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滝地区農地再生における担い手としてJAアグリはくいが参入する上で、安定財源に加え、もう1つ解決しておくべき課題があった。滝地区再生農地において、JAアグリはくいは30haを耕作することになっていた。だが、条件不利地の受託により人件費が増大する状況のままでは、対応できないことは明白だった。2015年に、JAはくいの営農部からJAアグリはくいに異動してきた渡氏は、耕作するべき農地の取捨選択に着手したという。「農地の引き受け基準を設けて、条件不利地に関しては草刈りなどを行い、農地のまま残す保全管理へのシフトを推進。また、飛び地は近場の耕作者に対する再委託を積極的に実施し、田んぼ1枚のために出向く必要をなくしました」。
農業経営を軌道に乗せるためには、組織改革、従業員のマインドチェンジも求められた。「2015年当時は、農業生産よりも農業支援に力点を置く意識や文化が社内にまだ強く残っていました。経営体質改善を目的に導入したのが、石川県の担当者から薦められたトヨタの『カイゼン』です。4S(整理・整頓・清掃・清潔)活動の実践から始め、トヨタ生産方式の考え方を織り込んだクラウド型農業IT管理ツール『豊作計画』も活用。スマホを使って耕作計画を入力することで、従業員間の情報共有、現場作業の見える化を実現し、作業のムダの検証、作業工程の見直しにより生産性向上が図れました。その効果は、2015年が従業員15人で34haに対し、2021年は従業員8人で42haといった数字にも現れています」(渡氏)。
JAアグリはくいでは、「カイゼン」の実践とともに、朝礼、終礼、制服提供など組織としての一体感を醸成。その結果、人が育ち、従業員の間で“農業をビジネスにする会社”を創るマインドが生まれたと渡氏は強調する。
JAアグリはくいは、経営体質の強化を図り成長軌道に乗りつつある。「現在は、太陽光発電収益と農業収益(全面受託・作業受託)は、1:1。JAはくいから、経営強化を目的に委託されていた、はとむぎ関連商品の本体移管も完了。今後、少人数での耕地面積の拡大、生産性向上に注力し、支援に頼らない経営はもとより農業収益の増大、農業生産法人の可能性を拓いていきます」(渡氏)。

若い人材の育成は、日本農業の未来に関わる。JAはくいでは2019年に、地域農業を守る青年団と位置付ける、「担い手青年部」という組織を立ち上げた。その役割について、JAはくい 常務理事 澤田英三郎氏は話す。「JAはくい管内で今後中心的な担い手となる若手農家を組織化し、勉強会や情報交換はもとより最新技術に率先して取り組んでもらっています。なかには、100haを超える農地面積を耕作する若手農家も出てくるなど、地域農業を牽引する存在となってきました」。
JAアグリはくいにも若手従業員が多いという。「私も含め、当社の従業員は農業が好きな人が集まっています」と渡氏は笑顔で話しこう続ける。「2015年までJAはくいの営農部で農家さんの営農指導を行ってきました。その中で、指導することの限界を感じていました。JAアグリはくいがやるべきことは、『カイゼン』やIT、最新技術を積極的に活用し、儲かる農業経営モデルをつくり、自ら実践することです」。
JAが、農業生産法人を設立し、生産受託まで踏み込む例は多くないだろう。なぜ、ここまでできたのか。山本氏は、「人に尽きる」と力強く語る。「営農部で様々な課題を解決してきた豊富な経験を持つ、渡君をはじめとする職員が情熱をもって農業経営という難しい課題に果敢に挑み、成果を上げつつあります。子会社に行くことを引き留めた際、渡君は『農家のために、同じ目線で仕事をしたい』と決意を口にしました。今後、若手の育成・支援を含め地域の農業を守っていく組織体づくりが重要になると考えています」。
JAアグリはくいは、自立した農業生産法人としての道を歩み始めた。地域の期待は大きく、全国の農業関係者からの注目も高い。耕作放棄地の再生は「山あり谷あり」だ。乗り越えることができたのは、JAはくい、県、市、地域の協力があってこそ。これからも地域との連携を大切に、JAアグリはくいは「理念、戦略、情熱の三位一体」で農業の未来を切り拓いていくことだろう。
