合うことが少ない。これに対して女性は、小さなことでも世間話の中で情報交換します」(東條氏)。

 その一方で、公式の場に出向くのは男性が多く、経営の一端を担う立場にありながら、これまで女性は月1回開催される家畜市場では同じ繁殖農家と顔を合わせるが、なかなか話す機会まで得られないのが実情だった。

 グループの結成を思い立った直接のきっかけは、「全国和牛能力共進会(全共)」の県内開催である。全共とは、全国和牛登録協会が主催する和牛の品評会である。5年に1度のペースで全国持ち回りで開催する。鹿児島県開催は2022年10月。久留須氏はその5年も前から、仲間に向けて来場者のおもてなしを仲間に呼びかけた。

 「2017年9月に宮城県で開催された全共で、女性陣が中心となって来場者をもてなしたと聞いて『女性の力って、すごい!』と感心しました。それならば鹿児島県でも全国から来場する畜産農家にふるまい汁を提供しようと思い立ったのです」

 呼び掛けたのは、姶良地域の女性農業経営士で組織する「ファームネットあいら」。この女性農業経営士とは、経営管理や労務管理に優れ、実践力や発言力のある女性農業者を県知事が認定するもの。久留須氏は若手育成を旗印に掲げ、女性農業経営士を中心に趣旨に賛同してくれる畜産農家の女性を募った。

「姶♡LOVE和牛女子」副会長 藤崎紀代子 氏
「姶♡LOVE和牛女子」副会長 藤崎紀代子 氏

 こうして集まったメンバーのうちの一人が、2023年4月から副会長を務める藤崎紀代子氏だ。久留須氏と同じ霧島市内で、夫と2人で雌牛約30頭を世話する。両親が営んでいた繁殖農家や施設園芸を継ぎ、この約10年間は繁殖農家専業として規模を拡大してきた。「目を掛け、手を掛け、声を掛け」を、モットーに掲げる。