高級路線で顧客を掴む農業

自慢のスイートピーが世界各地を彩る、JA愛知みなみ

日本一の市場との取引で優位に立つ

 見た目の良さを追求した結果としての優れた生育状況と、箱詰め法の工夫が重なって、日持ちの良さが発揮されるのだろう。出荷連合では2019年度から、その価値を「見える化」する狙いで「品質保証」にも乗り出す。

 「品質保証」とは、保証期間内に1本でも不良品が見つかったら、代替品として1箱100本を納めるという約束である。「小売り店舗に到着してから何日間の保証期間があるといいか、取引先市場に聞いたうえで、『秀』は10日間、『優』は7日間、と定めました」と小久保氏。保証を求められた事態は、まだ1度もないという。

 保証制度はまた、出荷連合内の統制を保つのにも効果を上げていると小久保氏はみる。「この制度があるからこそ、保証できるだけの『質』を生産者は強く意識します。生産者としての矜持を呼び覚ますという、想定外の効果が見られます」。

 生産者が出荷連合として「質」の高さを追求する一方、JAはその熱量を取引先市場に伝え「質」の高さを正当に評価してもらうことで、販売単価の引き上げを図る。こうした二人三脚が功を奏し、販売単価は全国平均を大きく上回る。宮本氏によれば、1本当たりの単価は2022年度実績で全国平均40円弱に対し、JA愛知みなみでは平均70円弱という。その差はここ10年以上、広がりつつある。

 転機の一つは、日本一の花き市場である大田市場(東京都大田区)との取引開始にある。いまから15年ほど前。仕掛けたのは言うまでもない、JAだ。

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JA愛知みなみの「花ポートセンター」から、東京の大田市場をはじめとする全国の花き市場に輸送される
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JA愛知みなみの「花ポートセンター」から、東京の大田市場をはじめとする全国の花き市場に輸送される
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JA愛知みなみの「花ポートセンター」から、東京の大田市場をはじめとする全国の花き市場に輸送される

 当時、JA愛知みなみの主な取引先は、比較的近い名古屋市内や京都市内などの花き市場だった。宮本氏はこれを、大田市場にまで広げたいと考えた。「大田市場は日本一の花き市場。そこで評価される花こそ日本一のはず」という向上心からだ。また「質」の高さを武器に、もっと高く売れるはず、という期待も寄せていた。

 ところが、出荷連合側は首を縦に振らない。小久保氏は「花き市場との取引は人間関係を重んじていました。販売単価はたとえ高くはなくても、人と人のつながりを優先したい、という考え方です」と、当時反対していた理由を明かす。

 その言い分には耳を傾けながらも、宮本氏は負けてはいない。「JA愛知みなみのスイートピーを、もっと知ってほしい」という熱い思いから、大田市場と取引する意義を説く。「大田市場からは関係者が訪ねて来て、『ここのスイートピーをほかの産地のものよりも優先して売りたい』と、強い意欲を見せてくれました」。

 出荷連合側もさすがに折れた。大田市場はいまや、最大の取引先。「ほかの取引先市場に比べ、確実に高く売れます。私たちのスイートピーの名が売れ、全国に行き渡るようになったのはありがたいこと」。小久保氏はいま、素直に喜ぶ。

 生産者と取引先市場との橋渡しというJAの役割はさらに、新しい品種の開発という場面でも存分に発揮される。

海外比率の「2割」を、もっと増やしたい

 JA愛知みなみで出荷するスイートピーの品種はいま20種類以上に及ぶが、その一部は独自のもの。おおむね5年に1度の頻度で、突然変異によって新しい色が生まれる。出荷連合ではその種を共有し、新品種として増やしていくか否か、市場性の観点から判断する。「私たちはJAの担当者に、『この品種どう?』『この色どう?』と、聞いて回ります。良い反応が得られれば、新しい品種として増やしていきます」(小久保氏)。

