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幸い、強力なパートナーを得ることもできた。北海道に拠点を置き、グローバルに展開する農業生産企業グループの中核会社、アド・ワン(札幌市)。自ら出資する会社やパートナー企業と組んで北海道内を中心に同一規格の野菜工場を展開する。石川氏が10年ほど前、苫小牧市内で見学した工場も、その出資会社で運営するものだ。
JAいずもアグリ開発(株)では、JAしまねが保有する土地を借りて、そこにアド・ワン仕様の野菜工場を建設する。リーフレタス類の種はアド・ワンから仕入れ、発芽室や植物育成用LEDパネルを備えた育苗室で苗にまで育て上げた後、育苗ベッドや栽培ベッドの白いボードに植え付ける。収穫後は、全量をアド・ワンが一定の単価で買い取り、それをJAいずもアグリ開発(株)がパッキング室で梱包したうえで、量販店、飲食店チェーン、生活協同組合(生協)といった最終顧客の下に冷蔵トラックなどで配送する、というものである。
農業の可能性を示す取り組みとして失敗が許されない中、収穫物を全量買い取るというパートナーを得られたことは、強力な追い風だった。JAいずもアグリ開発(株)で構想の実現に向け奔走してきた柳楽俊介氏(現JAしまね出雲地区本部西部ブロック推進課マネージャー)は、こう指摘する。「失敗の原因は何よりまず、収穫物の売り先を確保できないことです。毎日収穫する野菜を、その都度買い取ってくれる相手がいなければ、工場内はパンクしてしまいます。収量を自ら抑えるようでは、採算が合いません」。
パートナーに収穫物を買い取ってもらうには、それなりの収量が見込める施設規模も求められる。「最低でも約1haは欲しいですね。事業計画を検討する中でいくつかの規模を前提に試算したところ、規模が大きいほど単位面積当たりの生産コストを下げられることが分かりました。理想は、約2~3haと聞きます」(柳楽氏)。
施設規模を1ha弱と見定め、投資額をはじくと、約7億円。「リスクが大きい!」「JAでやることか?」、……。投資規模の大きさから、JAしまね出雲地区本部の多くの理事からは軒並み、反対の声が上がった。もちろん、パートナーであるアド・ワンに収穫物の全量を買い取ってもらえる前提。それでも、慎重派は納得しない。
ここで奮起したのは、野菜工場の構想を温めてきた石川氏だ。反対の理事に対する説得を重ねた。そこで用いた材料の一つは、“事業リスクを負ってでも新規作物を導入・開発することは今後の農業振興に必ず寄与する”という自らの信念である。
「従来のようにそこに消極的では、後継者は育ちません。自ら事業リスクを負い、成功事例を示すことで、若い後継者を育てていく――。そうした取り込みこそ、これからのJAに課された使命ではないでしょうか」。石川氏は熱く語る。
理事の納得を得るまで2年近くかかったが、2018年にはようやく、野菜工場「出雲vege」の建設計画が動き出す。開設は2019年2月。そこからいよいよ、工場の運営が始まる。
この野菜工場が開設3年目で黒字化を達成できた秘訣は、どこにあるのか。一つは、収量を増やすことで売り上げも順調に伸ばせている点だ。「出雲vege」の施設規模で見込める最大の売り上げ規模は約2億円。それに対して直近の売り上げ規模はすでに約1億8000万円に達するという。栽培ベッドに空きを生じさせない栽培サイクルの最適化を栽培データに基づき進めてきたことが回転率のアップにつながり、その結果、収量を着実に増やせてこられた点が、売り上げを押し上げてきた。
もう一つは、販売時に原価割れしない単価を設定できている点だ。野菜工場では栽培に必要な生産コストを管理できる。そのため、JAいずもアグリ開発(株)ではアド・ワン側と契約上の販売単価を決める時、原価を常に意識しながら交渉できるのである。柳楽氏は「生産コストが上がった場合、従来は生産者自らがその分を負担し、赤字をかぶってきました。しかしここでは、再生産が可能な単価に引き上げたうえで契約するようにしています」と、契約交渉時の基本姿勢を明かす。
夏場には、交渉材料も加わる。野菜工場でも水温が高くなると、リーフレタス類は栽培に適さなくなる。しかし「出雲vege」は、水温を制御できる設備も備えているため、夏場でもリーフレタス類を通常通りに出荷できる。「販売単価の交渉では、そこを強みに単価を高めに設定するように心掛けています」(柳楽氏)。

さらに、計画段階で多くの反対意見をもらったことも、早期に運営を軌道に乗せられた理由の一つという。語るのは、石川氏だ。「これらの反対意見こそが、運営上の課題を浮き彫りにしてくれました。そのため、開設前にこれらの課題に対応しておくことができた。反対意見を否定せず、むしろ耳を傾けた。それが良かったと思います」。
しかしいま、運営が軌道に乗る一方で新たな課題も生まれている。生産コストの高騰にどう対応していくかという点だ。
一つは、環境を制御する野菜工場に欠かせない動力光熱費。石飛氏は「いまのままでは、その上昇分が利益を食ってしまいます。太陽光発電設備を取り入れ、自社で調達していきたいのですが、工場の近くに設置場所がありません」と嘆く。
もう一つは、人件費である。売り上げ目標の約2億円を達成するには回転率をさらに上げる必要がある。そのため、新規の人手を確保しようにも、最低賃金は上昇基調にある。「季節雇用で対応できないか、対応策を模索中です」(石飛氏)。
野菜工場の強みはやはり、原価管理を徹底できる点。その強みをどう生かし、これらの課題を乗り越えるのか――。地域農業のモデルとしての正念場を迎えている。
ここを乗り切った暁には、野菜工場を地域農業の一つのモデルとして若い担い手や農業生産に乗り出そうとする法人に「のれん分け」していくというのが、石川氏の構想だ。栽培環境が維持された広大な空間に育苗ベッドや栽培ベッドを用意してもらい、発芽室・育苗室やパッキング室は「出雲vege」内の施設を共有する、という発想である。
残念ながら現在は、生産コストの高騰もあり、野菜工場への投資意欲は鈍りがちだ。「のれん分け」のニーズは見込めそうにない。「しかしいまでも、興味を示す若手や法人はちらほら見られます。それらの個人や法人に働き掛け、野菜工場の輪を広げていければいいですね」。石川氏は地域農業の明日を見据える。
