研修ハウスで1年みっちり“修業”

新規就農者を増やすJAグループ宮崎の挑戦

基本を徹底的にたたき込む

 晴れて研修生になると、きゅうり、もしくはミニトマトのどちらかを選び、一人ずつ700~1200m2ほどのハウスを任され、指導者からの指導を経て栽培の技術を身につけていく。この2品目に絞っているのは、もちろん、この地域の主力農産物であり、「たとえ失敗したとしてもやり直しが早い」(松山氏)という理由だ。特に、きゅうりはリカバリーが早く、仮に病気が発生してダメになっても、苗さえあれば植え付け後、約1カ月で収穫が始められるという。ミニトマトもそれほどではないが2カ月でなんとかなる。大きな病気にもかかりにくい。独立就農した場合にも、周囲に同じ作物を作っている人が多ければ支援も期待できるし、情報も手に入りやすい。

 研修では、そもそもの土づくりから、苗の植え付け、野菜を育てるための管理や収穫の技術、病気や虫害の対処法といった栽培技術はもちろん、農業経営の知識、補助金受給の方法に至るまで、今後の営農に必要なものをひと通り身につけていく。

指導員が一通りやって見せてから、研修生がなぞるように作業して覚える。左は研修生の有馬秀樹さん

 ジェイエイファームの研修では徹底的に基本を重視する。それが強い農家になる最善の道と考えているからだ。「余分な知識はいったん捨てて、一から始めてもらいます。そうして、これを身につければ間違いないという基本だけを学ぶ。あれこれ応用するのは独立して一本立ちしてからでいい」と松山氏。研修のスタイルは、一つひとつの作業を一通り指導者がやって見せて、その後に研修生がなぞるように作業しながら覚える。基本技術を自分の身に刻んでいくイメージだ。さらに、研修とはいいながらも、育てる野菜はジェイエイファームの商品だ。厳しいコーチが付き、基本を徹底的に身につけながら、プロとして本番の仕事をする。ジェイエイファームの研修は、いわば“プロ農家養成キャンプ”といえる。

左:ミニトマトを学ぶ永嶋義幸さん。前職は流通業
右:きゅうりを学ぶ宝徳一道さん。実家は宮崎できゅうり農家を営む

 こうした研修スタイルはかなりの成果を挙げており、実際に独立していきなり地域の中でトップクラスの収量を取る人がごろごろといるという。

独立就農への手厚いサポート

 研修終了後に独立する場合は、作物を作るための施設、つまりハウスを手に入れる必要があるが、この問題に対するサポートも手厚い。新しいハウスを一棟建てようとすると、1000m2当たり1000万円ほどの投資が必要になる。結果として初期投資は、2000万~3000万円といった金額になってしまう。資金力や融資のあてがなければ、おいそれと手が出せない。しかし、中古ハウスならこれよりも格段に安い。1000m2当たり数十万円から手に入る。このため、独立就農を果たす研修生は中古ハウスを選ぶ人が多い。

 中古ハウスは研修生が自らの責任で探すのが前提だが、その裏でJA宮崎中央とジェイエイファームも全力で探すという。研修生が人任せにしないようにあくまでも主体的に探させながら、並行してきちんとサポートするやり方だ。

入植団地というセーフティネット

 それでもなお、ハウスが見つからない可能性がないとはいえない。JA宮崎中央とジェイエイファームでは、このために二重にセーフティネットを張っている。

 1つ目のセーフティネットは、ジェイエイファームが運営する3カ所の入植団地だ。この入植団地は、中古ハウスが手に入らない可能性を想定して、JA宮崎中央とジェイエイファーム関係者が駆け回って宮崎市の補助を受けて建てたものだ。事業主体はJA宮崎中央、ジェイエイファームは入植団地の運営を行っている。

 14年に第一号団地(ハウス7棟)、15年に第二号(同4棟)、16年に第三号団地(同5棟)が完成し、現在合計16棟のハウスがある。研修生は、このハウスに空きがあり、申請が認められれば1年単位で最長3年まで借りられる。ハウスは、1棟当たり約1700m2~約2800m2と広く、加湿機や自動開閉機能の付いたフル装備のもの。賃料も1000m2当たり年間で約37万円と安い。独立1年目の営農条件としては、実に恵まれた条件といえる。現在、4人の研修生がこの入植団地で営農している。

