脚光をあびた“葉っぱビジネス”の今!

デジタル導入×地方創生で持続した勝因を探る。いろどり& JA東とくしま

料亭などの料理に彩りを添える「つま物」。その生産をする“葉っぱビジネス”は、35年前の1986年にスタートした。1999年に導入されたシステムで、高齢の生産者がPCやタブレットを駆使した受注で盛んに報道されたため、ご存知の方も多いだろう。それから20年。当時60歳だった方は、80歳となる。日本各地で高齢化や過疎化が問題になるなか、葉っぱビジネスの生産体制や生産者数などはどう変化したのか。徳島市から車で約1時間強の山間部で行われている葉っぱビジネスの今を探った。

82歳の生産者がITを駆使してイキイキと働く

 家の周囲の山で、黙々とつばきの葉を摘み取るのは西蔭幸代さん、82歳である。出荷できる色や大きさの葉を選んで、次々と収穫をする。それを終えると次はパック詰めだ。葉の表裏を何度も拭いてきれいにしたうえで、同じ大きさの葉を10枚セットにし、美しく見えるようパックに詰めていく。「このビジネスは、技術も要るしセンスも要るんですよ」と西蔭さん。葉っぱビジネスというと、落ち葉を拾って販売しているイメージを持たれる方もいるかもしれないが、実際は生産者が木を植えて育て、それらの木々から収穫している。

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今回取材した西蔭幸代さん。慣れた手つきで丁寧に葉をパッケージに詰めていく

 このビジネスでとりわけ独特なのは、受注方法だ。取引先の注文をシステムで生産者に一斉配信。受注したい生産者は、出荷前日の19時、当日の8時と10時の3回、受注チャンスがある。ただし、この3つの時間帯に受注できるのは、1品目につき1ケースずつのみ。しかも早い者勝ちだ。この日西蔭さんはアヤメの花を受注したかったそうだが、別の生産者に先を越されたと悔しがっていた。西蔭さんは、「(8時に取りたい場合)7時59分59秒にボタンを押すんです。本当に競争が激しくて、秒単位で終わります」と話す。11時以降になると数量制限は解除され、取りたいだけ注文を取ることができる。

 以前のシステムはフリーズすることがあり、受注に支障が出ると生産者からクレームが相次いだため、3年前にクラウドベースでバージョンアップした。使われているのは、サイボウズの「kintone」を基盤に開発した受発注システム「IRODORI」だ。それほど生産者にとっては欠かせないシステムになっている。

 西蔭さんは、システムが導入された21年前は携帯電話も使ったことがなかったが、「今はスマホなしでは生活できません。どこにでも持っていきます」と語る。注文を取る時は、PCとスマートフォンの2台体制だ。「PCの方が反応が速いので、スマホを見ながらPCでボタンを押しています」(西蔭さん)。年齢を感じさせないハツラツとした西蔭さんにとって葉っぱビジネスは、最高にやりがいを感じる仕事だ。「この仕事には定年がありません。100歳まで現役でやりたい」と語る。

収穫の合間にもタブレットで取引先の注文状況をリアルタイムに把握する

コンビニ店のシステムを参考に情報プラットフォームを構築

(株)いろどり 代表取締役社長 横石知二氏

 葉っぱビジネスは、徳島県勝浦郡上勝町にある(株)いろどりの代表取締役社長 横石知二氏が立ち上げた。つま物商品群を彩(いろどり)と名付け、「彩ビジネス」と呼ばれている。「彩ビジネスがなく、上勝町が市町村合併をしていたら、今ごろ自治体として存続できていなかったかもしれません」と横石氏が語る通り、地域の代表的な産業となっている。

 彩ビジネスは、JA職員だった横石氏がつま物の需要に目を付けてスタート。JA時代は電話で各生産者に納品を割り振っていたが、受注量も生産者も増えるなかで電話での受発注に限界を感じ、会社を設立した際にシステムを導入した。横石氏は、「コンビニ店のシステムを参考にしました。個々の品目に付加価値をつけて、市場に求められる物を売っていくことを目指しました」と語っている。

 システム導入当時から多くの生産者が高齢者であった彩ビジネスにおいて、ITになじみのない生産者に対し、どのように利用拡大を図ったのだろうか。その問いに対する横石氏の回答は明快だ。「みんな他の人に負けたくないという気持ちが強いので、注文取りを早い者勝ちにして、個人の成績を見られるようにすれば、絶対に使ってくれると思っていました。もう一つ重要なのが習慣化です。たまにやるから忘れるのであって、毎日使っていれば高齢者でも忘れません」。

上勝町の葉っぱビジネスは多くの書籍でも取り上げられ、世界中から注目を浴びている

 彩システムでは、受発注の他、市場動向やニーズ、料亭などでの利用写真、出荷時の注意事項、クレームのフィードバックなど、多彩な情報を公開。生産者といろどりを結ぶ、情報プラットフォームになっている。例えば市場動向については、横石氏が市場で商談した際の様子を写真付きでリアルタイムにアップロード。実際にどのように販売されており、どのような要望があるのかを生産者に分かりやすく伝えている。市場視察の様子を横石氏は次のように語る。「毎月4~5回東京に行き、他の用事で行ってもできる限り豊洲市場や大田市場に行って取引先を回ります。いま、市場で物が一番動くのは夜中なので、夜中ずっと市場に居て話を聞き回り、その場でシステム入力して生産者に伝えています。今後通信が5Gになったら映像を送れるようになるので、もっとリアルに状況を伝えられるようになるでしょう」。

システム活用により生産者の奮起を促し高単価も実現

 いろどりはこのシステムを活用して受発注を行うほか、品目別や生産者別、月別などさまざまなデータを生産者に公開している。これにより、生産者は自分の成績を確認し、負けん気の強い人は奮起していっそう頑張るといった効果がでている。また、季節ごとの需要予測も可能になり、生産計画立案にも役立つ。これらのシステム活用について「生産者が日々データに触れることで、どうすれば売上が上がるかを習慣的に考えるようになったことが非常に大きいです。1回聞いただけでは忘れがちな連絡事項や注意事項も、すべてシステムに上げることで、忘れたら見るようになり、情報伝達が徹底しました」と語る。

市場動向がリアルタイムで把握できるので生産計画にも役立つ

 データ活用の効果は、価格設定にも好影響を及ぼしている。彩ビジネスでは、相場を見ながら出荷しているため、同じ品目を比較した場合、他地域と比べて単価が高いという。「安い時に出してもダメなんです。必要なところに、必要なだけ、必要なときに出荷することが一番大切です」(横石氏)。