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田中氏は2016年からドローン導入計画の立案に着手。全国で、農業にドローンを利用する事例がほとんどなかったため、2年間はひたすら理事に向けたドローンの利用方法と導入意義の説明に励んだ。ようやく了承を得られ、2018年にDJI社製MG-1を導入して運用を開始した。現在は後継機を含め5台で運用している。初期に導入した機種の積載能力は10リットル、後継機は40リットル。機種の選定理由は2つある。1つは軽くて扱いやすいこと。もう1つは安価であること。「できるだけ、初期投資は抑えたかった」と田中氏。

計画の立案と説得を繰り返した2年間を経て、いよいよドローンを手にした田中氏は、一転現場に戻り試行錯誤を繰り返すことになる。まず、いずれの産品でも課題だった防除から取り組みはじめ、単一の使い方だけではもったいないと、様々な散布に挑戦した。田中氏は、「生産者に支持してもらえるよう、とにかくメニューを増やしたいと考えました。できるだけ年間を通して使ってもらい、徹底的に有効活用したかった」と語る。
例えば、前述の年間スケジュールの4月にある水稲の直播。これは、水稲の種を育苗して植えるのではなく、田んぼに直播する方法だ。水稲の直播は以前からラジコンヘリコプターでも行われてきたが、ドローンは種を地面に落とす力が弱いため、種が土の中に入り込まない。そのため土の表面に落ちても土の中と同じような環境になるよう、播種前の代掻き(しろかき)のタイミングを試行錯誤した。種まきとしては、他にも10月後半の「はなふじ」米用ヘアリーベッチの播種がある。

5月・7月に行う水田のあぜの除草では、雑草の成長を抑制するグラスショート液剤をあぜにピンポイントで撒く。あぜの雑草は景観が悪く、カメムシやヘビの棲家にもなるため草刈りが必要だ。急斜面の多い中山間地区では除草剤で根から枯らしてしまうとあぜが壊れやすくなるため、成長だけを抑制する方法も取り入れている。さらに水田に液剤がかかってしまうと米の生育を疎外する可能性があるため、非常にデリケートな作業が必要だ。
散布だけではなく、ドローン搭載カメラを使ったスマートセンシングにもチャレンジしている。同一圃場の中でも生育が良い部分と不良の部分があるため、できれば肥料や農薬は生育状況に合わせて適量を与えたい。そこで上空からドローン搭載カメラで撮影し、葉の色を数値化し生育状況を見える化する。「肥料が高騰しており、今後は必要な量だけ散布することが重要になっていきます。かなり高い精度で生育判断ができるようになってきました」(田中氏)。
生産者にも協力を仰ぎ、こうした散布を次々と実施。ドローンによる多種多様な散布メニューを増やしていった。
ドローンの1回の航続時間は約10分~15分。これで約1haに散布できる。ラジコンヘリコプターは約60分程度飛べるので、当初は10分しか持たないようでは、仕事にならないと言われた。しかし「ドローンはバッテリーを交換すればすぐに飛び立てるので支障はない」と田中氏は説明する。ラジコンヘリコプターに比べ離着陸するスペースが狭くて済み、軽ライトバンに積めるため、狭い農道でも移動が容易。中山間地の狭い圃場ではむしろ使いやすい。
風には注意が必要だ。風が強いとドリフトするため、なるべく風の弱い日に作業するようにしている。コンピューター部分がシステムエラーを起こしたことはあるが、物理的な故障は2022年10月現在で一度もないという。「仮に羽根が壊れても、安価で交換可能です。ラジコンヘリコプターに比べれば修理も安価です」(田中氏)。それでも、ドローンが正常に動かないと業務に支障が出るほど活用されているため、1年に1回は定期検査を受けている。
「大規模な圃場が多い地域では、ラジコンヘリコプターが適しているでしょう。ここは小規模農家が多いため、ドローンが適しています。同じドローンでも大小種類があるので、それぞれの規模に合わせて採用すればいい。地域に合った機材を選択することが重要です」(田中氏)
これまでJAが主導して進めてきたドローン活用だが、興味を持った生産者が自らドローンを購入し、活用するようになってきた。JAが導入したものと同一の機種を導入している生産者が多い。「同じ機種であれば使い方や、故障時の対応などアドバイスができます」(田中氏)。集落や生産組合で購入するケースも登場し、これまで農業に関心の低かった後継者が、ドローンの操縦だけは手伝ってくれるといった声も聞こえている。初めに田中氏が思い描いた、農業を始めるきっかけとして機能し始めている。
田中氏は2020年から若手生産者2人と防除受託チーム「Lake Sky Otsu」を結成。増加するドローンを使った防除依頼に応えるため、立場を越えて協力している。事務関係や精算業務はJAが担当。面倒な手続きや過度な負担がなく、地域から好評だ。
課題に感じているのが、スマートセンシングなどで活用するソフトウエアやデータの取り扱いだ。現状、分析はJAが行い、その結果を生産者に渡している。将来的には生産者自ら分析ソフトを利用できるようにしたいと考えている。
ドローン活用の取り組みはこれまで大津地区だけで行ってきた。今後は他の地区にも展開したいという。地区ごとに環境も作物も少しずつ異なるため、新たな使い方が登場するかもしれない。これからの展開がますます楽しみだ。