団地名田野第1高岡田野第2
所在地宮崎市田野町七野宮崎市高岡町的野宮崎市田野町松ノ木原
農地面積(m22万13051万71171万5590
施設面積(m21万23481万13469828
倉庫面積(m2178177.5165
棟数1752m2×5棟2847m2×3棟1932m2×3棟
1794m2×2棟2805m2×1棟2016m2×2棟
設備加湿機加湿機加湿機
自動開閉機自動開閉機自動開閉機
循環扇循環扇循環扇
温灌水装置 温灌水装置
完成年2014年2015年2016年
ジェイエイファームみやざき中央が運営する入植団地の概要

 2つ目のセーフティネットは、ジェイエイファームが会社で所有するハウスだ。入植団地に空きがなかったり、申請が遅れたりするなど、何らかの事情で研修生が入植団地に入れないときに賃貸されることがある。こちらは現在、2人の卒業生が借りて営農している。

 強い意欲を持った人が、こうした万全ともいえるサポート体制の中に飛び込み、厳しく自立を迫られながら、研修に励む。研修生たちの独立心も旺盛で、卒業したらすぐに自前のハウスを手に入れて独立就農の道を選ぶ人が大半だ。

資金面での補助も手厚い

 研修期間中の生活費と、卒業後に独立就農していくための資金が気になるところだが、申請が認められれば補助金を受ける制度がある。特に研修生が45歳未満の場合は「青年就農給付金」制度が公的な仕組みとして用意される。かなり手厚い。まず研修期間中は「準備型」といって年間150万円を受給でき(最長2年)、独立就農に当たっては初年度に年間150万円の受給を受けられる。こちらは「経営開始型」と呼ばれる。2年目以降も所得に応じて、経営開始後5年目まで受給資格がある。

 45歳以上でも、宮崎県の場合1年の研修期間中は研修助成金として、年間144万円を受給できる制度がある。こうした助成金は行政だけでなく、なんと民間であるJAグループからも拠出されているのだ。「国の給付金制度が始まる前から研修生に対し独自の支援をしています。定年後もまだまだ元気な高齢者がいるほか、農家には定年がないといったことに魅力を感じる人が多いようで、最近は高年齢層がだいぶ増えました」と県中央会・営農対策部部長の三田井氏は語る。

宮崎方式が新規就農者を増やす道筋

 自前のトレーニング用ハウスを使って着実に成果を挙げるJA宮崎中央とジェイエイファームの事例は、宮崎県全体としても新規就農者を育てる大きな柱だ。県中央会・営農対策部部長の三田井氏もこの方式を県下全域に広げたいと考えている。

 「新規就農者は、スタート時点で失敗すると負担が大きい。継続していただくためにもまず1年目に平均以上の収量を上げてほしい。そのためにも技術を習得する、しっかりした研修体制が必要です。ある程度の規模のところでは、JA宮崎中央とジェイエイファームのように大きなトレーニングハウスを作り、そこに研修生を集めて技術研修をする仕組みが必要だと考えています」と三田井氏。

 実際に、県下の単位JAに対して2018年をめどに、トレーニング用ハウスを作る意思確認をしたところ、10JAほどが前向きに検討しているという。すでに建設に入った単位JAもある。

 もちろん現状の動きだけでは、県全体での農業従事者の減少を食い止めるのは難しい。しかし、単位JAがすべて同じような取り組みを進めていけば、新規就農者を増やす大きな流れができる。現に、全国各地のJAでは様々な形で新規就農支援の取り組みを行っており、2016年からはJAグループのWebサイトで地域・JA別に研修や助成の内容を検索できるページも開設されている。さらに新規就農者たちの成功体験が、また次の新規就農者の呼び水になっていく。こうした取り組みが1つずつ積み上がっていけば、担い手の減少に一定の歯止めがかかるはずだ。すべての地域で同じやり方ができるとは限らないが、宮崎方式は、日本中に新規就農者を増やす1つの道筋を示している。