現場が喜ぶ農業IoTの決定打はこれだ!

近年増加の窃盗対策も実現するJAフルーツ山梨

人感センサーで盗難対策も万全

 さらに、IT化は農作物の盗難防止にも大きな効果を発揮している。

 近年、全国的に収穫間際の果物などが盗まれる被害が相次いでいる。露地栽培の圃場が被害に遭うケースが多く、未解決の例が多い。犯人をつかまえるのは難しく、被害への何の補償もなく、泣き寝入りするしかないのが実情だ。

 とりわけこの地区で栽培されている果樹は高単価で扱われるものが多いだけに、盗難被害も少なくない。昨年、3000個のももを盗られた農家もいるという。

 そこで、盗難防止のため、4年前に人感センサーを活用したシステムを構築。三脚に取り付けられた人感センサーは鳥獣や人影などを感知すると、生産者やJA職員など指定のメールアドレスにアラートが通知されるという仕組みだ。

 現在も、被害に遭った圃場を中心に人感センサーを設置し、警戒を続けている。

 今年6月28日にはドローンを使い、上空から不審者を撮影する実証実験も実施した。地元警察も定期的にパトロールをするなど協力的で、基幹産業である果樹栽培を地域ぐるみで守っている。こうした地道な対策を続けることで、4、5年前のピーク時と比べ、確実に盗難が減っているという。

新規就農のハードルを下げる

 「スマート農業に取り組んで作業が楽になるのは当たり前。でも、自分たちが楽になることが一番の目的ではない」と手島氏は説明する。

 ではどんな狙いがあるのか。それは、熟練農業者が長年の経験や勘に基づいて蓄積してきた栽培のノウハウを、IoTセンサーを活用してデータ化。それを収集のうえ、標準化された栽培基準に落とし込み、地域の生産者に共有する。とりわけ若い世代の新規就農者が就農しやすいようにつなげたいというのが、今回の取り組みの趣旨である。

 実際、果樹試験場が中心となって策定する栽培基準はこれまでに何度も改訂され、地域で共有されている。ハウス内の環境データと、ぶどうの生育との関連データを蓄積・分析するほど栽培技術は向上。データ提供者が多くなればなるほど、データはより精緻になる。そうなれば、さらにこの地域で栽培するぶどうの品質は上がり、ひいてはブランド力アップにもつながっていくはずだ。

 IoTへの取り組みは、現状の農作業の改善にとどまらず、この地域で、将来にわたって継続的に高品質なぶどう作りができることを目指しているわけだ。

 情報を共有化することの意味は大きく、新規就農者の場合、栽培ノウハウを身に付けるまではさすがに苦労を強いられるものの、「1年目から品質の良いぶどうができ、すぐに収益を上げられる可能性が以前より大きく高まった。新規就農のハードルが下がるし、人材育成にも役立つ仕組みだ」と手島氏は話す。

ハウス内に設置されたIoTセンサーとカメラ

価格がネックも、普及に期待

 IoTセンサーを導入し、ハウス内の環境データを取得するには、年間で10万円ほどかかる。手島氏は「これからの時代、それぐらいの投資は必要」と話し、このシステム導入のために、スマートフォンを持つようになった人もいた。

 もっとも、何から何までうまくいったわけではない。システム活用に消極的な人も当然いる。各農家に案内して回った際、「わざわざ高いお金を払って導入しなくても、家からハウスも近いし自分で見回りをすればいい。長年の経験で温度調整も問題なくできる」と断られることも一度や二度ではなかったという。地域には高齢者も多く、いくらIoTだ、スマート農業だと訴えても、必要性にピンと来ない人もいる。

 反田部長は「2、3年ぐらいで一気に普及するものと考えていたが、想像以上に普及は難しかった。10万円という金額で二の足を踏む人が多かったようだ」と振り返る。

 それでも、このシステムの導入こそが、今後この地域で農業を営んでいく上で必要不可欠だという信念は揺るがない。機械ができることは、機械に任せる時代。データに基づき、栽培基準に従った栽培ができれば、より良い品質のぶどうができる。省力化で浮いた時間で、露地栽培などに手をかければ、規模拡大も可能だからだ。

 最近では、詳細なデータは取れないが、温度と湿度のみ取得可能というセンサーも3万円台で登場している。行政が機器の利用代金の何割かを負担してくれる補助制度もある。そうした面もアピールしながら、粘り強く普及を推進していきたい考えだ。

 フルーツ王国・山梨県の中でも、JAフルーツ山梨の管轄エリアは、県下の果樹生産量の4割以上を占める一大産地。それだけにJAフルーツ山梨のIoTへの取り組みも早く、ぶどうやももの栽培におけるスマート農業の取り組みは先頭を走っていると言っていいだろう。反田部長は「先進地域として、これからも新しい農業技術に積極的に取り組んでいきたい」と意欲を見せる。