ハトムギで2億円超の新事業を育成

全国から視察者が訪れるJA氷見市の取り組み

キロ当たり600円と倍額で買い取る

 こうして得た収益は、市民に還元されるだけではなく、生産農家からハトムギを買う時の買い取り価格(単価)に還元されている。一般的な相場ではハトムギの買い取り単価は1キログラム当たり300円前後だが、JA氷見市では1キロ600円とほぼ2倍で農家から買い上げている。

 一般に農作物の収益を考える場合、単位面積当たりでどのくらいの量が取れるのか(収量)と、取れた作物が1キロ当たりいくらで売れるのか(単価)が重要だ。収量に単価を掛け合わせたものが基本的な売上となる。米からの転作としてハトムギを作る場合には、そこに生産調整の助成金などを加えた金額が水田から上がってくる売上。ここから様々なコストを差し引いたものが収益となる。

 「氷見の場合は、水田10アール当たりでハトムギが130キログラム収穫できるとすると、生産調整の助成金があるので、キロ当たり600円で買い上げることで米を作るよりも農家の収益は上がる」(南氏)仕組みになっているという。農家としても米を作って得られる収入以上にならなければ、おいそれと転作には応じられないが、米以上の収入が見込めるなら積極的に転作に応じるところも増えてくる。また、ハトムギ用の播種機やコンバインなどは貸し出すようにして農家に新たな設備負担を負わせないように配慮した。このようにして、氷見のハトムギの作付けは広がっていった。

全国のハトムギ生産技術を確立

 さらに生産技術面でもJA氷見市は具体的な手を打っていった。JA氷見市が取り組む以前には転作作物としてのハトムギは生産技術が確立されておらず、肥料や農薬の技術体系もない状態だった。

 2005年には、JA氷見市が出資して農業生産法人「JAアグリひみ」を設立。ここを中心として、ハトムギの栽培技術と生産を氷見市全域に広める仕組みを作っていった。2007年にはハトムギの栽培マニュアルを作り、翌年には「全国はとむぎ生産技術協議会」と「富山県はとむぎ生産振興協議会」をJA氷見市が中心となって設立。氷見市内だけでなく、富山県、そして全国へとハトムギ生産の輪を広げるために積極的に動いていった。

 JAアグリひみで長年ハトムギの生産・栽培技術の確立に携わってきた小坪勝之部長は「ハトムギを氷見市の最重点作物に位置付けてから、JAアグリひみではハトムギの種を細越地区から手に入れて、標高が低い平場でどのように栽培・生産するかを試行錯誤してきました」と当時について語る。小坪部長によれば、その後、ハトムギの研究者とも連携して生産に適した品種を見出し、そのための栽培技術を磨き上げていった。肥料体系の確立はもちろんのこと、雑草・病虫害の対策、当時は認可が下りていなかったハトムギの農薬についても技術体系を一つずつ確立していったという。

JAアグリひみで生産するハトムギを背にする小坪勝之部長。今年の生育は良く、「この状況なら反収220キロはいくでしょう」と予測する。(写真:佐藤久)

 こうした努力の結果、最初は1反(約10アール)当たり40キロ程度しか取れなかった収量が、現在では市内の平均で130キロほどにまで上がった。2016年度の氷見市の作付け面積は約50ヘクタール、生産量は62.5トンになっている。

 今後はさらに播種のタイミングを早めることなど、さらに改善を進めることで、氷見市平均で10アール当たり200キロまで平均収量を引き上げることを目指している。JAアグリひみの圃場(農地)では最大220キロの反収になるところもある。粘土質で水はけが悪い上に、水が潤沢ではない氷見市の環境は多収を目指すには条件が悪いとしながらも、「平均200キロは十分可能」(小坪部長)な数字だという。

 JAアグリひみが中心となって、手探りで開発してきた栽培技術はすべて『はとむぎ栽培マニュアル』という冊子にまとめられた。「全国のハトムギ生産者からマニュアルを見せてほしいと言われる。氷見で確立したものが生産技術協議会で共有され、日本全国で作られるようになりました」と小坪部長。

 ほかの地域でハトムギの生産量が増えると氷見のハトムギの相対的な価値が下がる心配はあるが、これに対しては「惜しみなく公開するのが方針。ノウハウを抱え込むことはしません。みんなで作ってもらいたい」と小坪部長はJA氷見市とJAアグリひみの大方針を強調する。ハトムギの市場そのものが広がることで回りまわって氷見にもメリットが生まれる。そのためにも全国規模で栽培が盛んになってほしいという考えだ。

大学との連携で高付加価値商品を開発

 氷見はとむぎ茶(ペットボトル、焙煎茶)は、ひとつの到達点に達しつつある。今後は、JA氷見市の独自展開の現状を維持しつつ、金沢大学の鈴木教授によるベンチャー企業が開発したはハトムギからの抽出エキス「CRD」を使用した機能性飲料の商品化・展開を通じ、氷見産ハトムギ、国産ハトムギの販路拡大、高値販売に期待が寄せられている。

 JA氷見市の南常務理事は「課題は高い付加価値を持つ商品開発と販路拡大。すでにJA全農とやまの『はとむぎ豆乳』や、富山県を代表する製薬会社・廣貫堂の『透白美人エンリッチ』がありますが、金沢大学のベンチャー企業などと連携し、大手企業の開発力・販路とコラボし、その活用を目指してきました。なかなか一朝一夕にはいきませんが挑戦を継続していきたい。減反が進んでいくと、平場にある水田をどうやって守っていくかということが重要になります。こうした中で6次産業化が見込める作物はハトムギ以外にない」と語る。

新しい農につながる取り組み

 日本の農業の未来は、2018年に米の生産調整、つまり減反が廃止されることを抜きに考えることはできない。実際に減反が廃止されるのか、補助金による助成制度がいつまで存続するのか、また今後どのように変わっていくのかはハッキリとは見えていないのが現状だ。減反廃止についても賛否両論が渦巻いている。

 しかし、ただ一つだけ言えるのは、減反がどうなろうとも、これからどのような農作物を作ってどのように収益につなげていくのか、地域ごとに工夫を凝らす必要があるということだ。

 品質の高い米を生産効率を高めながら生産し、競争を生き残れるようにするのか、それとも他の作物にチャンスを求め、米だけではない新しい農業の形を作っていくのか。はたまた、様々な助成金を使いながら新しい農業の形を構築することにつなげていくのか、それぞれの地域がそれぞれの選択を迫られる。この時に、地域の農業を最もよく知る各地のJAがどれだけ実のある取り組みができるかがきわめて重要になってくることは間違いないだろう。

 JA氷見市の取り組みは、転作作物というその地域に馴染みのなかった農作物を根付かせ、地域への貢献を図りながらメーカーや大学など他の事業体と連携して6次産業化を成功させた希有な例だ。ここには、地域の農が生き残っていくためのノウハウが数多く含まれている。