さらば、耕作放棄地!

持続可能な地域農業を築く、JAアグリはくい

農業は儲からないと言われてきた。なかでも米作りで高い利益を上げるのは難しい。米の消費量減少や米価下落に見舞われ、経営環境は厳しさを増すばかりだ。儲からないため、離農者が増え、耕作放棄地が拡大していく。「負のスパイラル」をいかに断ち切るか。石川県にあるJAはくいは農業支援の枠を超え、JA自らが土地を借り受けて耕作する農業生産法人「株式会社JAアグリはくい」を起ち上げた。だが、耕作放棄地再生に向けた道のりは険しかった。破綻寸前を大逆転したターニングポイントとは? 理念、戦略、情熱の三位一体で持続可能な地域農業を築くその軌跡に迫る。
石川県羽咋市は、能登半島の入口に位置し東南部には能登地域最高峰の宝達山がそびえる
石川県羽咋市は、能登半島の入口に位置し東南部には能登地域最高峰の宝達山がそびえる
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 緑輝く田園風景の向こうに広がる日本海。石川県羽咋(はくい)市滝地区の景観は、2011年に国連食糧農業機関(FAO)が世界農業遺産に認定した「能登の里山里海」の玄関口にふさわしい。現在の美しい風景から、数年前まで耕作放棄地として一面が荒地だったとは想像しがたい。耕作放棄地を再生し、米作りを復活するためには、圃場整備とともに農業の担い手確保が必要となる。分野を問わず人材不足が深刻化する中、滝地区の再生農地で汗を流し、稲を育てているのは、JAはくいの子会社「JAアグリはくい」だ。

 JAアグリはくいの設立は10年以上前にさかのぼる。設立背景について、JAはくい 代表理事組合長 山本好和氏は振り返る。「2010年設立当時、少子高齢化や、自分の子供たちへの農地継承が難しいことなどにより、『先祖から受け継いだ田畑を維持できなくなる』と、組合員から多くの声が寄せられていました。将来的に農家に田畑を託したい、という組合員の要望に応えて立ち上げたのが、農地を引き受けて栽培を行う農業生産法人JAアグリはくいです。しかし、会社として果たして成り立つのかといった懸念がありました」。

JAはくい 代表理事組合長 山本好和 氏
JAはくい 代表理事組合長 山本好和 氏

 JAアグリはくいの農業事業は、地権者に地代を支払い、耕作権を借りて栽培する。収穫物を販売した売上は、JAアグリはくいの収入となる。だが、耕作地拡大が売上増大につながるかというと、それほど単純ではない。大事なのは、耕作地の質だ。

 「当初JAアグリはくいでは、地域で受け手のない田畑も受託対象としていました。そのため、条件の悪い農地ばかりが増え、耕作に手間がかかるため人員も増加しました。耕作面積は、2010年が従事者9人で14ha、2016年は従事者13人で33ha。通常、1人で10ha以上を耕作しないとビジネスとして成立しないのですが、1ha以下の飛び地が多く、効率も追求できない状況でした」(山本氏)

 JAアグリはくいの基本理念は、「組合員の農地はJAが守る」。理念実現には、持続可能な経営モデルが必要だ。しかし、売上はあがらず、人件費ばかりが増えるという状況だった。ターニングポイントとなったのが、2015年にスタートした滝地区農地再生モデルプロジェクトである。

太陽光発電の売電が農業生産法人の経営を下支え

 羽咋市滝地区は、能登半島の中央に位置する海沿いの地域だ。農業用水不足や小区画圃場のため生産性が低く、1994年の大干ばつ以降に離農が急速に進んだ。同プロジェクトのスタート時点では、耕作放棄地面積が45ha超、耕作放棄地率は90%以上に及んでいた。荒廃農地の再生は地元だけでなく、世界農業遺産の景観上の観点から石川県にとっても喫緊の課題だった。

農業生産法人 株式会社JAアグリはくい 代表取締役社長 渡長之 氏
農業生産法人 株式会社JAアグリはくい 代表取締役社長 渡長之 氏

 農地再生においても、再び荒廃農地に戻さないための“持続可能な地域農業”の実現が欠かせない。その中心的役割を担うJAアグリはくいの経営基盤強化を、一体どうするか。画期的なアイデアの提案が石川県からあったと、農業生産法人 株式会社JAアグリはくい代表取締役社長 渡長之氏は話す。「石川県の提案は、再生農地の一部で太陽光発電を行い、売電収入でJAアグリはくいの経営を下支えするというものでした」。

 JAアグリはくいは、農林中央金庫、JA共済連による「農山漁村再エネファンド」および地元羽咋市から出資を受け、約6億円で太陽光発電設備を建設。2015年12月から運転を開始した。設備は、発電出力が約2000キロワット(kW)、年間230万キロワット時(kWh)の電力供給が可能だ。売電の売上は年間平均7500万円程、ここから借入金返済や固定費、メンテナンスなどにかかる費用を差し引いた2500万円を財源の1つとして経営の安定化を図っている。

営農の妨げにならない場所の一部を利活用。山側の約3.2haに太陽光パネルが並ぶ
営農の妨げにならない場所の一部を利活用。山側の約3.2haに太陽光パネルが並ぶ
羽咋市 滝町会 磯見正夫 氏
羽咋市 滝町会 磯見正夫 氏

 しかし、再生農地の一部を太陽光発電に利用することに、地権者から反対の意見は出なかったのだろうか。当時、農地の集積・整備において、地域側の代表として活動した羽咋市 滝町会 磯見正夫氏は話す。「反対どころか、大賛成でした。というのも、地権者に求められた農地整備の負担金2.5%が実質ゼロになるからです。地権の多い人を集め、太陽光発電施設の用地として3.2haを確保し、それを羽咋市に売却。その資金で農地整備負担金に充てました」。

 同プロジェクトにおいて、滝地区の農地集積・整備では農地中間管理事業を活用した。農地中間管理事業とは、農地中間管理機構が農地の所有者から農地を借り受け、必要な場合は基盤整備等を実施し、農地の借り受け希望者に貸し付ける。羽咋市 滝町会 会長 本吉秀嗣氏は、土地整備後に新たに交付される換地は利害を生むため、換地の図面を何度も引き直して説得したという。

羽咋市 滝町会 会長 本吉秀嗣 氏
羽咋市 滝町会 会長 本吉秀嗣 氏

 「最終的に、全地権者169人から同意を取り付けました。地域農業の担い手としてJAアグリはくいが参入してくれたことが、地権者の同意を形成する上で大きな安心材料になったと思っています。また先祖代々の農地継承に加え、地権者に対するコストメリットも追い風となりました。今は、農地中間管理機構がJAアグリはくいをはじめとする貸付先から集金した地代を、滝町会で用水管理などの諸経費を引いて地権面積に応じて再配分しています。耕作放棄地の地権者にとって、収入ゼロで用水管理の負担金が生じる“負の資産”が、収入を生み出す土地に生まれ変わったのです」

 JAアグリはくいが、農地中間管理機構を通じて農地を借り受ける理由について、渡氏は説明する。「地権者の地元離れ、農地の相続人特定など、地権者の管理をJAアグリはくいが行う必要がなく、営農活動に集中できます」。