大豆をスイーツにする意外性がヒット商品を生んだ

復興の象徴の枠を超えたJA仙台の「仙大豆プロジェクト」

ブランドの注目度を上げるため土産物を開発

 最初に取り組んだのは土産物である。JA仙台としては、本当はより多くの大豆を使える主食を狙っていた。しかし柿沢氏は、ブランドの立ち上げ時には注目されることが重要で、目立つ土産物を作るべきと主張した。実際のところ価格競争になっては一般の食品メーカーには太刀打ちできない。その点、魅力的な土産物なら少々高くても買ってもらえるし、仙大豆という地名を織り込んだネーミングも有利に働く。また、土産物の消費の多くは女性がカギを握っており、女性が飛びつく商品はメディアも積極的に取り上げるのではと仮説を立てた。土産物の定番と言えばやはりスイーツ。生鮮品の場合、消費期限が短く生産調整や在庫管理が難しいが、ドライなスイーツならその点も比較的容易となる。そのような検討を経てできたのが「仙大豆・ソイチョコ」である。これが当たり、多くのメディアが取り上げ知名度が上がった。

 実はJA仙台がブランド作りに取り組むのは2度目だった。1度目は震災前のことである。しかし、うまくいかなかったと小賀坂氏は次のように語っている。「コンサルタントを起用したのですが、うまくいきませんでした。その反省から、自分たちが主体的に取り組むことが重要だと感じていました」。半年間かけてしっかりとしたコンセプトを固めたのは、この反省を踏まえてのことだった。

 今回のポタジエとの協業は、互いに納得しながら進めることができた。「手伝うけど、主体はあなたたちにあると釘を刺されました」と小賀坂氏。ポタジエは商品開発には協力するが、売り場までは探してくれない。そこで、自分たちで営業に歩いたり、積極的に商談会に出向いて販路開拓に動いた。現在県内ではJRの駅と商店街に各2店舗および仙台市内のホテル、仙台空港で販売。その他首都圏の駅や空港の土産物店でも販売している。

 もう一つ、JA仙台がこだわったのがパッケージデザインだ。その理由を小賀坂氏は、「これまで取引先から、『JAの製品はモノは間違いないけど包材などのデザインに魅力がない』と言われてきました。それでは手に取ってもらえないので、デザインにはかなり力を入れています。実際かわいいと手に取って裏の販売元を見てJAの商品と分かり、驚かれることも少なくありません」と語る。

ソイチョコはパッケージデザインにもこだわり女性にも好評だ

 「仙大豆・ソイチョコ」が売れる土産物に育ったのは、震災復興という非常時におけるキリングループやJAグループの支援、著名パティシエとの偶然の出会いなど、さまざまな巡り会いもある。しかし、最大の要因は自分たちが主体的に行動し、6次産業化をPRではなく、事業として成立するよう売り上げを作り、収支を取るという当たり前の姿勢だった。そして、それができるのは、やはりJAという生産者に寄り添った組織だからだろう。生産者一人ひとりは、課題を感じ何かをやらなければという思いはあっても限界がある。JAが生産者の思いを商品という形にし、情報発信や販路を開拓するマーケティング活動を行うことで、産地全体が盛り上がり、さらに生産者個人への還元につながっていく。

一村逸品大賞で生産者のモチベーションも向上

 一村逸品大賞を受賞した「仙大豆・ソイチョコみかん」は、みかんの産地でもないJA仙台がなぜ開発したのだろうか。そこにも震災復興が関わっている。

 震災後、他のJAから被災地のJAに人を派遣する復興プログラムが組まれた。それを使って愛媛県のJAおちいまばりから職員が派遣されてきたのだ。小賀坂氏は、「彼は地元の人と一緒になって、仙大豆のプロジェクトのため3年間熱心に働いてくれました。人一倍頑張ってくれて、本当にありがたかったです」と感謝の気持ちを語る。JAおちいまばりで「みかんパウダー」を作っていることを知った小賀坂氏が作ったのが「仙大豆・ソイチョコみかん」というわけだ。最初は柑橘とチョコの組み合わせに確信があったわけではないが、試作したところ想定以上においしく、商品化した。その開発ストーリーを含め一村逸品大賞で評価されたのだ。

「情報発信や販路を開拓することで、産地全体が盛り上がってほしい」と小賀坂氏

 ソイチョコもソイチョコみかんも、発端は東日本大震災だが、今では復興の取り組みを超える広がりを見せている。原材料となる大豆の産地も被災地だけでなく管内全域にまたがり、大豆産地としても少しずつ認知されてきた。これにより、近年生産者の意識も変わりつつある。

 JA仙台の管内の大豆生産は、ほとんどが畑ではなく田んぼで行われている。もともと、米の転作作物として作られてきたからだ。それまで米を作ってきた生産者の中には、「できれば米を作りたい」という思いもあったかもしれない。

 しかし、仙大豆で使っている「ミヤギシロメ」という品種の大豆は、加工業者からも評価が高い。「JAには加工施設がないので、メーカーに委託してスイーツを作ってもらっています。その大豆に詳しい加工メーカーの方から『いい大豆だね』と言ってもらえます」(小賀坂氏)。自分たちが作った大豆が、これまで見たこともない大豆加工食品に生まれ変わり人々に喜ばれる様子を見て、大豆生産者のモチベーションアップにつながっている。

さらに品質を向上させ生産者の所得向上につなげたい

 仙大豆ブランドの商品は、土産物にとどまらず広がりを見せている。ギフト用クッキー「ソイコロ」、コンビニエンスストア向けのスナック「ソイチップス」、当初から作りたかった主食製品「ソイパスタ」、デイリーニーズに対応した「ソイヨーグルト」と多彩なラインアップが並ぶ。中でもソイパスタはグルテンフリーや低糖質が受け、ネットでの売り上げが好調で、賞味期限切れによるロスがないという。ソイチップスは首都圏のコンビニチェーンで、ソイヨーグルトは量販店の全国チェーンで販売されるなど販路も広がっている。

「ソイコロ」「ソイチップス」など仙大豆ブランドの商品が続々と誕生している

 しかし、課題もある。特に日配品のヨーグルトは賞味期限が短いため生産調整が難しくロスが多い。また、「仙大豆の取り組みは大豆産地としてのPRにはなったが、まだ生産者の所得向上にまではつながっていない。仙台の大豆の評価が高まり、販売単価が上がることで生産者の所得向上につなげたい。そのために営農指導を強化し、さらなる品質や収量の向上を実現したいです。また、現在は管内全域の大豆を一律に扱っていますが、生産者と相談しながら地域や有機栽培など特徴に合わせて差異化するなどして、有利販売につなげられればよいと考えています」(小賀坂氏)。

 仙大豆プロジェクトは、土産物や加工食品という難しい市場で一定の実績を収めた。JA仙台は次の高みを目指し、これからも挑戦を続けていく。