コロナの出入国規制が直撃!? 外国人材争奪戦

~優秀な外国人を招き、育てる極意、JA香川県

受け入れる実習生は農家の子弟に限り、現地での長期研修で成長を促す

 ここからは具体的な受け入れプロセスを見ていこう。

 まず現地の送出機関が募集を行う。その際ファーマーズ協同組合では、農家の子弟に限って受け入れる。単なる出稼ぎではなく、農業に意欲を持ち、日本の高い技術を母国で生かそうという、本来あるべき実習生の姿を目指しているからだ。人材獲得競争はグローバルで年々激化しており、主な競争相手は韓国や台湾、中東などだ。もちろん国内の他産地・他産業との競争もある。そのなかで、報酬や待遇面だけで競争力を維持するのは難しくなりつつある。

 受け入れ農家は基本的には現地を訪れ、面接を行う。さらに家庭訪問も行って判断する。採用が決まると現地の農場で4~6か月間の集合研修を行い、実習生はここで集団生活に慣れ、日本語や基本技能を身に付ける。

 現地の研修を終えるといよいよ来日だ。監理団体は関西国際空港までバスで出迎え、1カ月間の入国後講習を行ったのち、各農家へ送り届ける。滞在期間は短くて3年、最長10年まで可能だ。わずかだが相性が悪く1年未満で帰国する人もいる。前出のとおり、3年経つと継続する場合でも一時帰国し、改めて手続きが必要だ。

 帰国時も監理団体がまとめて帰国便を手配し、バスで空港まで見送る。失踪などないよう税関をくぐるまで見届け、エアラインから搭乗証明書をもらってそれを入管へ提出。ようやく帰国手続きが終了する。

 帰国後も次の面接で訪問した際には向こうから会いに来たり、逆に訪問したりするなど交流が続くケースも少なくない。日本滞在中も現地の送出機関が、実家を訪問したりする。このような丁寧できめ細かい交流が、現地での口コミや評判となって信頼につながり、優秀な人材の継続確保を可能にしている。

外国人材の意欲を引き出す、さまざまな工夫

 ファーマーズ協同組合では常時約200名を受け入れているが、それに対して通訳は4名。通訳にすべての情報が集まり、何か問題があればすぐに対応できる体制だ。外国から来て働く彼らのモチベーションを高め、気持ちよく働いてもらうためには「ガス抜きが大事」と近藤氏は言う。焼肉大会など、レクリエーションやイベントを企画し、コミュニケーションを図っている。もちろん休日の過ごし方は自由だ。恒例となった毎年の旅行は、以前は各農家が個別に行っていたが、待遇に差が出ないよう福利厚生として定めた。「受け入れ農家がお金を積み立て、1年目は岡山、2年目は関西、3年目は東京というように出かけます」(近藤氏)。

 皆東南アジアの出身だが、それぞれ国民性は違う。近藤氏によると、フィリピン人は陽気で英語ができるので、比較的意思疎通が容易。カンボジア人は同国人のネットワークが強く、SNSなどで情報がすぐに行き渡る。人は良いが、ポルポトによる虐殺の歴史のせいか、腹を割って話すのは難しい。一方、ラオス人は温厚でのんびりした人が多く、ベトナムや中国は経済観念が発達した人が多い。

取材当日も外国人実習生が赤玉ねぎの出荷作業を行っていた。
取材当日も外国人実習生が赤玉ねぎの出荷作業を行っていた。

 面白いのが、複数人で作業をする場合の組み合わせだ。「単純作業では、同国人を組み合わせるとおしゃべりが増えます。外国人同士だと日本語でしかコミュニケーションがとれないので、効率があがります。一方、細かい注意を要する作業をぺアで行う場合は、とっさに注意ができるよう同国人を組み合わせます」(近藤氏)。休日も同国人を一斉に休ませるとみんなで出かけるため、帰りが遅くなって警官に職務質問をされる可能性がある。各農家の経営判断になるが、そのような観点も踏まえて休ませ方にも配慮している。「制度的には日本人と同様の扱いを求められていますが、まったく同じというわけにはいきません」(近藤氏)。

 言語や文化の異なる外国人の活用には特有の難しさもあるが、コミュニケーションと理解が重要なのは日本人同士と変わりはない。北岡氏は、「自分の娘や息子と同じように、叱るときは叱り、ほめるときはほめて、一声かけて気遣いを伝えることが重要です。相手のことを理解しようとする姿勢が何よりも大切」と語る。

帰国後の就職先として現地農園を設立

JA香川県 営農部 営農企画課 橋本守正 氏
JA香川県 営農部 営農企画課 橋本守正 氏

 ファーマーズ協同組合では、個々の農家の売上に合わせて実習生の数が適正かなど、経営相談にも乗っている。「外国人材を活用することで農家の売上は伸びています」(近藤氏)。意外かもしれないが、若い日本人の新規就農者が成長している。JA香川県では外国人材の活用と並行して、月給制の農業インターン制度を創設するなど、日本人の新規就農者を誘致する活動にも取り組んできた。北岡氏は、「新規就農の若者が、うまく外国人材を活用して成長しています」と語る。

 課題もある。香川県の農地は農住混合地帯が多いため、生産者が離農してしまうと宅地になりやすい。産地を守り育てるためには、後継者の育成がカギとなる。北岡氏は、「実習生が長期間意欲的に働ける環境を整え、その間に後継者をどう育成するかが課題です」と指摘する。現在の担当者であるJA香川県 営農部 営農企画課 橋本守正氏も、「大規模な農家が増えており、それに伴って外国人材の需要が増えています。JAとしても研修会など情報提供に努め、外国人材活用のすそ野を広げるお手伝いをしていきます」と意欲を語る。

 ファーマーズ協同組合ではJICA(国際協力機構)との連携事業で、実習生が帰国後に働く場として現地農園を設立。ベトナムとラオスで香川県向けのニンニク種子の栽培園を運営し、果物の栽培にもチャレンジしている。これも優秀な人材を獲得する上で重要な施策だ。近藤氏は、「農園の評判がよく、高学歴の優れた人材発掘に役立っています。さらに発展させ、国内との産地間交流を充実させたい」と抱負を語る。

国民性が違うからこそ「外国人実習生たちのことを理解してあげることが重要」と語る北岡氏。
国民性が違うからこそ「外国人実習生たちのことを理解してあげることが重要」と語る北岡氏。

 現在JA香川県と管内の生産者は、コロナ禍によって厳しい状況にある。しかし、これまでの交流の蓄積やそこから得た知見やノウハウ、人脈や現地法人などは大きな財産だ。この財産を糧に、さらなる成長を目指す。

※本取材はテレビ会議システムを活用し遠隔にて実施、写真撮影のみ現地カメラマンによる撮影を実施しました。