山崎製パンがJAいちかわと手を組む理由

「市川のなし」の安定供給が、商品開発を支え続ける

生産者が困る時期を見定める

 季節限定品と並ぶコラボレーション商品のもう一つの柱は、冒頭で紹介した「梨ウォーター」「和梨バウム」などの定番商品だ。2014年に「梨ウォーター」を発売したのに続き、翌15年には「和梨バウム」を発売。電子商取引(EC)市場にも投入する。どちらも箱入りを取り扱っていることから、贈答品としても利用されている。

 これらの商品開発を可能にしているのは、原材料である梨の安定供給である。

 山崎製パン松戸工場では梨の出荷時期を迎える前に、季節限定品の内容を決め、売り上げ目標から原材料である梨の必要量を見込む。そこに、通年販売する定番商品で必要とする量を加え、向こう1年間で見込む使用量をはじき出す。その数字をはじめとする各種の仕入れ条件を、業務用食品原料卸の会社を通じてJAいちかわに伝える。

 年間の見込み使用量は、おおむね10t前後。梨本来の味や風味を感じさせるには、相当の量を使用しなければならない。「水分量が多い果実だけに、大量に使用しないと味や風味をしっかり感じさせられません。商品開発に成功しているのは、必要とする量を安定的に供給してくれるJAいちかわの協力があればこそです」。門屋氏はそう強調する。

 一方、山崎製パン側からJAが注文を受けると、組合員である生産者から出荷を希望する量を個別に聞き取り、出荷可能な量を見込む。集荷施設に予冷庫がないため、梨の日持ちを考えると、出荷可能な量は1回当たり最大5t。「注文を受けた量に満たない場合は、出荷を希望する量を比較的多く伝えてきている生産者に呼び掛け、足りない分を補えないか、相談するようにしています」(武藤氏)。

 安定供給の秘訣は、出荷時期の調整だ。

 「市川のなし」は、早生の幸水に始まり、豊水、あきづき、と収穫が進み、晩生の新高で終わる。例年、8月から10月までの間が旬だ。このうち規格外が生じやすい時期は、品種を問わず収穫間もないころ。品種や気候によっては、別の傾向も見せる。「品種が例えば新高の場合、8月が猛暑に見舞われると、規格外が生じがちです」(武藤氏)。

 JAいちかわではこうした傾向を踏まえ、規格外の生じやすい時期を見定めている。武藤氏は「規格外が生じて生産者が困る時期を見定め、そのタイミングに出荷の時期を合わせるように心掛けています」と、安定供給の秘訣を語る。

梨の需要・価格を上向かせたい

 出荷の量と並んで重要なのは、価格だ。幸い、原材料に用いる梨は規格外のため、価格は市場への出荷に比べ安く抑えられる。とはいえ、あまりに安ければ、生産者は出荷に二の足を踏む。梱包作業の手間を掛けてでも出荷するだけの見返りを得られるのか――。

 「山崎製パン側からは、『この価格帯なら問題ない』と、生産者が前向きに作業に臨める価格帯を提示してもらっています」と武藤氏は明かす。しかも箱詰めには、梱包用の副資材はいらない。「工場側には副資材なしで受け入れてもらっています。取引価格にしても出荷形態にしても、生産者が前向きに取り組めるだけの条件が整えられているからこそ、互いの関係がここまで長続きしているのです」(武藤氏)。

 10年以上にわたる積み重ねの中、「市川のなし」を活用したコラボレーション商品は消費者の間で定着してきた。門屋氏は「千葉県内での売り上げが多く、地域の方に受け入れられていることは確かです。地産地消を目に見える形で打ち出せたことが、こうした地元の評価につながったのではないでしょうか」とみる。

 生産者の間でもコラボレーション商品は好評だ。「市内で営む直売所で『梨ウォーター』などのコラボ商品を取り扱い、生産者としてそのPRに乗り出しているほどです」と武藤氏。コラボ商品には生産者としての誇りや愛着を感じているという。

「市川のなし」を使用したプリン、ゼリーなどコラボレーション商品が続々と生まれ、生産者のモチベーションも高まっている
「市川のなし」を使用したプリン、ゼリーなどコラボレーション商品が続々と生まれ、生産者のモチベーションも高まっている

 そこには、山崎製パン松戸工場の持つ商品開発力への敬意もある。「商品開発力の高さを象徴するのは、『梨ウォーター』です。『市川のなし』の販路でもあるアラブ首長国連邦(UAE)に輸出したところ、とても好評でした。幅広い消費者に受け入れられる商品を開発できる力を持つからこそ、安心して連携し続けられるのです」(武藤氏)。

 山崎製パン松戸工場では今後、「梨ウォーター」「和梨バウム」に続く定番商品の開発に乗り出したい、と意欲を見せる。門屋氏は「例えば梨のスイーツで広く受け入れられているものは何かという現状分析から、その方向性を探っていきたい」と将来を見すえる。

 かたやJAいちかわでは、加工品であるコラボレーション商品の魅力だけでなく農産物である「市川のなし」の魅力も同時に社会に訴える企画を展開していきたい、と意気込む。その先に見すえるのは、農産物そのものの価値向上である。

 「加工品のPRを通じて農産物の需要や価格が上向くことを願っています。それこそ、JAとして目指すところ。優れた加工品と連携したPRを通じて、『市川のなし』への評価を一段と高められる企画に挑戦したいですね」。武藤氏は思いを熱く語る。