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2022.01.20
文=茂木俊輔
「ハウスすだちを国際イベントに提供してみないか。すだちで『参加』できたと誇れるぞ」――。こうげきを飛ばしたのは、JAアグリあなんの経済部部長、湯浅嘉文氏(以下、湯浅(嘉)氏)だ。関連イベントからも声が掛かれば、販路にはさらに広がりが見込める。
国際イベントへの提供が決まれば、生産者のやる気は高まる。JAアグリあなんのすだち部会で部会長を務める松﨑克弘氏は「国際イベントに食材として提供できるともなれば、生産意欲はぐっと上がるものです」と顔をほころばす。
残念ながら国際イベントは新型コロナウイルス感染拡大のあおりを受け1年延期したうえに原則無観客。当初の見込みとは異なるものの、国際イベントへハウスすだちを無事に提供できた。
内外から多くの人が集まる国際イベント。そこに食材を提供するのは、安全確保の観点から容易ではない。提供が認められる農場には条件が課される。
国際イベントで求められたのは、「GAP」の取得である。「GAP」とは「Good Agricultural Practice」の頭文字を並べたもの。一言で言えば、生産工程管理の取り組みだ。農場を「見える化」することで、生産管理、生産効率、経営意識、それぞれの向上につながる効果が見込め、人材の育成や生産物の競争力強化にも有効と言われる。
JAアグリあなんでは県産食材を国際イベントに提供していこうと、このGAP認証の取得をめざした。2017年度にはまず自ら理解を深める目的で湯浅(嘉)氏と経済部営農課の小出水沙織氏がGAP指導員の資格を取得。翌2018年度には、湯浅(嘉)氏が営農指導事業で果樹を長年担当してきたこともあり、食材をハウスすだちに絞り込んだのである。
すだちは、徳島原産で生産量は全国一。9割以上のシェアを占める。露地すだちに加え、ハウスすだちや冷蔵すだちを組み合わせ、いまでは周年供給の体制を築く。
向かうところ敵なしで安泰かと言えばそうではない。湯浅(嘉)氏は「競合するほかの産地がなく、生産段階では競争環境がないに等しい。ところが売り場に置かれるときは、大分産かぼすや瀬戸内産レモンとの間で場所を取り合うことになります。それだけにブランド力の強化が課題だったのです」と明かす。
当時、すだちの生産量は高齢化を背景に減少傾向にあった。松﨑氏は「高齢化で産地の生産意欲にかげりが出始めていました。生産に若手が携わるようになり、地域の活力が高まらないと、産地としては発展が見込めません」と、危機感を口にする。
トレーサビリティの確保という産地としてのリスク管理も課題だった。湯浅(嘉)氏は「出荷したすだちにトラブルが生じたとき、トレーサビリティを確保できていないと、生産者を特定できないため、生産者全員を出荷停止にしなければならない。しかしそれは、産地としては致命傷。避けなければなりません」と表情を引き締める。
GAP認証の取得は、こうした課題に対応するためにももってこいの取り組みだった。「認証取得はそう簡単ではありませんが、経験上、壁に突き当たった産地は次のステップに踏み出すためにも具体的目標を持つべき、と痛感していました」(湯浅(嘉)氏)。
めざしたのは、GAPの団体認証である。ハウスすだちの生産者48人で「JAアグリあなんJGAPグループ」を組織し、JAアグリあなん経済部が事務局を務める。「JGAP」は「Japan Good Agricultural Practice」の頭文字を並べたもの。一般財団法人日本GAP協会が運営する日本発のGAP認証である。