国際イベントで調達される食材をめざせ!

GAP認証の取得で県産食材の拡販へ、JAアグリあなん

新規就農者の経営支援にもプラス

 団体認証は農場単位で個別に取得する個別認証と違い、生産工程管理上の役割や認証の取得・更新などに必要な費用を、事務局やほかの構成員との間で分担できるため、生産者側の負担は個別認証に比べ抑えられる。さらに松﨑氏は別の角度からメリットを説く。「団体認証の魅力は、産地全体の品質を上げ、販路の拡大を図れる点です。個別認証とは、そこが大きく異なります」。

 認証取得に向けた合意形成に困難は付きまとうものの、一つの団体としてまとまることさえできれば、産地側としてメリットを見込めるわけだ。

 湯浅(嘉)氏が苦労したというのも、この合意形成である。個別認証に比べれば負担は抑えられるとはいえ、認証取得・更新には一定の費用が掛かり、生産工程管理上必要な整理整頓や作業記録など、それまでにない手間も生じる。

 「それでいて、生産者にはどんなメリットが見込めるかと言うと、実感を持ってもらいにくい。『なぜ、そこまでしないといけないのか。信用できないのか』と、生産者からは様々な意見がありました」と、湯浅(嘉)氏は振り返る。

GAP認証に関する資料の一部。手間もかかり、生産者の理解が不可欠だ
GAP認証に関する資料の一部。手間もかかり、生産者の理解が不可欠だ

 生産者の理解を促すための一つとして湯浅(嘉)氏が企画したのは、先進地の視察だ。行き先は大分県である。JAおおいたの柑橘研究会ではポンカン生産者で組織するGAP部会を立ち上げ、特産品であるポンカンについて団体認証を一足早く取得していた。

 大分視察を終えると、湯浅(嘉)氏はハウスすだちの生産者に認証取得への協力を求めた。「すだちを高く売るための道具ではないが、ブランド力の強化を図れる。費用負担はあるものの、補助金である程度抑えられる。認証取得に挑戦してみないか」と呼び掛けました。その先には、東京2020大会への『参加』を見据えていた。

 幸い、「認証取得は面倒ではあるけれど、できないことではない」と、グループ内の風向きは変わり始めていた。折しも、後継者など新規就農者がハウスすだちの生産に新しく取り組む例がみられ始めた時期。新規就農者の農業経営を支援する観点から、認証取得はプラスに働くのではないか、という見方も出ていた。

 「GAP認証を取得すれば、作業内容を記録に残すことになります。つまり過去のデータを基に生産工程を見直すことが可能になるのです。失敗しても原因を究明しやすいから、経営を軌道に乗せやすい。新規就農者には助けになるはずです」(松﨑氏)。

 2018年度には、JAアグリあなんJGAPグループに属する生産者16人が認証取得をめざした。徳島県、JA徳島中央会、JA全農とくしまとも連携を図り、指導員の養成、帳票類の整備、現地指導、内部監査に取り組んだ。補助金は国の農業生産工程管理推進事業交付金やJA徳島中央会が運用する徳島県担い手応援プログラムを活用し、生産者の自己負担分を総事業費約233万円の2割程度に抑えた。

 2019年5月、第一陣の16人がGAP認証を取得。後に続く生産者が絶えることはなく、認証を取得済みの生産者は2021年12月現在、37人に達する。「現在JGAPグループに属する49人全員の認証取得を最終目標に掲げています。次の段階では、40人へのステップアップをめざしています」(湯浅(嘉)氏)。

次の照準はマスターズや大阪万博

 GAP認証の取得で生産現場にはどのような変化がみられるのか。

JAアグリあなん すだち部会 副部会長 湯浅幹根 氏
JAアグリあなん すだち部会 副部会長 湯浅幹根 氏

 すだち部会副部会長で第一陣として認証を取得した湯浅幹根氏(以下、湯浅(幹)氏)は大きな変化として整理整頓の徹底を挙げる。「時代の流れに乗り遅れないようにしたいという思いから認証取得に挑戦しました。整理整頓の徹底には気を配っています」。湯浅(幹)氏はUターン組。5年前、勤務先のある大阪から実家に戻り、すだち生産という家業を継いだ。

 グループ内では、認証取得済みの生産者はもちろん、認証をまだ取得していない生産者も、事務局で独自に作成した農場マニュアルに従って生産工程の管理にあたる。小出水氏は「認証をまだ取得していない生産者の中にも、生産工程管理でやるべきことを認証取得済みの生産者と同じようにやり切れる人が出てきています。グループ全体の底上げにつながっています」と、現状を評価する。

 意識の変化も生じている。「最近は、GAP認証の取得が目を引くのか、後継者など新規就農者が毎年みられます。団体認証の取得を進めていることから、グループ内では新規の就農者を支援していこうという意識が高まっています」(小出水氏)。生産に若手が携わるようになれば、地域の活力が再び高まることにも期待を持てる。

GAPによる経営改善効果
GAPによる経営改善効果
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 ブランド力の強化はどの程度図れたのか。経済部部長の湯浅(嘉)氏はこうみる。「コンビニエンスストアやうどん専門店チェーンとの間では、こちらからの売り込みに迅速に対応してもらえるようになりました。値段がそう変わらないのなら認証済みのものを仕入れようと考えるのでしょう。箱やパックにはGAP認証のマークが印刷されているため、認証を知る消費者も安心して購入できるようになっています」。

 とはいえ、消費者の間ではGAP認証の認知度はまだ高くはない。「認知度を高める一方で、流通大手を中心に販路を開拓し、生産者に認証取得のメリットを訴えていきたいですね。認証取得の継続には、それが欠かせません」(湯浅(嘉)氏)。

 GAP認証の認知度に加え、徳島県産すだちそのものの知名度を上げる好機ともなるのが、国際イベントだ。2021年5月に徳島県を含む13府県政令市で4年に1度の生涯スポーツの国際総合競技大会「ワールドマスターズゲームズ2021関西」が開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2026年5月に延期が決定。さらに2025年4月から10月までは大阪・夢洲を舞台に国際博覧会(大阪・関西万博)が開催される見通しだ。そこで調達される食材をめざすうえで、GAP認証は武器になる。

JA徳島中央会 JA支援室 部長 中西健 氏
JA徳島中央会 JA支援室 部長 中西健 氏

 JA徳島中央会JA支援室部長の中西健氏は将来への意気込みを語る。「すだちの知名度を高めるためにも、県下のJA全体で連携し、国際イベント等において積極的に売り込んでいきます。いま予定されている国際イベントはどちらも徳島県内や近くで開催されるもの。ビジネスチャンスと捉え、その好機を生かしていきたいですね」。

 将来の農業に弾みをつけるためにも足元でまず求められるのは、コロナ禍で打撃を被った飲食店からの需要が激減し、例年の3分の1にまで落ち込んでしまった生産額の回復だ。湯浅(嘉)氏は「JA全農とくしまやJA徳島中央会とも連携して販売網を立て直し、生産額を例年の水準に戻すのが、当面の目標です」と、決意を明かす。