原産地消滅の危機を救え!

伝統野菜「日野菜」を地域一体で守る JAグリーン近江

生産者だけでは無理、農工商が異分野で連携へ

 伝統野菜を産地消滅の危機から救い、地域振興の武器として生かすためには、販売やPR活動、商品開発などのビジネス的な視点が必要になる。それは生産者だけの力では不可能だ。日野菜のケースでは、生産者とJA、商工会、関連する各自治体が協力し、農工商の連携によって異分野から様々な取り組みが進められた。

 2007年に日野町商工会が中心となって「日野菜プロジェクト」が立ち上がる。これは日本商工会議所が中小企業庁からの補助を得て運営する小規模事業者新規事業全国展開支援事業の「地域資源∞全国展開プロジェクト」を活用したものだ。ここに「特産品の開発」「日野菜栽培の推進」「広報出展」の3つの部会ができた。

 それを機に、日野町商工会、JAグリーン近江、日野町、滋賀県、日野菜原種組合が一丸となった取り組みが始まる。JAグリーン近江が事務局と生産支援、食品加工などを担当し、商工会は補助金を得る活動を支援した。このJAグリーン近江と日野町商工会の連携が軸となり、プロジェクトに拍車がかかる。

 2008年には商工会の支援により東京と大阪で商談会を行うなど、活発な販売活動が始まった。滋賀県庁はメディアへの働きかけや展示会への出展などのPR活動を後押しした。それぞれの分野での活動が次第に奏功し、日野菜の知名度は上がっていく。

 2010年には、JAグリーン近江が緊急雇用助成金を利用して新たに2名の人材を採用、商工会と連携して日野菜を原料とする「日野菜ドレッシング」や「日野菜マリネ」といった加工食品を開発した。こうした加工食品は2017年から東京日本橋の情報発信拠点「ここ滋賀」でも販売され、売れ行きも好調だという。これを受け、2018年4月には加工場と出荷室、検査室、事務所を備えた日野農産物加工施設を新築した。

日野農産物加工施設では漬物を始め、日野菜を原料とする加工食品が作られている
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日野農産物加工施設では漬物を始め、日野菜を原料とする加工食品が作られている
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日野農産物加工施設では漬物を始め、日野菜を原料とする加工食品が作られている

 そうしたPRや商品開発などと並行して、JAグリーン近江では日野菜の生産量を増やすための耕地拡大にも努力する。新規就農者を増やし、耕作面積を拡大するために農家への働きかけを行う一方、滋賀県とも協力し、栽培技術の指導を行っている。

 2016年には「原産地・日野菜ひとうね運動」がスタート。新たに日野菜の栽培を始める人に日野菜に適した鎌掛長野地区の農地を貸与し、部会員による技術指導を展開。うね単位で栽培を広げている。耕運、種まき、肥料の散布などは会員が協力して行い、生産部会は現場でアドバイスを行い、勉強会も催した。

 手作業中心だった加工施設にも2020年から新たに2台の機械が入り、生産効率が向上。同年2月には厚労省の衛生管理制度「HACCP(ハサップ)」の対応も始めている。

 こうした一連の取り組みにより、現在では生産者が50~60名程度まで増えた。ただし、その中心は70歳~80歳代が中心であり、高齢化の問題は依然として残る。

今こそビジネス的視点から価値の再発見を

 ここまでの活動を振り返り、滋賀県東近江農業農村振興事務所 農産普及課主幹の松井賢一氏は「伝統野菜を守り育てる活動でまず大切なことは、その重要性を地元の方々に認識してもらうことです」と述べる。

滋賀県 東近江農業農村振興事務所 農産普及課 松井賢一 氏
滋賀県 東近江農業農村振興事務所 農産普及課 松井賢一 氏
JAグリーン近江 日野東支店 営農経済課 髙畑和司 氏
JAグリーン近江 日野東支店 営農経済課 髙畑和司 氏

 メディアへの売り込みや展示会出展が重要なプロセスになった。並行して、小学校の給食に出すなど地産地消の取り組みを進めた。伝統野菜をふるさとの味としてPRし、まずは地産地消によって市場を拡大することが伝統野菜復活の土台になる。

 また、JAグリーン近江日野東支店営農経済課の髙畑和司氏は「伝統野菜を貴重な資源として再認識し、原種を守ることが大切です」という。

 そのためには、前述したような農地貸与や技術支援により、生産者が日野菜を育てやすい環境作りが必要になる。JAグリーン近江では、農業者の営農支援、日野菜の加工、販売促進などの活動をさらに効果的に進めるため、地理的表示(GI)保護制度への登録という挑戦も始めている。

JAグリーン近江 営農事業部特産課 山口善弘 氏
JAグリーン近江 営農事業部特産課 山口善弘 氏

 JAグリーン近江営農事業部特産課の山口善弘氏は、生産者とJA、商工会、自治体が協力することの重要性を説く。「協力の輪が広がることで、地元の人々が次第に日野菜を愛するようになります。地元スーパーを中心に、日野菜を扱いたいという商店が増えていきました」と語る。

 日野菜の評価は年々高まり、その取り組みは拡大している。コンサルタントを入れ、新商品の開発や高級ホテルを巻き込んだマーケティングなども模索している。

 550年の歴史を持つ日野菜。この素材をどう生かし、輝かせていくか。そこには生産者だけでなく、技術、マーケティング、広報、流通、販促など、様々な分野からの協力が必要になる。持続可能な食文化の実現に向けていま必要なのは、生産だけではなく、ビジネス的な視点による価値の再発見だ。