 品種の一部には、白系のものを染色したものがある。JAではその濃度を調整する最新の技術を生かし、濃度の異なるブルー系の品種を2022年度、新たに2つ開発した。「取引先市場にさまざまな濃度のブルーを見てもらい、市場から評価された濃度のブルーを用いて2品種を新たに開発しました。JAの提案から生まれた品種です」(宮本氏)。

スイートピー出荷連合のパンフレット。表紙の左上には第52回日本農業賞「集団組織の部」で大賞を受賞した証が見える(左)。品種のラインアップは多彩だ。売れ筋は「ダイアナ」「ティアラ」などのオーソドックスなピンク系。オレンジ系の「アプリコット」など、ほかの産地では見られない品種もある(右)
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スイートピー出荷連合のパンフレット。表紙の左上には第52回日本農業賞「集団組織の部」で大賞を受賞した証が見える(左)。品種のラインアップは多彩だ。売れ筋は「ダイアナ」「ティアラ」などのオーソドックスなピンク系。オレンジ系の「アプリコット」など、ほかの産地では見られない品種もある(右)
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スイートピー出荷連合のパンフレット。表紙の左上には第52回日本農業賞「集団組織の部」で大賞を受賞した証が見える(左)。品種のラインアップは多彩だ。売れ筋は「ダイアナ」「ティアラ」などのオーソドックスなピンク系。オレンジ系の「アプリコット」など、ほかの産地では見られない品種もある(右)

 生産者とJAの二人三脚で攻略してきたマーケットは海を越え、米国、香港、オーストラリアなど、世界各国に広がる。「国内のマーケットでは人口減少に加え、物価上昇が追い打ちをかけます。消費者の購買意欲がスイートピーに影響するか、心配です。海外のマーケットを開拓していく必要性を感じています」と小久保氏。海外向けの出荷量は全体の2割程度だが、今後はもっと増やしていきたいという。

 マーケットの求めるものは、国内と変わりない。宮本氏は「国内とは異なる色を求めるのかと思いましたが、来日した海外のバイヤーに聞くと、国内でも人気のピンク系や白系が欲しい、と答えます。しかもクオリティーを非常に気にかけています」と説明する。現状、海外向けだからと言って販売単価の設定で格段に優位に立てるということはなく、位置付けはあくまで国内マーケットの延長線上だ。

 それでも海外にまでマーケットが広がれば、生産量に限りがあるため、国内では品薄感が広がり、販売単価をさらに押し上げる効果を期待できる。実際、既に高値が続いている。「最近は1箱100本で1万円という値が当たり前に付くようになりました。2022年度には同じく1万5000円という高値が付いたこともあるほど。想定外の値が付くようになっています」(小久保氏)。

 高級路線を貫こうとする出荷連合にとって目下の課題は、ヒートポンプ式の冷房設備や環境モニタリングシステムの導入をどこまで広げられるか、という点だ。

ビニールハウスで生育中のスイートピー(左)、花シミ防止のために設置されたヒートポンプ設備(右)
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ビニールハウスで生育中のスイートピー(左)、花シミ防止のために設置されたヒートポンプ設備(右)
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ビニールハウスで生育中のスイートピー(左)、花シミ防止のために設置されたヒートポンプ設備(右)

 これらの環境制御設備はもともと花シミ防止策として導入したものだ。箱詰めの段階で一定の防止策を講じてはいるが、さらにその徹底を図る狙いで、出荷連合の有志4人が2021年度、設備の導入に踏み切った。ビニールハウス内の環境を制御することで、花シミを生じにくくする取り組みだ。この取り組みを出荷連合全体で進めていきたい、と小久保氏は構想中である。

 「花シミ防止策をここまで徹底できれば、JA愛知みなみが出荷するスイートピーはさらに信頼度が高まります。産地としてもう一つ上のランクに上がることができるはずです」。小久保氏の力強い言葉に、「責任産地」としての自負がみなぎる。