偶然見つけたりんごが高品質ブランドに

生産者とJA相馬村の連携が生んだ「飛馬ふじ」

悲願のブランド化

 JA相馬村では、りんご生産地として生き残るために戦略的にブランド構築を目標に掲げて、相馬地区にしかない、消費者ニーズに合ったこだわりのりんご開発に戦略的に取り組んできた。

 日本のりんご生産は、一部の人気品種に集中している。収穫量で見ると「サンふじ」「早生ふじ」といったいわゆる「ふじ」系統が53%と過半数を占め、「つがる」「王林」「ジョナゴールド」の4系統で78%を占めているのが現状だ。当然のことだが、人気品種に生産が集中して供給量が増えれば価格は下がる。

農林水産省が公表している平成28年産のりんごの品種別収穫量。主要四品種で78%を占めていることがわかる(資料:農林水産省の公表資料「平成28年産りんごの結果樹面積、収穫量及び出荷量」から引用)

 どの品種をどのように作り分けるかを生産者任せにすると、どうしても人気の品種に集中しがちになる。「作る人たちは自由ですから」と三上部長は笑うが、1つの品種に生産が集中しすぎると、需要と供給のバランスがくずれ暴落のリスクも出てくる。いったん暴落が起これば、大きな打撃を受けるのはりんご生産者だ。農協はこうしたリスクを防いだ上で、生産者の収益拡大を目指さなくてはならない。このためには、市場動向を見ながらどの品種をいつ、どのくらいの量で生産し、売れるようにするか慎重に戦略を練る必要があるのだ。

 例えば、いま市場で最も出回っている「サンふじ」のような人気が高くて買いやすい価格の普及品をベースとしながらも、贈答用や富裕層向けの価格の高い品種や、輸出用や加工用など、様々な品種をいつどれだけの量作るかによって、生産者の収益は大きく変わってくる。

 品種のバリエーションの中で欠かせないのが、地域の“顔”とも言えるブランドの存在。たとえ数量が少なくても、顔となるブランドりんごがあれば産地の知名度は一気に上がる。付随して売れるものも出てくるので、これがあるかないかで販売戦略の立て方もまったく変わってくる。りんごのスペシャリストとも言えるJA相馬村とこの地域にとって、市場ニーズに合った、その地域でしか作れない高品質なブランドりんごは悲願であり、生産地としての今後を決定づける生命線だったのだ。

味と見栄えを両立させる栽培法

 地域全体でこうした悲願を共有する中、一人の高い栽培技術を持つ生産者が、試行錯誤の末、味と見栄えを高いレベルで両立させた「サンふじ」を作ることに成功した。その人が田沢農園の園主である田澤俊明さんだ。

 田澤さんは、高品質のりんご栽培を可能にする新しい接ぎ木の技術「ハイブリッドテクニカルシステム=HTS」の共同開発者としてりんご作りの世界では知られている生産者だ。田澤さんによれば、そもそもの始まりは偶然だったと当時のことを語ってくれた。

 「14、15年程前、台風でりんごの実が落ちたときのことです。何個か実が残っていたので葉を取らずにそのままにしていました。最初は加工用にしようと思っていましたが、食べてみたところ抜群に旨い。農協のセンサーで糖度を測ってみると17というとんでもない高い数値が出た。『これだ』と思いましたね。それから2~3年の間は味を保ちながら色づきを良くする方法を追究していました。並行して、三上さんが周囲にりんごを紹介してくれていて、バイヤーの間で評判になったんです。その後農協で栽培できる人を集めて、徐々に作れるようになってきました」

田沢農園 園主の田澤俊明さん。様々なりんごの栽培技術を工夫しているりんご名人とも言える生産者だ。後に「飛馬ふじ」になるりんごの栽培に成功した。今も「飛馬ふじ」や他の品種を作りながら、次を見据えて、さらに上を行くりんごの開発に取り組んでいる(写真:佐藤久)

 りんごの栽培では、“葉取らずのりんご”といって、葉を取り去らずに育てるとりんごの味が良くなることが知られている。葉が太陽光をたっぷり受けて盛んに光合成をすることによってりんごの実に栄養が行き、糖度が高くなる。しかし、逆に、色づきを良くするためには葉を取って果実の部分に日光を当てたほうがいい。日本では紅いりんごに人気が集まるため、「サンふじ」などの紅い品種は早いうちに葉を取って色づきが良くなるように育てる。つまり、紅いりんごでは、味を良くする方向と、色づきを良くする方向ではやることが真逆になる。糖度の高さと色づきの良さを高いレベルで両立させるのは手間がかかる上に難しいというのが定説だ。

