クラウドで小麦を収穫せよ!7日間の決戦

~農業×ICTで業務改革に成功したJAめむろが見据える未来

収穫時期の7日間、絶対に止まらない仕組みとしてクラウドを選択

 これらの課題を解決する新しいシステムの基盤としてJAめむろが選択したのは、クラウドだった。その理由を山口氏は次のように語る。「収穫期の7日間は、システムを絶対に止められません。しかし、システムの専門家ではないJA職員が絶対にトラブルを起こさない運用を電算室で行うことは難しい。クラウドなら専門家に運用を任せられるし、自動でバックアップをとる仕組みも簡単に利用できます。そして、将来の農業データ連携に備える上でも、クラウドが最適と考えました」

 年に7日間だけ集中的に使うシステムなので、費用的にもクラウドが有利だ。そこで、JAめむろが主体となって開発パートナー探しと、生産者の要望の吸い上げを実施。システム構築に必要な費用は、JAめむろが全額を投資し、構築をスタートさせた。

 「パートナー選びは苦労しました。まず“絶対7日間止めない”という条件で辞退する企業も多かったですね。一方で“全部できる”という大手も多かったのですが、最終的には位置情報のノウハウを持っている東京のベンチャー企業と組むことにしました。大手に頼んでも結局そこから先は外注ということも多い。それでは意味がありません。最終的にパートナーに選んだ企業にも、外注は使わず必ずプロパー(正社員)で作ってほしいとお願いしました」(山口氏)

 収穫期の重要性について生産者の高野氏もこう語る。「小麦の収穫はタイミングが命です。タイミングを失うと、数百万円単位で売り上げが変わってきます。生産者はシステムのことは分かりませんが、“ICTで何が良くなるのか”をJAが伝えてくれ、支援してくれるのはありがたかったですね」

収穫する生産者と受け入れを行うJAをクラウドがつなぐ

 収穫情報の見える化を行う「収穫支援システム」は、レシートの代わりにデータ通信によるペーパーレス化と非接触のICカード(FeliCa)を採用。生産者が圃場で、タブレットを使ってクラウドのシステムに入力した内容をICカードに書き込み、収穫した小麦をJAの受入施設に荷卸しすることにした。これにより、ICカードをかざすだけで受入施設に情報を渡せるようになった。圃場でもJAでも、情報をリアルタイムに閲覧可能になり、JAでは何が、いつ、どれだけ荷卸しされるかを事前把握が可能に。生産者は、JAに受入された時点の品質情報をすぐに確認できるようになった。具体的な成果として収穫時の小麦の水分が、平均35%から28%と大幅にダウン。それに伴い乾燥用の燃料コストも削減できた。さらに、JA保有のコンバイン数も、50台から35台へと大きく減らすことができた。

収穫支援システムはクラウドとICカードによって完全なペーパーレス化を実現
収穫支援システムはクラウドとICカードによって完全なペーパーレス化を実現
収穫支援システム画面例。生産者もJA側もタブレットで様々な情報をリアルタイムに確認できる
収穫支援システム画面例。生産者もJA側もタブレットで様々な情報をリアルタイムに確認できる

 また、給油支援システムでは、コンバインの位置情報を画面で把握。コンバインが給油所に行くのではなく、給油車がコンバインに行って給油するようになり、コンバインは刈り取りに集中できるようになった。その結果、収穫時期を通してコンバインが使用する燃料を約300時間分、給油車の台数を3分の1にまで削減できた。現在では、コンバインが動いていない夜間に、給油するまでになっている。給油担当者も昼は別の仕事ができるので、都合がいい。

給油支援システム画面例。次に給油に向かうべきコンバインはどこか、マップと共に表示される
給油支援システム画面例。次に給油に向かうべきコンバインはどこか、マップと共に表示される

 このシステムは、農産物収穫適期支援システム「Good Timing(グッドタイミング)」と名付けられ、2013年から稼働を開始。クラウドに情報を集約し、どこにいても関係者が必要な情報をリアルタイムで確認できるようになったことで、生産者・JA双方にとって、なくてはならないツールへと成長。ペーパーレス化と農作業のデジタル革新を実現した。

 高野氏は「圃場間を移動する時間も、収量や品質に関わってきます。移動が効率的になり、移動時間が大きく短縮されました。収穫データを入力するストレスもなくなり、現場で働く人数と疲労が軽減されています。その分、収穫する小麦の品質を追求することに集中できるようになりました」と話す。

