存亡の危機を救った農業ビジネスの「未来予測」

~市場を読み、どん底から熾烈なぶどう競争を勝ち抜いたJA中野市

過去の実績データに基づいて“未来の単価”をはじき出す

 3カ月先の商談で、売値はどう決めるのか。ここでも、JA中野市ではデータに基づいた予測を駆使している。シャインマスカットや種なし巨峰の販売単価の推移を365日記録しており、例えば9月の出荷であれば、過去3年間の同時期の実績を見て、“未来の単価”を決めているのだ。バイヤーにとっても、予め仕入れ値が見えれば店舗での販売戦略が立てやすくなる。

 小林氏は販売と営農指導の連携についてこう語る。「作ったから売るのではなく、市場が求めているものを作るために、販売部門と連携を密にしています。数カ月前にニーズが分かれば、それに合わせて収穫するぶどうのグラム数を調整したり、出荷形態をパック詰めに変えたりなど、きめ細かな対応が可能になります」

 JA中野市では、ぶどう部会の全員から年度初めの年間生産計画や、週間出荷予約などの情報を収集・集計し、市場に約束した出荷計画の精度を高めるために活用している。“中野のぶどうはシーズン前に確実に契約できる”。この安心感と信頼感がリピーターを増やし、ブランドの確立と共に販売拡大に結実していった。

 こうした一連のV字回復への取り組みが評価され、JA中野市のぶどう部会は2016年に「第46回日本農業賞・大賞(※)」を受賞している。

※意欲的に経営や技術の改革と発展に取り組み、地域社会の発展に貢献している農業者と営農集団を表彰するNHKとJAグループの施策事業

ぶどう集出荷センターの壁面には「第46回日本農業賞」大賞受賞を記念した絵画が飾られている
ぶどう集出荷センターの壁面には「第46回日本農業賞」大賞受賞を記念した絵画が飾られている

 またJA中野市では生産拡大と並んで、ぶどうの特性を生かした6次産業化にも積極的に取り組んできた。

 「例え房から粒が離れてしまっても『1粒でも売れる』のがぶどうの特長です。レーズンやジューススタンドの果汁用、スナック菓子材料など、規格外品の6次化需要も広がっています」(小林氏)

 2005年から毎年9月に開催してきた「ぶどうまつり」もブランド認知向上と地域活性化に貢献している。「シャインマスカット」「種なし巨峰」をはじめ、「ナガノパープル」など約30種類のぶどうが販売され、市民を中心に周辺のJA関係者や、志賀高原観光を兼ねた遠方からの観光客など1日で約4000名が訪れる大イベントに成長した。

 中野市役所でも「農業から元気を始めよう」をスローガンに掲げる「売れる農業推進室」が、ぶどうの拡販施策を推進。2017年にはサンリオとのコラボレーションで中野市限定のオリジナルパッケージを作成するなど、ぶどうの高付加価値化を行政の面から支援している。

毎年4000人が訪れるという「ぶどうまつり」。中野市のぶどうの認知度向上に貢献
毎年4000人が訪れるという「ぶどうまつり」。中野市のぶどうの認知度向上に貢献

好況に甘んじることなく、次なる時代変化を見据えて

 V字回復以降、生産者の所得拡大にも大きな成果が表れた。2013年と2017年の比較では、販売額1000万円以上の生産者数が94戸から134戸に増加し、全体の約3割を占めるようになる。ぶどう産業が息を吹き返し、親元就農を中心に、毎年十数人の若手がぶどうの新規栽培に取り組んでいるという。昔を知る熟練生産者達は「ハウス巨峰に取り組み始めた昭和50年代の活気が再び戻ってきたようだ」と口を揃える。徳武氏は現在の状況を次のように見ている。

 「私自身、企業で勤めた後に父のぶどう農園を継ぎました。今の若手と話していると、『自分はぶどうで育ってきたのだから、ぶどう作りを継承するのが当然だ』という意識が強いことに驚かされます。しかし、親の世代は販売が激減した苦難の時期を耐えてきたことも、しっかり理解してもらいたいのです。現状に甘えることなく、変化への対応を図っていってほしいと思います」

 JA中野市では、飛躍の渦中にある今こそ、その先を見つめたアクションが必要だと警鐘を鳴らす。

 「いつまでも右肩上がりの好況は続きません。市場の変化に流されそうになった前回と同じ轍を踏むことなく、収益が上がっている今だからこそ、必要な投資を考えていきたい。私たちJA中野市は金融や保険機能もさることながら、あくまでも生産農協であることを誇りに思っており、これからもそうありたいと願っています」(大塚氏)

 「目下、『種なし巨峰』『シャインマスカット』と黒系・白系の主力品種が揃いました。次の戦略的品種として、赤系が欲しいというのが長年の願いでした。果樹試験場からは今年には赤系の新品種が登場する、という一報を受けています。生産者の皆さんと一緒に、新品種への取り組みを今から楽しみにしています」(小林氏)

 待ち受けるリスクを予測し、競争優位に立てる市場と商品を予測し、バイヤーのニーズを予測する――。常に先を読むアクションの積み重ねによって農業ビジネスのV字回復は成し遂げられた。新たな時代の変化はいつ訪れるのか。JA中野市とぶどう部会は、かつての冬の時代を教訓として、「次の一手」を模索している。

中野市のぶどう産業の推移と未来へのビジョンを語ってくれた徳武氏と小林氏
中野市のぶどう産業の推移と未来へのビジョンを語ってくれた徳武氏と小林氏
JA中野市の取り組み