 前述の三上部長も、「田澤さんが葉取らずの甘いりんごを持って来たのが飛馬ふじのそもそもの始まり。そのりんごを持ってあちらこちらに売りに歩きました」とその時のことを振り返る。

 JA相馬村は、この田澤さんが持ってきた「サンふじ」を見逃さず、販売先に売り歩き、その反応を見ながら、田澤さんとも相談し次々と具体的な手を打っていった。田澤さんを含めて、腕に覚えのある生産者5人を限定して、試験栽培しながら、栽培方法を改善していく。土壌改良や、施肥、摘果の時期などさまざまな工夫を重ね、秋が深まるぎりぎりまで葉を取らずに育てる方法で「サンふじ」の高品質化を進めていった。

 市場の反応を捉え、生産者へフィードバックする一方、どのような顧客に対してどのような商品を出せばよいか、ブランドの具体的なイメージを固めていった。栽培指針も明確に定め、生産者ごとに栽培面積の上限を決めるなど、品質とブランドの維持を徹底。そうして、最初の一歩から7,8年、試行錯誤を繰り返した結果完成したのが、糖度の高さと色づきの良さ、さらに見栄えを高いレベルで兼ね備えた「飛馬ふじ」というブランドりんごだった。

 現在は「飛馬ふじ」の生産者も60人にまで増え、市場からも高い評価を得ている。JA相馬村のりんごジュースなど副次的な商品の中にも「飛馬ふじ」ブランドのジュースが加わり、6次加工品のバリエーションも増えた。

JA相馬村で販売しているりんごジュースや加工品。「飛馬ふじ」のジュースは一本(1リットル瓶)で1300円ほどもする。JA相馬村ではこのブランドジュースを含め年間で約130万本のりんごジュースを生産・販売している。ジュース部門の売上額も約3億円と大きくなり、4,5年ほど前から黒字化したという(写真:佐藤久)

「生産者の収益を上げる」にこだわる

 こうしたブランド化に成功した要因は、農協と生産者の信頼関係に基づく緊密な連携にあると言えるだろう。

 JA相馬村では、「飛馬ふじ」のブランド化以前から、この地域のりんごの売り場を確保するために、大手スーパーのAEONや40社ほどの小売業者と直接交渉して、通年で安定的に売り場を確保する取り組みを進めていた。売り先が安定的に確保できるようになれば、農家は安心して生産物を農協に委託できるようになる。こうした取り組みを通じて、生産者とJA相馬村との信頼関係は固いものになっていた。その証明とも言えるのがりんごの共販率の高さだ。JA相馬村のりんごの共販率は90.9%ときわめて高い。つまりJA相馬村に属する生産者はほとんどのりんごをJA相馬村を通して販売している。

 三上部長も「農協として肝心なことは、いかに単価が高く、収益性のある品種に生産者を誘導できるかだ」と言う。生産者側から見れば、“儲けさせてくれる農協にはついていく”ということになる。

 協力関係をスムーズにしていくためには、両者の間の情報共有も重要になる。生産者が生の市場動向を知っておけば、市況の変化にどのように対応すべきかを納得しやすく、農協の描く戦略も受け入れやすくなる。このために、生産者と一緒に市場を知る勉強会も設けている。「デパ地下に入っている販売先の担当者を招いて、生産者が質問形式で市場の反応を共有できるような勉強会を開いています。生産者が市場の情報に直接触れる場はなかなかありませんから」と三上部長。もちろん勉強会では栽培技術などについても共有する。

田澤さんと三上部長。二人の信頼関係は厚い(写真:佐藤久)

 どの産地でも、特産品をどのようにブランド化していくかは、地域の最重要課題といえる。農産物の場合、地域のブランド戦略を成功に導くためには、JA相馬村の事例に見るように、農協と生産者の連携は欠かせない。

 1つの企業でも、開発、生産、企画、販売という、ビジネスを展開するために必要なユニットが、同じ社内にあってもうまく協力できず、機能不全に陥っている例は少なくない。JA相馬村では開発・生産を担う生産者と、市場リサーチ、商品企画、販売を担う農協側が、「より収益を上げるために」という1つの目的を共有して、川上から川下に至る関係者が集中的に取り組み、機能している。他の農協と産地にとって参考になるだけではなく、他の分野でブランドやヒット商品を作りたいと考える企業にとっても役立つヒントがこの事例には含まれている。