コロナ禍のピンチを、ファン獲得のチャンスに

~福島牛のクラウドファンディングとJA全農福島

クラウドファンディングで全国へアプローチ

 クラウドファンディングの活用は、ネットで見た飛騨牛の取り組みにヒントを得たという。とはいえ初めての経験で、どうすればいいのかまったくわからない。そこで、以前から付き合いのあった地元新聞社「福島民報社」に相談した。福島民報社が、クラウドファンディングサイト「フレフレふくしま応援団」を持っていたことも追い風となった。

 福島民報社との1回目の打ち合わせが6月9日。そこからわずか1か月余り、7月1日にはプロジェクトを立ち上げるという異例のスピードで進んだ。

「部署を超え、若手職員に積極的に参加してもらったことも大きな意義でした」と語る渡部氏

 企画は中堅以下の若手職員を中心に行った。渡部氏は、「ネットを良く知り、柔軟な発想ができる若手職員に任せることにしました」と語る。立ち上げまで頻繁に会議を開催し、プロジェクトから返礼品のプログラムまで細部を急ピッチで詰めていった。鈴木氏は、「普段牛肉に関わっていない部署に所属する若手職員の発言に、多くの気づきがありました。このプロジェクト自体が結果として職員研修の良い機会となりました」と語る。

新規ファンの獲得と在庫削減に目的を絞り企画を展開

 今回JA全農福島が目指したのは、新たなファンの獲得と在庫削減だ。何よりこだわったのが福島牛のおいしさを認知してもらうこと。そのため、赤字覚悟の返礼品を揃えることにした。在庫を迅速に減らすため、逐次発送の即時サポート型とした。

 当初、余剰在庫の冷凍肉を出す案もあったが、「福島牛はこんなものか」と思われては心外だと、すべて新鮮な冷蔵肉とした。仕入れ担当者が自ら買付けし、徹底的に質・量にこだわった。返礼品の目玉は、1名限定で999,999円の「驚愕!福島牛まるごと1頭」だ。「この価格は相当お得です」(田中氏)。その他5,000円から250,000円まで6種類の福島牛のセットを用意した。15,000円コースがサーロインステーキ200g×6枚、5,000円コースが肩ロースカルビ700gといった具合だ。変わったところで、30,000円コースは好みの厚さに切れるよう3㎏のサーロインブロックを用意した。いずれも店舗で購入した場合より2~3割安く設定している。

返礼品も、牛一頭から地元の食事処でのお食事券まで魅力的なプランが提案された
地元のタレントなすびさんがアポなしで、応援団長に名乗りを上げてくれたことは企画を大いに盛り上げた

 クラウドファンディングのネーミングは、「#プロジェクトF ~あなたに届け福島牛~」に決定。7月1日にスタートし、当日は記者会見を行い県内メディアに広く告知。JA全農福島はOBや取引先にも積極的にDMを打ち、メルマガで記事を配信するなど広報に努めた。福島民報社も周囲に声を掛けるなど積極的に協力。広告も福島民報はもちろん、テレビ、ラジオなど県内メディアや、全国紙の東日本版に複数回掲載した。

 限定の1頭丸ごとは地元スーパー「いちい」が購入し、大々的に即売会を実施した。その際には、協力を申し出てくれた地元出身タレントで福島の観光交流大使も務めるなすびさんも参加。大いに盛り上がった。

消費者と直接つながりブランド力向上に寄与

 クラウドファンディングは2,000万円の目標金額を設定、9月13日に目標を達成した。従来リーチが難しかった県外からの応募も多く、全体の3割程度を占めた。それまで縁のなかった地域や企業単位での購入もあったという。渡部氏は、「ファンづくりを重視した企画のため、企画単体で利益を生み出したわけではありませんが、ブランド力向上に一役買ったと思います。何より今後に役立つ貴重な経験が得られました」と語る。田中氏も、「これまでアプローチできなかった方に福島牛を買ってもらうことができたことは大きい。普段は聞けない消費者からのコメントもたくさん頂け、希望の光が見えてきた気がします」と喜びを語る。

JAグループ福島肉牛振興協議会 会長 狗飼功 氏

 今回のクラウドファンディングは、JAグループ福島肉牛振興協議会と共催で行った。同会会長で肥育農家を営む狗飼功氏は、今回の取り組みについて次のように語る。「福島牛は原発事故以来安値が続いていますが、品質には自信があります。実際、『甘みがあっておいしい』とバイヤーの評価も高い。クラウドファンディングをやりたいと聞いた時、初めての経験で最初はどうなるか想像できませんでしたが、結果として多くの方から頂いた応援の声が苦しい状況で励みとなりました」。それに対して鈴木氏は、「日々不安を抱えながら仕事をしている生産者に喜んでもらえたことが嬉しい」と応える。

 今回の成功の要因はどこにあったのだろうか。最大の要因は、目的を明確にしたことだ。在庫削減と新規ファンの獲得に目的を絞り、目先の実利を追わなかった。人々の共感を生むため工夫もした。消費者に近い感覚で返礼品を選定するため、多くの若手職員を巻き込み、積極的に意見を反映した。福島牛の特徴をアピールするだけでなく、震災からの福島の肉牛農家の苦境を紹介したことも若手職員から出た貴重な意見だ。年齢や立場や部署の垣根を越えて、一体となって取り組んだからこそ、一定の成果を得られ、知見もたまったといえる。渡部氏は、「福島県産の農畜産物で苦労しているのは牛肉だけではありません。業務用販売の多かった福島米も苦境に立たされています。今回、クラウドファンディングで得た知見も生かし、対策を打っていきたい」と意気込む。

 大きなハンディキャップを負いながら、全力で安全・安心でおいしい農畜産物生産・販売に取り組む福島の農家とJA全農福島。クラウドファンディングで得た知見や全国からの温かいエールを糧に、これからも歩み続ける。

クラウドファンディングを1度の企画で終わらせず、いかに次につなげていくかが今後の課題だ