西条柿でアジア市場を開拓せよ!

~高鮮度を保つ脱渋法は実るか? 輸出促進に挑むJAしまね

香港、台湾、シンガポールなどで一定の成果

 JAしまねは技術開発と並行し、販路の確保にも取り組んだ。その際気をつけたのは、貿易実務や売り上げの回収業務などを内部で抱えないこと。そのため、卸売会社や輸出商社と組み、輸出は彼らに任せることで、国内で取引が完結するようにした。

 脱渋法の長期化に関しては、収穫ピークをシフトして出荷するための保存方法を試していたこともあり、既存のドライアイス脱渋と組み合わせて改良した。まず、果実を0.06mmのポリエチレンフィルムで個包装し脱気をして完全密封する。それを重量比0.3~0.6%のドライアイスと一緒に封入し、2度の冷蔵庫で30日間置くと完全に脱渋できる。その期間を船便での輸送にあてれば、現地に到着したとき熟れ過ぎず完全に甘くなった状態で販売できる。輸送は酸素と二酸化炭素の調整ができる冷蔵コンテナ(CAコンテナ)を使用。「CAコンテナはコストがかかるので、荷受け側の了承が必要です。船便のコンテナは全長40フィート(約12m)もあり、西条柿だけで満杯にはできないので、輸出商社に他地域の産品と積み合わせてもらっています」と石倉氏は説明する。

JAしまね 米穀園芸部 園芸課 課長補佐 肥後利信氏
JAしまね 米穀園芸部 園芸課 課長補佐 肥後利信氏

 この方法で出荷することで、従来脱渋後数日で始まっていた果肉の軟化や果皮の黒変を、1週間から10日程度抑制できるようになった。2016年から香港、台湾のデパートなどで販売。好評で完売を果たし、大きな手応えを感じている。JAしまね 米穀園芸部 園芸課 課長補佐 肥後利信氏は、「東アジアは甘いものを食べる文化があり、西条柿の最大の特徴も甘さなので、受け入れられやすいと感じています。ただ富有柿などと色も形状も違うので、実際に食べてもらい認知してもらうことが重要です」と語る。

 コンソーシアムの活動で一定の成果が出た後、さらなる販路拡大を目指し県を巻き込んで東南アジアで販促活動を実施。2019年シンガポールの日系有力販売店で販売を開始した。香港・台湾向けの購買層は、個包装で運んでいるものも多くコストがかかるため富裕層に設定しているが、日系有力販売店の客層は異なるため販売価格を下げる必要がある。そこで、日本で脱渋後個包装をせず2週間かけてCAコンテナで輸送したところ、品質劣化がほぼなかった。日系有力販売店系列の商社を利用することで輸送コスト自体を抑制できたこともあり、より低廉な価格での販売を実現した。JAしまねは、行政とともに実際に現地で輸送後の品質確認と販促活動を実施し、成功を実感している。「日系有力販売店様から来年は倍の数量を欲しいと言われています」と石倉氏は語る。

生産や出荷の課題解決にも取り組む

 商品を効率よく売り切るためには、求められる品を必要な数、必要な時期に生産することが重要だ。しかし、農産物は工業品のように計画生産はできない。特に露地栽培は、年によって生育状況は変わるため、取引先から求められる規格・等級の果実を計画した時期に全量揃えて生産するのは困難だ。その課題を解決する第一歩として、日照、降水などの気象データを活用した収穫ピーク予測に取り組もうとしている。

JAしまね 出雲地区本部 営農部 販売開発課 係長 西尾一俊氏
JAしまね 出雲地区本部 営農部 販売開発課 係長 西尾一俊氏

 また、輸出の場合船便が決まっているため、確実に指定の時間までに商品を港に届ける必要もある。JAしまね 出雲地区本部 営農部 販売開発課 係長 西尾一俊氏は、「それまでに規格に適合する商品を必要な数集荷し、脱渋や個包装を済ませた上で輸送する必要があり、かなり大変です」と語る。

 肥後氏も、「10月、11月の出荷時期はトラックの確保が難しく、台風シーズンでもあるので物流がストップするケースも近年増えています。そういうリスクも考慮に入れながら遅れないように届ける必要があります」と説明する。そこで、輸送の課題を解決するため、JAグループの物流会社である全農物流を窓口にして効率の良い輸送ルートの検討を続けている。

輸出を軌道に乗せ、生産者の所得向上を目指す

 2019年の生食用西条柿の輸出量は、シンガポールに約1.8トン、香港に約3トン。台湾も変わらずターゲットではあるが、近年輸入検査が厳しくなっており苦戦している。JAしまねの果実全体の輸出金額は、2017年度が約500万円。これを3カ年で倍増させることが当面の目標だ。石倉氏は、「これまで単発のイベントで販促を行ってきましたが、島根の果実全体の存在感を高めるため、小売店での店頭販売をぶどう、メロン、柿、干し柿と、品目を途切れることなくリレーして品揃えし、点と点をつなげて線にしていきたい」と語る。

 これまでの経験である程度販売ルートを確立したJAしまねは、当面販路拡大は抑える方針だ。石倉氏は、「取引先が増え過ぎると、それぞれの要望に合わせた規格品を揃える必要があり、対応が難しくなります。そのため、当面は新たな商談会に出ず、現在の取引先に対して輸出または販売数量を増やしたいと考えています」と語る。

 JAしまねが目指すのは、最終的には生産者所得の向上だ。西尾氏は、「輸出用は事前に取引先への販売価格が決まるので販売額が見通せます。国内向けより高い販売単価に設定していることもあり、輸出用の規格に適合する果実を生産すれば、産地全体の販売金額も増加し、結果として生産者の所得も向上します」と語る。

 海外市場というマーケットが拡大することで、生産者のモチベーションも向上する。奥氏は、「輸出先の小売店で販促を体験したい気持ちはありますが、出荷のピーク時であり難しい。そこで、JAから現地の様子をフィードバックしてもらう機会を増やし、ニーズを理解する必要を感じています。それを理解した上で、販売先の期待に応えるものを生産していきたい」と語る。

 コンソーシアムでの技術開発で、保存や出荷方法の多様な選択肢を獲得したJAしまね。アジア市場での存在感を高めて輸出を軌道に乗せることだろう。