年間40haの農地貸借契約は、なぜ進んだ?

~農地流動化に挑み続けるJA紀南

5年間で件数3倍、面積2倍以上に拡大した利用権設定

 JA紀南管内でも組合員から農地を貸したい、借りたいという相談が寄せられるようになった。自治体への申請書類の作成支援から始まり、2007年にはJA紀南に県農業公社の駐在員を配置。農地利用の調整事業を開始した。その後、「農地利用集積円滑化事業」の制度措置を受け、管内の1市4町から農地利用集積円滑化団体として承認され、事業を加速させる。農地を貸したい・借りたいニーズに対応し、2012年に年間60件で18.8haだった農地の利用権の設定が、2017年には187件、43.4haへと大幅に増加した。年間約50haの農地が減少している地域で40haの新たな利用権が設定されていることを考えると、その重要性がよくわかる。生産者に身近なJA紀南が積極的に関与したことで、農地利用の促進につながったといえるだろう。

JA紀南の農地の利用権設定の推移
JA紀南の農地の利用権設定の推移
JA紀南 指導部 農地中間管理事業 農地調整員 生田良一 氏
JA紀南 指導部 農地中間管理事業 農地調整員 生田良一 氏

 「農地利用集積円滑化事業」は、主に分散した農地を集積・集約化し、面的にまとめて耕作しやすくする目的で措置された。しかし、JA紀南では集約化についてのニーズはほとんどなく、新たな利用権設定のために活用されている。JA紀南 指導部 農地中間管理事業 農地調整員 生田良一氏は、「集約化は水田の効率化には有効ですが、果樹にはあまりメリットがありません。山の斜面を利用して梅の栽培をするこの地域では、もともと各農地が離れており、集約化目的での利用権移動がほぼありません」と説明する。地域のニーズに合わせて制度を上手く活用したのだ。

 2014年から「農地中間管理事業」にも取り組み、成果を上げている。現在、利用権設定のほとんどはこれで行われている。

 利用権設定の具体的なプロセスは大きく2つのパターンがある。まず、貸したい人が借りたい人と話を纏めた上でJAに相談し、JAが登録業務を代行するパターンである。交渉事は終わっているので基本的に書類手続きだけで終わる。もう1つは農業の継続が困難になった人と、農地が必要な個人・法人のマッチングを行うパターンだ。この場合は相手が決まっていないので、それぞれがJAに相談することでリストアップされる。その上でJAが互いの希望に見合う土地・個人・法人を紹介。合意すれば手続きへと進む。

新規就農から5年、10軒から農地を借り常勤従業員も2人雇用

会社員から農業に転身した生産者 山本宗平 氏
会社員から農業に転身した生産者 山本宗平 氏

 JA紀南の仲介で農地を借り、会社員から農業に転身した生産者を紹介しよう。地元田辺市出身の山本宗平氏は、実家が農家ではなく自身も会社員で、農業と直接縁がなかった。しかし、地域に遊休農地が増える状況を見てなんとかしたいと、28歳の時に一念発起。JA紀南に農地を借りたいと相談し、半年程度で借りることができた。農地の相談をした生田氏について、「厳しいことも言われますが、その分腹を割って話しやすい」と語る。

 当初は家庭菜園レベルだったと振り返るが、その後農地を増やし続け、専業農家として自立を果たす。5年目の現在、10軒から農地を借り、みかんを約70a、梅を約60a、露地野菜を約120a、ハウス栽培のイチゴを約4a栽培している。このような多品種生産が山本氏のやり方だ。主力のみかんと梅を柱に、隙間に他の作物を栽培。通年で途切れなく収穫できる状態にしている。常勤の従業員を2人雇うことでチームワークも高まり、スキルも向上、作業も速まった。JA紀南にもよく顔を出すそうで、「新規就農でわからないことだらけでしたが、農地以外にも、栽培や販売方法についてJAの営農指導員に相談に乗ってもらい助かっています」と語る。

生田氏から時に厳しく指導頂いたからこそ自立を果たせた、と語る山本氏
生田氏から時に厳しく指導頂いたからこそ自立を果たせた、と語る山本氏

梅畑の拡大や自治体との連携が課題

 農地流動化に大きく貢献するJA紀南だが、課題もある。管内最大の作物である梅は連作障害(同一圃場で同一作物を繰り返し栽培することで起きる生育障害)を起こしやすい。そのため定期的な畑の移動が必要だ。一方、水田をそのまま活用したいというニーズは少ない。そこでJA紀南は水田の埋め立てにより畑地を造成し、梅畑に変更したいと考えている。ただ、課題もあると谷口氏は語る。「水田を梅畑にする考えを水稲農家は持ちません。持ち主が良いと思っても、周囲の農家が嫌がることもあります。ただ着手しなければならない時期は近い将来必ず来ます。そのためにも、JA紀南としては地域の生産者の皆様と今から話し合いを進めていきたいと考えています」。

 また、農地の利用権設定には自治体の承認が必要なので、連携が必須。ただ管内には1市4町の自治体があり、全域で同レベルの対応ができているわけではない。小さな自治体では手が回らないということもある。生田氏は、「必要な人が農地を使えるようにしないと、結局は生産者が困ります。県全体の成果で国の補助金額が決まることもあり、県内全域での取り組みが必要です。自治体とも連携を強めながらできる限り地域差をなくし、どの地域でも同レベルのサポートができるようにしなければなりません」と語る。

 自治体との強固な連携が必要な分野は、農地の利用権設定だけにとどまらない。生田氏は、「新規就農を促し移住者を増やすといった地域振興は、農業だけの問題に留まりません。住まいや学校など、自治体と一緒に考えなければ上手くいきません。今後さらに連携を強めていきたいです」と語る。

 次世代に優良農地を残し、やる気のある生産者をサポートするため、JA紀南はこれからも農地流動化に取り組み続ける。