ニッポン農畜産物輸出の理想形を求めて

長いもの海外展開が軌道に乗ったワケ、JA帯広かわにし

組合長を「お父さん」と呼ぶ間柄

 1999年以降、台湾への商流を築いていく中で出会ったのが、いまその肝を握るパートナー企業グループである。台湾や米国に拠点を置くほか、帯広市内に現地法人を立ち上げ、国内のほかの地域でも青果物の輸出業務を手掛ける日本人担当者を置く。

 輸出先を米国やシンガポールにまで広げられたのは、このパートナー企業グループの力でもある。国内のほかの産地が同じ台湾への輸出に踏み切る中、台湾市場で、長いもは量的に飽和状態であることから、パートナーと交渉し、ほかの国に販路を広げてきた。

 この「JA帯広かわにしのために!」という強い思いのあるパートナー企業との信頼関係は、厚い。「先日、11月から始まる収穫に向け、米国法人の社長とウェブ会議を開きました。『またよろしく頼みます』とお願いすると、社長からは『質のいい長いもを待っています』と、期待の言葉を掛けられました。JA帯広かわにしの代表理事組合長を、社長は『お父さん』と呼ぶ間柄です」(山根氏)。

 JA帯広かわにしにとって、パートナー企業グループは直接の取引相手ではない。しかし代表理事組合長自ら、グループ各社のトップとコミュニケーションを取り、互いにチームであることを強く意識している。なぜなのか――。

 実はここに、「十勝川西長いも」の海外展開が軌道に乗った大きな理由がある。それは一言で言えば、品質管理。生産者が育てた長いもを、商品として良質な状態で消費者に届けるための努力や工夫である。ブランド維持には欠かせない取り組みだ。

帯広市川西農業協同組合(JA帯広かわにし) 青果部長 藤岡和博 氏
帯広市川西農業協同組合(JA帯広かわにし) 青果部長 藤岡和博 氏

 栽培管理の統一は、その一つだ。広域共販体制の下、ブランド価値を保つには、栽培の仕方や収穫の時期を揃えなくてはならない。JA帯広かわにし青果部長の藤岡和博氏が例として挙げるのは、つるを切る作業から収穫までの過程にある。

 「つるを切る作業は十分黄変が進んでから開始します。また、つる切りからすぐ収穫してしまうと、皮がすぐ向けてしまう。つる切り後は10日間そのままにし、長いもを土の中で完熟させる必要があります。この10日間を熟成期間として守るように指導しています」

 栽培管理の統一は国内向けにも海外向けにも共通するものだが、選果段階では独自の取り組みがみられる。長いもでは国内最大規模の洗浄選別施設では、ほぼ100%の精度である3次元カメラを用いた無人選別に加え、最終的には人の目を用いた選別を行う。

海外向けの取り組みとして、選果段階で人の目を介した独自方法を採用
海外向けの取り組みとして、選果段階で人の目を介した独自方法を採用

チーム内で品質管理への思い共有

 「長いもは洗浄するとキズがつきやすくなります。よってどこかの段階で腐敗菌が入り、傷んでしまう恐れがあります。そのため、表面のキズには大きな注意を払う必要があります。この洗浄選別施設では、選別基準に対する従業員教育を随時行いながら、万全を期しております」(藤岡氏)。

 品質管理上、自らの手を離れてしまえば、やれることは限られる。しかし消費者の手に届いた時、品質に問題があれば、問われるのは産地の責任だ。「売って終わりではない」。山根氏は自戒の言葉を口にする。

洗浄選別施設の入口に並ぶHACCP認証などの掲示は、JA帯広かわにしが高水準の品質管理に取り組む証だ
洗浄選別施設の入口に並ぶHACCP認証などの掲示は、JA帯広かわにしが高水準の品質管理に取り組む証だ

 ここで、商流の一部を担うパートナー企業グループの存在が、浮かび上がる。信頼関係を築き、長いもを出荷するJA側の思いを受け止めてもらえれば、商流の一部を担う立場で品質管理にも気を配ってもらえる。チーム力の発揮に期待できる。

 山根氏は互いの関係性をこう話す。「質のいい長いもを出荷しようとする私たちの努力を理解し、生産者を応援したいという思いで販路開拓に努めてくれています。JAのために、生産者のために貢献したい、というパートナーの思いに応えようと、私たちもさらに、質のいい長いもを出荷しようと努力を重ねています」。

 このチームでいま模索するのは、米国の中でも日本からさらに離れる東海岸への販売だ。西海岸からの陸送期間は1週間。その間の陸送コストや品質管理に課題はあるものの、同じ規格の長いもを一度にまとまった量で供給できる強みを発揮する。パートナー企業グループとともに販売数量拡大の可能性を探っている。

 「最大の課題は、コールドチェーンを確立できるか、という点です。私たちはそこまで直接に関与することはできませんが、パートナーと連携し、互いの信頼関係の下で課題を乗り越えていきたいですね」(山根氏)。

 「十勝川西長いも」にはいま、期待の品種「とかち太郎」が登場しつつある。特徴は、従来の品種に比べ太く、生産量を20%ほど多く見込めること。サイズの大きなものが収穫されやすいため、そうしたものが好まれる海外向きの品種とも言える。

 山根氏は「『とかち太郎』の登場でサイズの大きなものが増えれば、輸出をさらに拡大していきたい」と、販路開拓に積極的だ。生産者の収益向上を第一に考えるという姿勢に変わりはないが、今後、米国東海岸への販売をパートナー企業グループの力で本格化させられれば、海外展開にいっそう弾みがつきそうだ。