逆境をチャンスに変える「産地づくり」の競争戦略

~ブロッコリーで10億円の売上間近! JA島原雲仙

一般的に農畜産業は大消費地に近いほうが有利だ。市場まで近いほど鮮度を保ちやすく、輸送コストも安価に済む。そんな定説を覆した生産者がいる。JA島原雲仙の雲仙ブロッコリー部会だ。大消費地から遠いという弱みを強みに変え、高鮮度、高品質なブロッコリーを関東地方まで安定出荷。2001年からおよそ20年間右肩上がりの成長を続け、2019年には年間売上高9億円を突破した。新規就農者も増加し、スマート農業にも着手。成長が止まらない「産地づくり」の競争戦略を探る。

およそ20年で売上10倍に! 成長を続けるブロッコリー産地

 長崎県島原半島に位置するJA島原雲仙は、土壌や気象条件に恵まれた農業地帯を抱える。耕地面積は県全体の約24%ながら、農業粗生産額は約40%を占める。半島中央部に普賢岳を中心とした雲仙山系があるため、傾斜地が多く大半は畑作地帯だ。

 JA管内で生産量が最も多いのはいちご。その他は露地野菜が盛んで、馬鈴薯、大根に次ぐのがブロッコリーだ。JA管内全体のブロッコリー売上高が約11億円(2019年)。そのうち9.3億円を雲仙ブロッコリー部会の売り上げが占める。同部会は、2018年に掲げた販売目標7億円をクリア。2023年を目標にした10億円という目標も、2019年時点で達成目前だ。JA島原雲仙は島原半島内の11JAが合併して2001年に発足したが、当時の売上高は約1億円。それが20年間で10倍という大成長を果たした。

島原半島では1年間を通じ、様々な野菜や果物が生産される。ブロッコリーはJA島原雲仙管内で第6位の生産物だ

 雲仙ブロッコリー部会は現在65名。活発な活動と成果が広く知られ、近年は部会に加わりたいという農家が毎年10名前後ずつ増えている状況だ。

 多くの産地で農家と作付面積の減少が問題となるなか、なぜここまで右肩上がりの成長ができたのだろうか。

ブロッコリー専業農家の育成を明確な事業戦略に

 この地域のブロッコリー生産の歴史は古い。1970年代に旧 吾妻町(現 雲仙市)の農家による野菜研究会が始まりだ。その後、雲仙ブロッコリー部会の前身となる野菜部会が発足。部会員が中心となって98haもの畑地をまとめ、大規模な基盤整備を行った。機械化は個々の畑が小さいため難しかったが、それで可能となり省力化が進んだ。

 JA島原雲仙として組織的に産地育成に取り組み始めたのは、JAが合併した2001年前後からだ。当時、ブロッコリースプラウト(発芽野菜)のブームで市場ニーズも高まり、ブロッコリー生産に力を入れる機運が高まった。

JA島原雲仙 営農部 企画指導課 林和昭 氏

 だが、当初は課題が山積みだった。その一つが梱包作業の負荷だ。JA島原雲仙 営農部 企画指導課 次長(担い手対策課 課長 兼務) 林和昭氏は、「当時、ブロッコリーを段ボールに詰める作業が、大きな負荷になっていました。3kg箱に大きさや形に応じてブロッコリーを縦に詰めるには熟練が必要で、新規就農者には難しかった。そこで、6㎏箱に横に詰める方式に変更。横詰めなら置いていくだけなので、それほど習熟を必要としない。新規就農者の障壁も下がり、まずは成長のための基盤が整いました」と説明する。

 ここで林氏は、成長を加速させる大きな決断をする。産地づくりの機軸を、「大口のブロッコリー専業農家」の育成に据えたのだ。ブロッコリーは価格の乱高下が激しい品目だ。他品目も作りながら、価格変動にあわせてブロッコリーの生産量を決めるのは難しい。林氏は、「市場に信頼される産地となるには、安定出荷は不可欠です。ブロッコリー産地として成功するには、毎年作り続ける大規模な専業農家を増やし、成長するビジョンを明確に描く必要性を感じました」と語る。ここからブロッコリー生産地としての快進撃が始まる。

梱包・配送方法を産地の強みに

 前述のとおり大消費地からの遠い立地は、鮮度、コストにおいて不利に働く。弱みを克服して強みに変えるには、仮説を立て、検証しながら改善するしかない。成長するビジョンを描きながら、これを着実に実行に移した。

 2006年、包装に鮮度保持フィルムを導入。これまで以上の鮮度保持が可能になり、従来は広島が限界だった市場エリアが大阪まで拡大した。コストはかかったが、その分市場が拡大し単価がアップした。単価が上がったことで農家の意欲も高まり、耕作面積も拡大した。

 次に取り組んだのが、収穫時期の長期化だ。従来は秋から冬だけだった収穫期を、春まで延ばそうと考えた。4、5月に出荷する地域はどこにもなく、大きな差別化と単価アップが見込まれた。品種選定や作り方の工夫を重ね、秋から春までの8か月間にわたる収穫を実現した。

 一方で、春の出荷は気温上昇による追熟が早く、品質の劣化につながってしまうことが新たな課題となった。「鮮度保持フィルムだけでは鮮度を保てなくなり、新たな対策が求められました」(林氏)。

 そこで次なる施策として導入したのが製氷機だ。氷詰めによる低温流通により、5月でも品質を落とさず出荷できる体制を目指した。JA島原雲仙が主導し、2011年から実施。同時に従来の個選(農家自身が出荷物の等級を決めて箱詰めまで実施)から共選(等級選別や箱詰めをJAで実施)に変更した。また、集荷場の処理能力が限界に達していたこともあり、雲仙市吾妻町に製氷機を備えた新たな集荷場も建設した。

集荷場に集められたブロッコリーはすべて発泡スチロールに梱包される。鮮度を保つことができ、大きな差別化のポイントになった

 これにより低温配送が可能になり、ブロッコリー生産地として大きな優位性を得ることができた。製氷機の導入で市場エリアが関東まで一気に拡大し、更なる成長要因となった。林氏は、「東京は販売単価も高いのですが、かかるコストも違います。コスト増は個々の規模拡大でまかなうよう農家に提案してきました」と語る。現在、JA島原雲仙の販売先は関東までだが、鮮度を保てる雲仙のブロッコリーは、さらに関東圏の東京から北海道へも配送されているという。

ブロッコリー専業農家の 平林明人 氏

 共選になったことで農家の負荷も軽減した。大口専業農家の平林明人氏は、「JA主導で共選になった結果、品質が安定し単価が乱高下しなくなりました。個選作業は収穫と同じくらい手間がかかるので、そこを任せられるようになり、生産に集中できて助かっています」と評価する。

 産地をつくり、事業を軌道にのせることは容易なことではない。だが、JA島原雲仙は、明確な成長ビジョンを描き、PDCAを回しながら「産地づくり」に必要な手を打ち続けた。作ったものが確実に売れ、単価が上がれば、必然的に農家の意欲は高まり、生産面積も拡大する。大消費地から遠いという不利な条件に対し、集荷梱包・配送方法で差別化を図る攻めの施策でプラスのスパイラルを生み出し、ブロッコリーの一大産地を創り上げたのだ。