クルーズ船で「おきなわ和牛」を売れ!

香港クルーズ船に販路を開いたJAおきなわの挑戦

「売りっぱなしにしない」船内イベントで魅力を伝える

 クルーズ船「ワールドドリーム」での提供が決定し、次にJAおきなわが取り組んだのは、『おきなわ和牛』の認知度向上作戦である。販売促進のためには何よりもまず『おきなわ和牛』の魅力を乗船客はもちろん、調理スタッフやクルー達にも理解してもらうことが必要だった。

 JAおきなわは思い切った行動に出る。2018年4月と8月の2回、輸出戦略室を中心とするJAおきなわの職員延べ11名が1週間クルーズ船に乗船し、船内で調理実演と試食イベントを開催したのである。

 「クルーズ船側は協力的で、調理実演のステージとなる場所を提供してくれただけでなく、一流のシェフがサポート役を買って出てくれました。彼らの意気込みに、我々も負けていられないと思いました。JAが食肉を売りっぱなしにせず、クルーズ船のスタッフと一緒になって活動できたことは、良かったと思います」(榮野氏)

 イベントでは調理風景を大型モニターでリアルタイム中継するなど乗客の興味を喚起。さらに、試食によって美味しさを体感してもらう演出で、「船内のレストランでまた食べたい」というファン層の拡大に努めた。またJAおきなわの要望に応じ、船内売店に黒糖やシークヮーサー飲料など加工品の特設コーナーを設置。常時陳列で拡販を支援した。

おきなわ和牛の調理実演の様子。背後のモニターに調理の様子が生中継されている
おきなわ和牛の調理実演の様子。背後のモニターに調理の様子が生中継されている
船内に用意されたシークヮーサージュースなどの加工品販売コーナー
船内に用意されたシークヮーサージュースなどの加工品販売コーナー

 JAおきなわでは、船内のレストランで提供する和牛の食べ方の提案も積極的に行った。ステーキ用途の提供だけでは限られた部位しか買ってもらえない。より幅広い部位を無駄なく採用してもらえれば、さらなる販売拡大と安定供給にも結びつく。

 「例えば『霜降り状にサシがのっている肩ロースは、薄切りにしてしゃぶしゃぶにすると美味さが引き出せます』など、部位ごとに最適なレシピについても提案を行いました。出汁文化がない彼らは、しゃぶしゃぶに昆布出汁を用いることで、お湯で茹でただけでは出せない深い旨味が出ることにも驚き、熱心に耳を傾けてくれました。逆に総料理長からは、『脂肪が少なく柔らかいモモ肉のブロックをローストビーフにすると大変美味しい』という話がありました。また脂身の後味をさっぱりとさせる、爽やかな香りと酸味のシークヮーサーソースを使った和風レシピも好評でした。お互いが自由に意見を言い合える関係性が奏功して、メニューの幅が広がり、いろいろな部位を買ってもらえるようになったのです」(浜門氏)

船内の鉄板焼店での調理実習風景。JAおきなわの職員がレクチャーしている
船内の鉄板焼店での調理実習風景。JAおきなわの職員がレクチャーしている

好評を受け『おきなわ和牛』提供クルーズ船が4隻に

 「ワールドドリーム」船上での2度にわたる試食イベントや、バリエーション豊かなメニューづくりが功を奏し、『おきなわ和牛』の販売は着実に伸びていった。事実、4月からわずか3カ月で『おきなわ和牛』売上げは1,000万円を突破したのである。「来月も乗船するので、仕入れておいて欲しい」と、リピート注文する乗客も現れた。

 JAおきなわとクルーズ船スタッフによる一連の取り組みを評価し、2018年8月、ゲンティン香港グループは『おきなわ和牛』を提供する船数拡大を決定する。JAおきなわはゲンティン香港傘下のスタークルーズ社と新たに調印式を交わし、同社が所有するクルーズ船「ヴァーゴ」「ジェミナイ」「アクエリアス」の3隻に対しても、『おきなわ和牛』納入ができるようになった。

 こうして「洋上の販路」が拡大した結果、2018年11月、クルーズ船4隻合計での販売数量は牛肉8.5トン、豚肉1.5トン、青果物6.3トン、加工品2,300ケースに達した。ちなみに2018年度のクルーズ船に対する『おきなわ和牛』の総生産量140tに占める割合は、約6.1%となっている。

 輸出戦略室では、さらなるイベントや仕掛けづくりで、拡販を加速していきたいとしている。クルーズ船の入港期間は3月~11月だ。そこで、2019年度の就航が再開される3月には、「野菜ソムリエ」を同行した船上イベントを企画。『おきなわ和牛』とともに、ゴーヤやシークヮーサー、島らっきょうなど、沖縄ならではの農産物を使った「創作和牛料理」の実演で、さらなるファン獲得を図る。その後も5月に大規模な「和牛フェア」、6月には和牛に加えてパインやマンゴーなど沖縄の果物を取り入れたイベントを計画中だ。

クルーズ船での販売を契機に県内での消費拡大に

 時間的にも経済的にも余裕があるクルーズの乗船客は、アジアの富裕層の中でもさらにアッパー層だ。いわゆる「爆買い」などへの興味も薄く、寄港地での消費行動はそれほど活発ではない。JAおきなわでは、船上での「おきなわ和牛」販売を契機に、それを地域商業の活性化にもつなげていきたい、としている。

 「クルーズ船の乗客は船内消費に終始し、那覇で降りた時間にあまり消費していないという傾向があります。そこで船上で『おきなわ和牛』をはじめとする沖縄の特産物や料理、文化を知っていただいたお客様に、寄港地の地元レストランや商業施設での体験型の消費を提案していきたい。クルーズ船では毎週5,000名の乗客が入れ替わります。つまり、毎週5,000名に沖縄をPRできる場所でもあるのです」(浜門氏)

 また生産者の所得拡大の面では、枝肉の購買単価を上げることに尽力したいと、榮野氏は次のように話す。

 「クルーズ船でおきなわ和牛を販売することで、ブランド価値を高め、沖縄独自の枝肉相場を作っていくことができれば、生産者の所得にも貢献できると思います。逆に、クルーズ船で使わない部位を県内でうまく使うようにすることで、部位ごとの価格差をなくしていく取り組みもしていきたいですね」

 JAおきなわでは今後、ゲンティン香港のシンガポール航路での加工品試験販売や、海外の顧客が沖縄の特産品をオンラインで購入できる通信販売にもトライしていくという。生産者の所得拡大というゴールを見据え、JAおきなわ 輸出戦略室の挑戦は続く。

拡大する沖縄のインバウンド市場への取り組みを語ってくれた浜門氏と榮野氏
拡大する沖縄のインバウンド市場への取り組みを語ってくれた浜門氏と榮野氏
JAおきなわの取り組み