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宮本氏は生産者とやり取りする中で、特別栽培農産物の認証を受ける意義を説きながら、「ブランド化によって販路を新しく開拓し、販売単価を安定させます」と、大見得を切ってみせた。生産者からは「しょせんはJA勤めのサラリーマンだから、将来見通しが不透明でも安心していられるんじゃろ」と、厳しい声も飛んだという。
こうなるともはや、精神論で共感を得るしかない。「日本一の産地、つぶせんでしょ。JAを信頼してほしいんじゃ」。宮本氏が生産者のプライドに訴え掛けると、最終的にはJA三原(現JAひろしま)管内でレモンを生産する約400人のうち半数近くが、特別栽培農産物の認証を受けることを決めた。2008年のことである。
認証を受けたレモンは「せとだエコレモン」を名乗る。「せとだ」は瀬戸田町。宮本氏の出身地である高根島と隣の生口島の2島で構成する町である。瀬戸内海沿岸特有の温暖で穏やかな気候が栽培に適していることから、レモンの生産では国内で半分以上のシェアを持つ広島県の中でも、一大産地を築いていた。
その生産者は同時に、JA三原(現JAひろしま)の中で「せとだエコレモングループ」を結成した。特別栽培農産物の認証に象徴される「販売」を念頭に置いた「生産」を、このグループで模索し始めた。そこで宮本氏が強く意識したのが、「産地」の発想だ。「JAとして個々の生産者を支援するというより、産地全体を支えたい。市場で勝負できる『売れるレモン』を産地全体で栽培し、出荷していこう、という考え方です」。

JA三原(現JAひろしま)では、「せとだエコレモン」というブランドによって販路を新しく開拓する一方、広島産レモン全体の知名度向上にも努めてきた。手を組んだ相手は、同じく瀬戸内海に浮かぶ管内の島にレモンの一大産地を築くJA広島ゆたか。国産レモンの生産・販売ではライバルとも言える間柄だ。
連携を決めたのは、なぜなのか――。
宮本氏はこう明かす。「国産レモンが売れる時代には、競争しながら互いに伸びてきました。しかし、売れない時代になると、悲惨です。販売単価をあちらが下げれば、こちらも下げる。その繰り返しでは、将来は共倒れになりかねません」。
この連携関係は2012年、県がその2つのJAを含む県下の生産者団体と協同で、広島レモン振興協議会を立ち上げる動きに結び付く。協議会では周年出荷の実現や新品種のブランド化について情報交換を図るほか、広島県として初めて全国向けプロモーション活動にも乗り出した。「地元産のレモンを全国に売っていこう」という機運は、管内に一大産地を抱えるJA単独の動きから、県を挙げた大きなうねりにまで発展していった。
この時期、広島産レモンの知名度向上に最も貢献したと言われるのは、広島市内で2013年に開催された「全国菓子大博覧会・広島(ひろしま菓子博2013)」である。県内の和洋菓子メーカーが開催に合わせ、レモンを用いた商品を開発し、それらを出展したり試食用に提供したりした。これで一気に、レモン菓子ブームに火が付いた。
「広島レモン」の名が知られ、その加工品が数多く開発されるようになると、特別栽培農産物の認証を受けたレモンも、加工品の原材料としての可能性を広げた。加工品の販売を既に手掛けていたJA三原(現JAひろしま)直販センターは、加工会社への原材料の販売を一手に引き受け、生産者との間をつなぐ業務にも乗り出した。
認証を受けたレモンを原材料として供給する加工会社は、JA側で選ぶ。宮本氏は「加工品を製造・販売できるのは産地あってこそ、と本気で考えてくれる会社に絞っています。プロモーションや菓子博の影響で加工品が売れるようになったことから、販売単価はこの時期、毎年上げることができました」と、笑顔を見せる。
直販センター自らも、加工会社と組んで特別栽培農産物の認証を受けたレモンを用いて独自の商品を販売する。一番人気は、「ふるさとレモン」という粉末状のレモン飲料だ。レモンの果肉・果皮を丸ごと使ったもので、水や湯に溶かして味わう。
目を引くのは、調味料だ。瀬戸内産の塩も用いた「塩レモン」や「旨塩ぽん酢」である。そんな調味料を取り扱うのは、瀬戸田産レモンの消費者への浸透を図る狙いがあるという。「消費者の皆さんには『瀬戸田』という産地を意識してレモンを買ってほしい。それには、各家庭に『瀬戸田』の風を吹かせたい。どうすればいいかを考えた末に、食卓に置かれる調味料の販売に行き着いたのです」(宮本氏)。

販路開拓をはじめ、プロモーションや加工品の開発が、じわりと効果を発揮し、瀬戸田産レモンの売れ行きは順調に回復してきた。宮本氏は「瀬戸田産レモンは、売れない時代を乗り越え、売れる時代に向かいつつあります」と力強い。
売れ行きを支えてきたのが、「せとだエコレモン」のブランド力である。特別栽培農産物の認証を受けていないレモンとは販売単価が異なる。例えば2021年10月から翌22年4月までの月ごとの販売単価は、一般レモンで258~274円だったのに対し、「せとだエコレモン」で290~307円。単価の差は1割以上開く。

宮本氏がいま会長を務めるJAひろしまのせとだエコレモングループでは、「せとだエコレモン」の商品価値をさらに高め、安定経営を実現できる環境づくりに力を入れる。
具体策の一つは、「マリンカル」というカキ殻を用いた土壌改良剤の活用だ。「山の幸であるレモンと海の幸であるカキの融合を図り、環境循環型農業を打ち出すことで、目に見えない商品価値を上げ、価格形成にまで結び付けたいと考えています。この改良剤を使うと、根っこが増え、寒さに強くなり、生産量の安定も期待できます」(宮本氏)。

もう一つは、寒波対策である。瀬戸田産レモンは、おおむね5年に一度の割合で寒波の襲来を受ける。安定経営を実現するには、その被害を回避する手立てが欠かせない。そこで、過去の気象データを基に寒波被害を受けやすい区域を地図上で明確に色分けする作業を進めてきた。収穫作業は通常、10月から翌年4月までだが、「その区域では、収穫作業をできれば年内、遅くとも翌年1月には終えるように指導しています」(宮本氏)。
日本一の座はまだまだ譲れない。その気概が、強い産地づくりを支えている。
