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「高松盆栽」がアジアや欧米といった海外の市場を頼りにせざるを得なくなった背景には、国内需要の低迷という厳しい現実がある。香川県の調査データによれば、出荷数量は右肩下がりの時期は脱したものの2015年以降は横ばい傾向が続く。「市場価格の伸び悩みから後継ぎがいなくなり、撤退する生産者が多かった」と、尾路氏は分析する。
こうした現実を前に「高松盆栽」の振興を図ろうと、JA香川県では2020年4月、情報発信と人材育成の拠点として「高松盆栽の郷」を開設している。屋外では、高松盆栽の郷推進協議会の会員である約50軒の生産者が出品する展示即売用盆栽約1万点を陳列し、屋内では、JA香川県や推進協議会などが「高松盆栽学校」や「高松盆栽の郷フェスタ」など盆栽関連のイベントを開催する。

敷地は、JA香川県が国分寺地区に置いていた展示即売所「国分寺盆栽センター」の跡地。北岡氏は「施設の老朽化と狭隘化が進んでいたことから、その建て替え更新を図りながら、『高松盆栽』の展示即売機能をここに一本化しました」と、開設の経緯を語る。
展示即売という機能に限れば、「高松盆栽の郷」は、同じくJA香川県が県内28カ所で運営する農産物直売所と同じ位置付けだ。「取り扱う品目が、野菜や果物ではなく、盆栽である、というだけの違いです」と、北岡氏は解説する。
この展示即売の機能は、生産者にとってなくてはならないものだ。通常、消費者への直接販売となると、自ら営む盆栽園に来訪してもらうことになる。しかし消費者からすれば、約50軒もの生産者の中から個別に盆栽園を選び、現地を訪ねるのは手間が掛かる。気後れもするだろう。販路としては限界がある。
ところが、誰もが気軽に利用できる直売所に多くの盆栽がまとまって陳列されていれば、手軽に買い求めることが可能だ。「高松盆栽の郷」に出品する尾路氏も「ここを利用することで販売しやすくなりました。約1万鉢の盆栽には全て値札がついており、価格交渉も不要です。売上増にもつながっています」と評価する。

JA香川県ではさらに、電子商取引(EC)サイトの開設にも乗り出した。「高松盆栽の郷」オンラインストアでは、推進協議会の会員である生産者が出品した250点以上を販売。盆栽の選び方、育て方などの情報も幅広く発信している。日本語、英語、中国語(簡体・繁体文字)に対応した「高松盆栽」のブランドサイトから誘導する工夫も施す。
販路を拡充する一方、「高松盆栽」をまず身近に感じてもらおうと「高松盆栽の郷」への集客にも工夫を重ねる。その一例が「高松盆栽学校」である。高校生以上を対象に全6回の講座を年2回開催する。講師は推進協議会会員の生産者が務める。開設当初は「初級コース」から始め、2022年4月には修了者を対象に「中級コース」も新設した。北岡氏は「好評の企画です。県内だけでなく、近県からの申し込みも見られます」と、手応えをつかむ。
開設当初の2年間は、コロナ禍のあおりを受け、思うような集客を実現できなかった。「利用者も観光客も想定以下。展示即売では売上を年間5000万円程度と見込んでいたものの、その半分程度。約3000万円弱しか確保できませんでした」(北岡氏)。
この間、盆栽関連のイベントを動画配信するなど、「高松盆栽」の振興に向けた努力を重ねてきた。開設3年目を迎える2022年4月以降は、「集客を目的とした盆栽関連のイベントを徐々に増やしていく方針」(北岡氏)だ。
夏休み中には、JA香川県が小学生向けの盆栽関連イベントを開催する。体験しながら学んでもらう内容で、盆栽を自由研究のテーマとして取り上げてもらうことも期待する。「高松盆栽学校」の人気にあやかり、より下の世代である小学生を対象に据えた。
また観光客の立ち寄りを増やそうと、「高松盆栽の郷」を観光ルートに新たに組み込むことを関係各所に積極的に働き掛ける。
まず取り組むのは、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台に開催される現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2022」との連携だ。春、夏、秋の3つの会期のうち、終了済みの春を除く2つの会期で、来場者の誘客を仕掛ける。
魅力は、規模の大きさだ。前回の2019年開催時は3会期合計で来場者は100万人を超えた。北岡氏は「来場者に立ち寄ってもらえるようにチケット購入者に特典を設けるなど、県や市などの関係機関と連携を果たしたい」と意気込む。
旅行代理店にも話を持ち掛ける。「『高松盆栽』はブランド力がまだ弱い。うどんやオリーブと肩を並べられる特産物として定着させたい。まずは観光ツアーの企画担当者に足を運んでもらうことから始めていきます」(北岡氏)。
新たなニーズの掘り起こしにも積極的だ。JA香川県が2022年度に初めて乗り出すのは、企業・団体向けのレンタル・サブスクリプション事業だ。オフィスのエントランスや応接室などの装飾用に「高松盆栽」を貸し出したり、サブスクリプション契約を結んだり、新たなビジネスモデルにも挑戦していく。これらの利点は、売上予測が立てやすく、安定的な収益が確保できる点だ。
「生産者が企業・団体に貸し出す例はこれまでもありましたが、それをもっと組織的に展開します」と北岡氏。まずは「高松盆栽」の振興に取り組むJAグループや行政機関などが有望な貸し出し先として考えられるという。
「高松盆栽」の魅力を伝え、販路の拡大を図る拠点として、「高松盆栽の郷」はコロナ禍に負けじと機能を発揮しつつある。今後、コロナ禍が収束すれば、外国人観光客の立ち寄りも見込める。「BONSAI」愛好家の裾野は、さらに広がるだろう。
世界はなぜ、「BONSAI」に魅了されるのか。尾路氏は、こう答える。
「盆栽は小さな鉢の上で、木の持つ雄大さを表現します。しかも他の芸術作品とは違って、時がたつほどに、その雄大さは増していく。世界の愛好家は、そこに感銘を受けているのではないでしょうか」

鉢の大きさは知れている。しかしその上で、例えば「整姿」という針金掛けの技術を駆使して樹形を整え、木の持つ雄大さが表現される。また盆栽は芸術作品であると同時に、自然の生み出したものでもある。過去から未来へと続く、悠久の自然である。盆栽が「鉢の上の小宇宙」とも呼ばれるゆえんだ。
そこには、時空を凝縮した世界がある。JA香川県のたゆまぬ産地振興の努力を下支えとした、日本の文化を象徴するそうした奥深さが、世界の愛好家を魅了する。
