コロナ禍のピンチを、ファン獲得のチャンスに

~福島牛のクラウドファンディングとJA全農福島

コロナ禍で多くの産業が打撃を受けた。なかでも高級食材は、インバウンド需要激減の影響を受け苦境が続く。その一つが和牛だ。多くのブランド牛産地の中でも、ひと際苦しんでいるのが福島だ。様々な品評会での受賞も多く品質には定評があるが、原発事故に伴う風評被害で未だに価格が上がりきらない。そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。その状況を打破すべくJA全農福島が打ち出した策が、クラウドファンディング。乱立する食品系クラウドファンディングの中でいかに目標設定額を達成し、福島牛のブランディングにつなげたのか。プロジェクトを追った。

コロナ禍で和牛のインバウンド需要が激減

 甘みと柔らかさを備え、世界的に高級牛肉として知られる和牛。日本には多くの和牛ブランドが存在し、神戸ビーフや松坂牛はその代表格だ。ブランド牛とは、各地域で血統や育て方に基準を設け、地域一丸となって育んできたものだ。その中にあって福島牛は、1998年、「肉用牛枝肉共励会」で名誉賞に輝いた頃から注目され、おいしい牛肉として認知されてきた。

良質な霜降りを持つ福島牛は、全国的にも高い評価を得ている
JA全農福島 県本部長 渡部俊男 氏

 JA全農福島 県本部長 渡部俊男氏は「元々福島県には会津牛、相馬牛など複数のブランド牛があり、県全体で和牛ブランドを育ててきた」と説明する。

JA全農福島 畜産部 畜産販売課 課長代理 鈴木健一 氏

 しかしコロナ禍により、和牛の需要が激減。全国的に相場が大きく崩れた。東京食肉市場における和牛去勢(A-4※1)枝肉※2の平均価格は、19年11月には2,437円/キロだったが、20年4月には1,693円/キロと、7割を切るまで下落。元々東京オリンピック/パラリンピック需要を当て込んで子牛は高値相場になっていたため、多くの肥育農家が高値で仕入れていた。JA全農福島 畜産部 畜産販売課 課長代理 鈴木健一氏は、「肥育農家にとっては、高値で仕入れて安値で売らなければならないダブルパンチで、非常に苦しい状況におかれました」と語る。

※1 A-4:牛肉の格付け。アルファベットが歩留まりを、数字が肉質を表す。歩留まり等級はA、B、Cの3段階で、Aが最も肉が多く取れる。肉質等級は「脂肪交雑」、「肉の色沢」、「肉のしまりときめ」、「脂肪の色沢と質」で決まり、5段階に分かれ5が最も良い。
※2 枝肉:頭や内臓を除去し、背骨から2分割した骨付きの肉のこと。
牛肉生産と牛肉市場

 肉牛の生産農家には、母牛に子を産ませ約10か月間育てて市場に出す繁殖農家と、市場で購入した子牛を育て、肉牛として出荷する肥育農家がある。多くはどちらかの専業だが、繁殖から肥育まで一貫して行う場合もある。食用にされる肉牛は去勢された雄と雌のみで、種雄牛として育てられるのはごく一部の血統の良いエリート牛のみだ。

 肥育農家は、子牛を仕入れると20カ月程度肥育し販売する。和牛は柔らかく甘い味に仕立てるため肉にサシが入るよう育てる。いわば肥満状態で出荷しており、需要がないからといって飼養期間を延ばすとコストがかかるだけでなく、死亡リスクも高くなる。

 価格は基本的に市場での競りで決まる。バイヤーは月齢や格付けなどの基礎データを確認し、肉の断面など値付けに必要な情報と実際の枝肉を見比べて入札価格を決める。

未だ払拭できぬ風評被害の影響

 福島牛は、前述の1998年以降も毎年のように品評会で好成績を上げ、評価が高い。2017年からは4年連続「肉用牛枝肉共励会」で最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞。4年連続は全国初の快挙だ。

JA全農福島 畜産部 畜産酪農課 田中久雄 氏

 一方で、福島県産の農畜産物は、2011年の原発事故後の風評被害が、未だに残る。福島牛においても、壊滅的だった震災直後から昨年度まで全頭検査を実施。安全性や品質の良さをPRし続けてきたが、いまだ他産地に比べハンディがある。販売時に安全性を説明する必要があるなど、他産地の品よりも手がかかることから、敬遠する業者も一定数存在する。渡部氏は、「現在も牛肉の価格は全国平均よりキロ単価が200円程度安い(牛1頭あたりの枝肉重量は500kgなので10万円程度安い)。事故直後の出荷停止からようやくここまで来たものの、この差がどうしても埋まりません」と訴える。生産者も震災前は約200戸あったが、現在は3分の1程度の100戸以下と大きく減っている。当時販売担当だったJA全農福島 畜産部 畜産酪農課 田中久雄氏は、「出荷できるようになっても値が付かない。どうにもならず廃棄処分したこともあります。その間多くの方が離農されました」と語る。

 モノが動かないコロナ禍でさらに需要は下がり、一番苦しい時は平均との価格差が500~600円/キロにまで達した。東日本大震災を乗り越えた生産者の中にも、新たな苦境に耐え切れず、離農する人も現れている。

緊急対策として県内を中心に販促活動を実施

 この事態に危機感を強くしたのがJA全農福島だ。全農(全国農業協同組合連合会)とは、農業生産・農畜産物販売に関わる経済事業を全国段階で担う組織である。経済事業は主に2つあり、農畜産物の流通・販売と肥料や農薬など生産資材の供給だ。JA全農福島は、全農の福島県本部、すなわち県段階の組織にあたる。

 牛肉の市場への出荷は横ばいだったものの、東京食肉市場に出荷した肉を一部買い戻すなど、在庫の滞留が問題となった。冷蔵肉の保存期間は40日程度。それを過ぎると冷凍せざるを得ず、価値が下がってしまう。冷蔵庫の容量も限界があり、在庫を減らす必要もあった。

 少しでも在庫を減らすため、思いつく限りの販促活動を開始。まず行ったのが、JAグループと県庁など自治体の役職員に対する内部販売だ。また、県内に30店舗弱ある食肉を扱うJA直売所で応援フェアや、購入者にプレゼントを付けるキャンペーンを実施。全農のECサイト「JAタウン」でも販促キャンペーンを展開した。

 これらの活動によって、3,000万円程度の売上げがあった。渡部氏は、「劇的に在庫がなくなったわけではありませんが、それなりにモノが動きました。しかし、県内や県にゆかりのある人向けだけの販売では限界があり、広く県外にもアプローチできる方法を探ることにしました」と語る。全国へのアプローチとしてJA全農福島が目を付けたのが、クラウドファンディングだ。