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生産者のメリットは、病害虫の発生が抑えられ、生育が素直になること。安定多収にもつながる。JA十和田市(当時)の資料によれば、例えばピーマンで10a当たりの収量を比べると、土壌診断後は約1割の増収が見られたという。
さらに「良い畑をつくっているというプライドも高まりました」と、斗澤氏はみる。土壌診断を受けると、その結果として分析項目や微量要素のバランスを示すレーダーチャートが付く。「その形が整っているほど、成分バランスの取れた良い畑ということ。生産者はそこにこだわり、レーダーチャートの形にステータスを感じています」。

導入当初は、生産者の理解を得るのに苦労したという。「そもそも土壌診断という概念がない。試料(サンプル)を持ち込むように呼び掛けても応じてもらえませんでした」(斗澤氏)。それでも、営農指導員を通して地道な普及活動を展開してきた。
転機と言えるのは、トマト栽培用ハウスでの試みである。
このハウスではトマトが思うように生育しなかったことから、土壌診断を実施し、その結果を基に施肥設計を見直した。「すると、次第に正常な生育が見られるようになり、花がついたのです。それを見て、『ここって、何もできなかったハウスだよね』と、周囲の生産者は驚きの声を上げるようになりました」(斗澤氏)。
結果を目の当たりにすれば、生産者の心は動く。「なんで?」と問い掛け、「土壌診断をやったから」と聞けば、「自分も」と動機付けが生まれる。自ら土壌診断を受け、それが結果につながれば、信頼は確かなものになる。
斗澤氏は普及の過程をこうたとえる。「まず10haでやってみて、生産者が『何か、いいみたいだね』と言えば、対象は80haに増え、『やっぱり、いいよ』という声が広がれば、それがさらに300haに増える。定着まで、10年ですね」。
2010年4月、周辺市町村のJAと合併し新しいJA十和田おいらせになると、「苦労して栽培した野菜を、安定的にたくさん売る販売体制がほしい」という生産者の要望を受け、ブランド化にも乗り出す。登録した商標は「TOM-VEGE(トムベジ)」。「TOWADA OIRASE MINERAL VEGETABLE」の頭文字を並べたものである。
この商標を利用できるのは、土壌診断を受け、その結果に基づく処方箋に沿った肥料を施して栽培されたもの。さらに、出荷前の計測で甘みの指標である糖度が基準以上、苦味の指標である硝酸値が基準以下という条件も加えた。
東京圏での販売拡大を目指しタッグを組んだのは、一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が認定する「野菜ソムリエ」。野菜の目利きである。産地に招いて野菜を食べてもらったうえで、販売拡大に向けてスーパー店頭での試食販売に立ってもらい、「TOM-VEGE」をPRする活動を展開してきた。
おいしさには自信を持つ。斗澤氏は「野菜ソムリエからの評価は高いですね。長ネギは甘みがあって柔らかい、ピーマンは糖度が高い、シュンギクは苦味がない、……と全般的に好評です」と、笑顔を見せる。
市場からの評価も上々で、指名買いを受けることもあるという。「地元スーパーからは、シュンギクやホウレンソウは全量ほしい、と要請されます。ブランドを打ち出したことで、交渉の機会が増えました」(斗澤氏)。

土壌診断とブランド化を組み合わせ、いいものをつくり、それを安定的にたくさん売る。この仕組みはいま、肥料高騰対策の一つに位置付けられる。背景にあるのは、穀物需要の増加、エネルギー価格の上昇、さらにロシアによるウクライナ侵攻。それらのあおりを受け、化学肥料の価格がいま急騰しているのである。
土壌診断を受ければ、最適な施肥設計が可能であることから、肥料の分量を抑えることが可能になる。それが、肥料コストの削減につながり、結果として、肥料高騰対策になるというのである。
一方、仮に肥料コストがかさんでも、ブランド力でそれを補う売り上げを得られれば、それでもいい。そこで打ち出すキーワードは、健康だ。「『TOM-VEGE』は『ミネラル』が豊富で健康にもいいんですよ。必要な『ミネラル』を、サプリメントに頼らず、野菜を通じて摂取できますから」(斗澤氏)。
斗澤氏がいま取り組むのは、東京農大名誉教授・全国土の会 会長の後藤逸男先生とともに進める、高精度の結果を迅速に出せる安価で環境に優しい土壌診断法の確立だ。土壌診断に携わる機関、研究者、生産者、装置メーカーなどで2012年1月に立ち上げた土壌診断分析研究会では、自ら会長職に就く。
「診断結果は土壌診断に携わる機関ごとに差があるのが実情です。それを、誰が診断しても有意差で5%程度に収まるようにしたい。全国どこでも、自信を持って診断結果を提供できるように、診断法を確立していきます」
農業生産の基本とも言える土づくり。JA十和田おいらせは、その困難を乗り超えた先にある"安定多収"を導いてきた。美味しい野菜を求めて、これからも生産者との二人三脚は続いていくだろう。