東京の展示会でクラウド企業のアマゾンも注目
「ITpro EXPO 2013」に出展したJAめむろのブース。クラウド活用の発表が注目を集めた
「ITpro EXPO 2013」に出展したJAめむろのブース。クラウド活用の発表が注目を集めた

 Good Timingで大きな手ごたえを感じたJAめむろは、東京で開かれたICTの展示会「ITpro EXPO 2013」にユーザー企業として出展した。その時目の前にあったのが、巨大クラウド企業であるアマゾン ウェブ サービス(AWS)のブースである。JAがクラウドを活用していると話題になったことからアマゾンの担当者が興味を持ち、JAめむろのブースを訪問。そこから、アマゾンと直接コラボレーションした新たなシステム構築が始まった。現在アマゾンのクラウド(AWS)上で稼働しているのは、肥料の入出庫在庫管理システムである。今までわかりにくかった肥料の受払施設の状況を、スマートフォンから把握可能になった。

生産者に寄り添い最新ICT活用に取り組む

 ICT活用を積極的に推進してきたJAめむろだが、山口氏は、むしろ「生産者にはシステムを意識して欲しくない」とし、次のように語る。「システムが何かは、生産者にとってはどうでもいいことです。だから、基本的にシステムの話はしません。生産者にとっては農作業に必要な情報が自由に手に入り活用できることが重要です」

 高野氏はJAが果たした役割について、「生産者はそれぞれ課題を感じていましたが、こうしたICTの活用となると個人レベルで実現するのは難しい。冷静に現場の外から見て、専門に課題に向き合ってくれる人が必要です。それを担うのが、現場以外の様々な情報を知っているJAだと思います。JAがいなかったら、ここまでの活用は進んでいないでしょう」と評価する。

 生産者の使い勝手を追求する一方で、次世代のICT活用に向けた情報収集も欠かさない。たとえば、内閣府が推進する「農業データ連携基盤協議会(WAGRI)」にも参加。これは、農業分野でのデータ利活用を推進するため、標準化やデータ連携基盤構築を目指す取り組みだ。「農業のデジタル化を推進するには、異なる農機メーカーやシステムのデータを連携する必要がある。それを目指すWAGRIに期待しています」と山口氏。

 トラクターの自動操舵など新たなチャレンジも検討中だ。高野氏は、「芽室町の600戸の農家のうち、後継者のいない農家が約100戸あります。しかし町全体で20,000haの圃場があります。生産者の減少が進むなか、今後もっとICTを活用することにより、未経験者でも農業に取り組めたり、少人数でもできる農業になればいい」と期待を語る。

将来の担い手不足が予想される中、生産性向上を支援するICTへの期待は大きい
将来の担い手不足が予想される中、生産性向上を支援するICTへの期待は大きい

デジタル革新により新たな農業の課題も浮上

 このようにICT活用を進めてきたJAめむろだが、新たな問題も浮上している。2018年は天候不良により初めて衛星画像が撮影できなかった。長濱氏は、昨年の状況を次のように振り返る。「システム導入後、写真を見ながら小麦の生育状況を判断してきた人は、圃場の小麦の状態を見て判断することができなくなっていました。そこで、どうやって判断するかを改めて伝えました。そういう意味では、去年の出来事は勉強になりました」

 今後、農業にもAIやIoTなど最先端のICTが適用されていくのは必然だ。しかし、システム依存の結果、人間の判断力の低下が起こる中で、経験値やノウハウの伝承という課題も残る。「農業は人と気候と土壌が基本であり、最終的には人が判断しなければなりません。システムが出した結果を見て、それを応用できるかどうか。得られた情報を倍にして活用できるような人材育成が不可欠です」(長濱氏)。

 限られたリソースのなかでJAめむろは地域連携も進めている。十勝地方の24JAの連合会である十勝農協連では、JAめむろも協力し、土壌に合わせた肥料設計や、設計した肥料を端末から発注できるしくみを開発中だ。JAめむろの「小麦収穫支援システム」についても、十勝農協連で取り組み、衛星画像の地域一括購入によるコストダウンを実現している。「もはや、単独のJAだけでICTに取り組む時代ではありません。地域で協力し、生産者が使いやすく、役に立つICT活用を推進したい。また、異業種連携を加速させ新たなイノベーションを創出することも農業分野では必要です」(山口氏)。

 生産現場に寄り添いながら農業のデジタル革新を推進してきたJAめむろ。これから先も、地域JAはもとより国や他業界とも連携し、その挑戦は続く。

農業経営の課題を解決し生産者の力となるICT活用を目指し、JAめむろの挑戦は続く
農業経営の課題を解決し生産者の力となるICT活用を目指し、JAめむろの挑戦は続く
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