世界に誇るユリブランドは地域再生の切り札となるか

~コロナ禍で生まれた「雪美人プロジェクト」とJA津南町

津南が誇る「雪美人ブランド」を観光振興に活用

 JA津南町は、以前から雪美人ブランドをもっと広めたいと考え、今回の観光振興にも活用することにした。福原氏は、「ユリの購入層はお金・時間に余裕のあるリタイア世代です。津南の自然を楽しみに来る観光客と層が重なるので可能性を感じました。雪美人ブランドで地域全体を盛り上げると同時に、新しい雪美人ファンを作っていきたい」と語る。

新潟県津南町 桑原悠 町長
新潟県津南町 桑原悠 町長

 コロナ禍以前より、津南町では農業を活用した観光振興、地域づくりを進めていた。「農業そのものの振興に限らず、農業が作り出す「美しい地域の景観を守る」意味でも、観光の視点を重視して町づくりを推進してきました」(桑原町長)。

 その方針に基づき、観光地域づくり課では、今夏トウモロコシによる観光振興を検討していたが、「ユリを前面に出したい」旅館とJA双方の熱い思いを聞き、全面的にバックアップすることとなった。桑原町長は、「農業立町ならではの地域資源を活かした、“サステナブルツーリズム”で街の魅力を発信したいと考えていました。ユリプロジェクトをモデルケースにしていきたい。町民の発案から生まれたことが何より大きいです」と語る。

 雪美人プロジェクトは、旅館の女将、生産者、JA津南町、行政の観光担当など関係する業界の中心メンバーが集結し、膝をつき合わせて話し合いを進めた。山岸氏は、「生産者やJAの熱い思いを聞いたことで、ユリへの愛着もわきましたし、何より一緒になって頑張ろうと思いました」と語る。宿泊客へ、ユリの魅力を的確に説明できるようになったことも、大きな意義になったという。風巻氏は、「単に花を飾ったり、日本一という事実を伝えたりするだけでなく、生産者の思いや周辺の情報をご説明することでお客さまにも興味や強い印象を持っていただけます。そういう生の情報を生産者から直接聞けたことも大きい」と語る。

雪美人を「観て、触れて、学べる」企画は異業種連携の象徴

 雪美人プロジェクト「ユリ農家×女将」は、2020年7月18日スタート。参加旅館は8軒、飲食店を含めると30近くの店舗が協力している。ユリ組合は毎週200本の雪美人を旅館や飲食店に安価に提供。各店舗ではユリを飾り、顧客に雪美人の魅力を説明すると共に、宿泊者へのお土産として特別価格で提供している。花をお風呂に浮かべる旅館もある。

 町の農と縄文の体験実習館「なじょもん」と温泉ホテル「ニュー・グリーンピア津南」のロビーには、ユリをふんだんに使ったモニュメントを展示。空間をゴージャスに演出した。

「ニュー・グリーンピア津南」では、つるし雛とユリのコラボレーションした展示が行われていた
[画像のクリックで拡大表示]
「ニュー・グリーンピア津南」では、つるし雛とユリのコラボレーションした展示が行われていた
[画像のクリックで拡大表示]
「ニュー・グリーンピア津南」では、つるし雛とユリのコラボレーションした展示が行われていた

 7月にはユリの栽培現場を訪問するツアーを開催。生産者による説明や収穫体験、雪室(ゆきむろ)の見学を実施。豪雪地帯ならではの雪室は、冬の間に雪を溜め冷蔵施設として利用するもの。収穫したユリは蕾の状態で雪室に保管し出荷する。中に入ると、真夏でも驚くほど涼しい。雪は少しずつ解けながらも冬まで残るという。雪室は野菜や米の保存にも活用されており、特に野菜は雪室で寝かすことで甘みが増す。こうした普段見ることができない生産現場を訪問できるツアーは、参加者にも好評だったという。

ユリや球根を保存するのは、雪室と呼ばれる雪の冷気を活用した天然の冷蔵庫だ
[画像のクリックで拡大表示]
ユリや球根を保存するのは、雪室と呼ばれる雪の冷気を活用した天然の冷蔵庫だ
[画像のクリックで拡大表示]
ユリや球根を保存するのは、雪室と呼ばれる雪の冷気を活用した天然の冷蔵庫だ

 風巻氏は「雪美人は満開後も持ちがよく、最後の1輪まで咲ききる強さがあります。その姿に勇気づけられ、苦しい状況ですが、私たちもユリのように前向きに頑張りたい」と語る。

プロジェクトの継続と知名度アップが今後の課題

 「ユリ農家×女将」は、9月20日まで継続して行う予定だ。SNSを中心に情報発信はしているが、コロナ禍が収束しないこともあり、成果は道半ばだ。「集客効果が出ている状況とは言えませんが、来訪いただいた方にはユリの魅力を存分に感じてもらっています。引き続き、皆で連携して津南町の魅力を伝えていきたい」と山岸氏。来年以降も活動を継続し、集客とユリ消費の拡大を図っていく。

SNSも活用しながらユリ生産者の熱い思いを全国に発信している
SNSも活用しながらユリ生産者の熱い思いを全国に発信している

 JA津南町は雪美人ブランドのさらなる認知度向上も目指す。市場では絶大な人気を誇る雪美人だが、一般消費者の知名度は決して高くない。それには花き市場の特殊性がある。花は販売時に産地を表示する習慣がない。消費者も食べ物ほど産地に関心がないというのが実情だ。また、ユリは大輪なので大きなディスプレイには映えるが、家庭での需要は決して多いとはいえなかった。そこで、一輪挿しでの楽しみ方を提案し、著名人を起用したリレー式のSNS発信など、イベントを準備中だ。

「地元の方にもユリの魅力を知って頂けたことは本当にうれしいです」と語る藤木氏
「地元の方にもユリの魅力を知って頂けたことは本当にうれしいです」と語る藤木氏

 まだプロジェクトは始まったばかりだが、ときに本音でぶつかって築き上げた信頼関係は今後の大きなアドバンテージとなるだろう。「話し合いの中で、観光用のひまわり畑に飛来するアブラムシが、ユリの圃場に悪影響を与えていることを初めて知りました。これも仲良くなって話をしたからわかったことです」(山岸氏)。藤木氏も、「誰かが我慢するのではなく、それぞれがプロ意識を持ちながら意見を持ち寄り、みんなで笑いあえる、そんなプロジェクトにしていきたいと思っています」と語る。コロナ禍だからこそ生まれた、新たな連携と絆。今後のプロジェクトの成長に注目だ。