ナガイモ発電所って何だ?

~廃棄物を宝の山へ! 野菜くずをエネルギーとしたJAゆうき青森

再生可能エネルギーの活用が進んでいる。その1つバイオガス発電は、家畜の糞尿や食品廃棄物など従来ゴミと考えられていたものをエネルギー源とする。JAゆうき青森は、ナガイモを出荷する際に出る廃棄物を使って、バイオガス発電に取り組む。なぜナガイモなのか? これまでエネルギー源として使われてこなかった野菜くずが、利用できるようになったのはなぜなのか。JAゆうき青森の取り組みを探る。

年間2000万円に上る廃棄物処理費削減を目指す

 JAゆうき青森は、2010年に地域の4JAが合併して誕生した。この地では合併前の2005年から「有機の里構想」を掲げ、土づくりを基本とした野菜づくりに取り組んできた。主力産品はナガイモ、にんにく、小かぶ、大根、生乳で、いずれも青森県でトップの生産量を誇る。

 JAゆうき青森がナガイモの廃棄物(以下、ナガイモ残渣)を活用できないかと考えたのは、日々大量に出る残渣の処理に多額の費用がかかっていたからだ。毎日40t以上のナガイモが出荷され、洗浄・加工の段階で先端部や傷んだ部分などの残渣が日に平均4.6t。これらを一般破棄物処理するための費用が年間約2000万円に達していた。この費用はすべて生産者の負担となる。これを少しでも減らしたいと検討を始めた。

毎日出るナガイモ残渣が平均4.6t。費用のすべてが生産者の負担となる
毎日出るナガイモ残渣が平均4.6t。費用のすべてが生産者の負担となる

 当初は、ナガイモ残渣を熱分解した際に発生する温水を利用して冬季のハウス栽培に活用したり、発酵させて堆肥を製造する試みなど様々な計画を立案した。当時についてJAゆうき青森 代表理事組合長 酒井一由氏は、「考え得るあらゆることを試しました。しかし、いずれも技術面や費用面の問題でうまくいきませんでした」と振り返る。

 事態が大きく動いたのは2015年のことだ。有機の里構想を打ち出した頃から取引があった愛知県の肥料メーカー小桝屋と共同で出願したパイロットスケールのメタン発酵実験が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の事業性評価事業に選定された。

実験は成功するも計画を断念

JAゆうき青森 代表理事組合長 酒井一由 氏
JAゆうき青森 代表理事組合長 酒井一由 氏

 NEDOによる補助事業は、ナガイモ残渣と牛糞尿をメタン発酵させ、バイオガス発電を行うというものである。しかも発電時に発生する排熱と排気ガス(CO2)を利用して植物工場で野菜を生産。発電後に残る消化液と呼ばれる残渣は、乳牛の混合飼料の品質向上に利用することを目指した。野菜生産と酪農で発生する廃棄物を多方面に活用しようというのである。植物工場は、当地で働く実習生に冬季の仕事を提供するという目的もあった。

 バイオガス発電は、有機ゴミの発酵により発生したバイオガスによりガスエンジン発電機を回すもの。有機ゴミを燃やして発生する熱を直接利用して蒸気でタービンを回すバイオマス発電と異なり、バイオガス発電は発電後に消化液が残り肥料や飼料に活用できるという特徴がある。「処理に困っていたナガイモ残渣と牛糞尿を使った発電だけでなく、排熱や残った消化液まで活用するリサイクル方式は画期的でした」と酒井氏。

JAゆうき青森 代表理事専務 営農経済担当兼務 乙部 輝雄 氏
JAゆうき青森 代表理事専務 営農経済担当兼務 乙部 輝雄 氏

 1年間にわたる実証実験は成功を収め、設備導入に向けた助成がNEDOから得られる見込みも立った。しかし、2016年、JAゆうき青森管内は台風の直撃により、大きな被害を受けてしまう。その結果、計画の断念を余儀なくされた。「台風による減収は1億2000万円に上り、新規事業に取り組むどころではなくなりました。発電に必要なナガイモの収量が激減したこと、国の補助事業制度が一部変更になり収支が見合わなくなったこともあり、計画は断念せざるを得ませんでした」とJAゆうき青森 代表理事専務 営農経済担当兼務 乙部輝雄氏は苦渋の決断を語る。

バイオ燃料をナガイモ残渣に絞り、規模を縮小して再チャレンジ

 その後NEDOのプロジェクトを共に進めてきた小桝屋から、自然エネルギーを利用した発電に取り組むイーパワーを紹介された。イーパワーはバイオガス発電所への事業投資機会を探しており、両者の目的が一致。1年間かけた再検討でNEDOの事業より規模を縮小し、改めてバイオガス発電に向けたプロジェクトが動き始めた。その際決まったのが、バイオ燃料をナガイモ残渣に絞ることであった。

 バイオ燃料に野菜くずを使うという試みは画期的だった。「北海道では家畜の糞尿を使ったバイオガス発電が行われていますが、野菜によるものは全国を見ても他にはありませんでした」と乙部氏。ではなぜこれまで野菜が使われてこなかったのだろうか。

 発電設備を経済効率よく利用するには、毎日安定して発電できなければならない。それに対して野菜は収穫期が限られる。収穫がなければ残渣も出ないため、バイオ燃料の調達にムラが出てしまい安定的に発電できない。ナガイモの収穫も11月上旬から雪が降るまでの間と、雪解け後の3月下旬から4月末ごろまでに限られるが、収穫したナガイモは冷蔵庫で保存でき、年間を通して毎日出荷されていく。そのため、バイオ燃料の供給を年間を通して平準化できるのだ。

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収穫したナガイモは冷蔵庫で保存され、年間を通じて出荷されている

 JAゆうき青森やイーパワーなどは初期投資にかかる資金の調達や設備を保有する法人として、新たに合同会社農業連携BG投資組合1号(以下、合同会社)を設立。補助事業を利用せず、日立キャピタルと日本アジア投資との共同出資により設備導入を実現している。発電所の土地はJAゆうき青森が貸与。契約期間は20年で、合同会社は契約終了後、発電設備を撤去し更地にして返還する予定だ。「実現にあたっては、NEDOの実験を行っていた1年間で蓄積したノウハウが生きました。売電すると補助事業が使えなくなることもあり、補助事業は使っていません」(酒井氏)。