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TACが導入されて初年度は地域のすべての担い手を順番に回ったが、2年目はより精度の高い活動を目指すこととなった。
「各エリアに対象訪問先が200件ほどありましたが、継続して訪問すべきところと、定期巡回の必要はないところがあり、2年目は各エリア70~80件に絞り込みました。全体を満遍なく回るのではなく、今後地域の核となる担い手を重点的に回るという考え方です」(藤本氏)
TAC活動が実を結んだ訪問先の1つがイチゴを栽培する徳永さん親子だ。息子の達也さんが後を継ぐことが決まっており、徳永さんとしてはより良い形で事業を承継したいと考えていた。
そんな徳永さん親子に、藤本氏はハウス内の地面より高い場所で栽培する「高設栽培」を提案する。設備増強に際しては国の補助事業を受けられるとはいえ、投資額は決して小さくない。そこで、藤本氏は徳永さんをすでに高設栽培を行っているハウスに案内し、現場を見せた。実物を目の当たりにしたことで、徳永さんは「これならばぜひ導入したい」とイチゴ生産者仲間4戸と協議し決断する。徳永さんは「藤本さんの紹介がなければ、このタイミングで高設化を決断できなかったと思います」と振り返る。長年JAで経験と信頼を得た藤本氏のネットワークも生かされた好例だろう。

農業にも投資は必要だが、いつ、何に対して、どのくらいの投資を行うべきか、その見極めは難しい。判断を誤れば、借金が残る。場合によっては次世代に背負わせることになりかねない。適切に投資を判断するためには経営分析が重要だが、農業者の多くは日々の作業に忙しく、年度末の青色申告に慌てて書類を整えるようなケースが多い。
この課題に対して、JAくまでは2つの新しい試みを始めている。
1つは青色申告の記帳代行だ。活動初年度、TACの先進地研修で訪問したJAそお鹿児島で、青色申告の記帳代行の話を聞く。星原氏が以前に青色申告を担当していたこともあって、すぐにこの話を持ち帰り、例の月次ミーティングで提案したところ、事業化が即決され、次年度に税務担当が課に配属された。
「私たち3人と税務担当は必要な研修を受けて、2017年度は管内15件を選抜して記帳を代行しました。農家さんたちの事務負担軽減に効果があることは明らかですから、2018年度は35件に増やしたいと考えています」(星原氏)

もう1つはJA熊本中央会・連合会 担い手・法人サポートセンターとの連携による経営分析だ。担当の冨岡美紀氏は毎週、JAくまを訪れ、TACたちの担当エリアを順番に同行訪問し確認していく。その支援活動はデスクワークにとどまらず、経営分析の結果をフィードバックするために、担い手のもとを実際に訪問するのだという。
「過去3年分の青色申告書から分析するのですが、重要なのは今後どうしたいのかということ。法人化したいのか、規模を拡大したいのか、後継者がいないから規模を縮小したいのかなど、それぞれに課題も目標も違いますし、何をするにしても現状把握が必要です。担い手さんから『今までは年次決算しか見ていなかったが今後やるべきことがクリアになった』と言っていただけるとやはり嬉しいですね」(冨岡氏)

中央会・連合会では税理士による税務相談も受け付けており、より深い相談事が必要な場合はそちらを紹介しているという。
中央エリアと下球磨エリアを担当する久保田氏は違う角度の支援の必要性を説く。
「農業は天候に左右されるものですが、悪い影響を受けたときだけでなく、天候に恵まれた年も早い段階から対策が必要だと思いました。例えば、昨年はタバコが想定以上に好調だったので、所得も相応に増加します。それが意味することに気づいたときにはもはや十分な節税対策ができない時期。2018年度からは節税のことも考えていきたいと思っています」(久保田氏)
TACの日々の活動はTACシステムに記録されている。2017年1月から12月の面談件数は合計4219件。月間300件から400件、1人あたり月間100件以上の面談を行っている。1日の訪問件数は6~7件くらいだという。
「今は訪問すればにこやかに喋ってくれますが、初年度はとにかく話をしてくれなくてね(笑)。新規就農者や後継者は20代がほとんど。彼らから見たら、私たちは父親どころか、おじいちゃんくらいの年代でしょう。『クルマが好きなの?』とか趣味の話題を持ちかけたりして、少しずつ会話を増やしていきました。今回のことを通して、人の意見を聞き出すのは難しいとつくづく思いました」(藤本氏)
そんなTACたちの丹念なコミュニケーションの積み重ねで、状況は確実に良い方向に進んでいる。ズッキーニのように新しい地域の農業を支える柱が育ち始めたことも、地域の理解を得る好機になったことだろう。TAC開始2年目からは相談内容の6割超を営農関係が占めるようになり、経営や法人化に関する相談も伸びた。


JA熊本中央会・連合会 担い手・法人サポートセンターの担い手・法人担当課長の樅木浩介氏は「巡回件数は全国のTACのなかでも上位に入るし、発足当初から巡回ペースが落ちていない」と、TACたちの奮闘ぶりをたたえる。
「JAは農業所得の増大、地域の活性化を目指し活動をしていても、その内容が組合員・地域住民に伝わりにくい。しかし、TACが地域を巡り、現場の声を役員に届けて、JA一丸となって課題解決に取り組むというTAC活動を通して、JAの業務全体を知ってもらえているのではないでしょうか。だからこそ、JAくまのTAC活動は成果が出ているのだと思います」(樅木氏)
このように、JAくまでは、ベテランの確かな技術と経験が生かされ、TAC活動を通じて地域の担い手に伝わり、次世代の地域農業の発展につながろうとしている。企業において課題となっているベテランの技術やノウハウの伝承、共有をどのように進めるか、参考となるヒントがあるかもしれない。
今後の課題を言えば、TAC活動そのものの後継者の育成だ。4月から星原氏も、藤本氏、久保田氏と同じく嘱託職員になる。この活動をいかにして未来へとつなぐかだ。