PR (supported by JA)
そこで発案したのが、2014年に実施した「農業×男子」という企画だ。まずは、農家や畑を身近に感じてもらおうと、東京都内の一部の地域に配布する広報誌面で、若手農業者のオンショットとオフショットを紹介した。たくさんの写真を使ったファッション誌のような誌面はこれまでにない大きな反響を呼んだ。
とがった企画とあって、異論がなかったわけではないが、読者の注目を集めることはできた。「東京にも農業を営んでいる人がいるのですね」という感想もあった。 「これまで何十号も出し続けていたのに、東京の農業の魅力や重要性が全く届いていなかったと反省した」(大島課長)。
この成功例があったため、「いつかこれを東京全体でできたら面白い」と思っていた大島課長が7年の歳月を経て、実現させたのが「農業男子×総選挙」なのだ。
2020年1月から東京都内にある14のJAを回り、企画趣旨を説明し、候補者の人選を依頼した。「特別かっこいい人でなくても構わない。東京の農業をPRする広報大使を決めるイベントなので、熱い思いを持った人を選んでほしいとお願いした」(大島課長)。
広告代理店を入れず、大島課長が企画から構成、取材、写真撮影、サイト内の文章の作成までほとんど1人でこなした。
写真は全部で1万8,000枚を撮影。サイトには1人につき、選りすぐった20枚を掲載した。当日の衣装やヘアスタイルは候補者にお任せ。打ち合わせ時に、ファッション雑誌などを見せ、イメージを伝えただけというものの、かなりの出来栄えだ。
候補者1人ひとりの印象的なキャッチコピーも大島課長が考えた。取材時に普段の仕事からプライベートまで聞き出し、候補者本人の魅力が浮かび上がるよう表現した。「候補者を知らない、所属するJAを言われてもどこか分からない。それでは興味が持ちにくいし、話のネタにできないと思ったので、キャッチコピーを添えた」。
JAや青壮年部の協力を得て、ここまで作り込んだ企画だ。多くの人に知ってもらえなければ意味がない。JA東京中央会のホームページなどで、「農業男子×総選挙」の情報を発信。メディア向けにプレスリリースも出した。
少しでもたくさんの人の目に触れるよう工夫を重ねた。JA全中(全国農業協同組合中央会)の広報部からプレスリリースの書き方やレイアウトについてアドバイスをもらい、報道機関内で埋もれやすいファクスではなく、あえて郵送で300通を送った。その結果が、広告換算額2億円超という反響につながったわけだ。費用対効果は絶大だ。
農業男子×総選挙への投票者からの声は、「畑は野菜を作るだけのものだと思っていたけど、こんな役割があるとは知らなかった」「若い人が農業に熱心に取り組んでいる姿を見て、元気をもらえた。これからも応援したい」など、好印象を持ったという意見が多く寄せられている。

直売所でお客様から声をかけられることが増えたという総選挙第3位の髙橋徹氏(JA東京あおば代表)は、「周囲の農家を見渡すと、みんなプライドを持ち、いろいろな作物を育てていることを実感する。農作物の品質の高さや生産者の思いをどんどんアピールしていきたい」と話す。
「もちろん今回の取り組みだけで、東京の農業のイメージがガラッと変わったわけではない。それでも東京にも農家がいて、畑があることを知ってもらえたし、都市農業に関心を持つきっかけにはなったと思う」と大島課長は手応えを感じている。
都市農業の支援を続けてきた水口氏は「農業男子×総選挙」というインパクトのあるとがった企画により、若い就農者の存在を印象づけられたことで、農業に興味を持ってくれる若い女性が出てくることを期待している。
また、都市農業は税金面では非常に不利な立場にある。「これを機に法制面でも多少なりとも整備されてくれれば」と話す。
「ありがたいことに『金子さん家のトマトがおいしい』と言って、直売所に買いに来てくれる人が大勢いる。そういう声を直接聞けるのは、東京で農業をしているからこそ。広報大使になったので、直売所に買いに来てくれる人以外にも、私たちの存在を知ってもらえるように努めたい」と、総選挙2位の金子倫康氏(JA東京みどり代表)は言う。

産地と消費地という物理的な距離は近いものの、生産者と消費者の心理的距離が遠い都市農業。だからこそ双方の距離を縮める広報の役割は重要だ。「東京に畑があることの意味や重要性を、今後も引き続き発信していきたい」と大島課長は意気込む。
