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久留須氏の誘いに乗ったのは、情報交換の必要性を感じていたからだ。「父は見て覚えろというタイプ。経営に必要なことはほかの繫殖農家に聞くのがいいのでしょうが、何かのグループに属しているわけではありません。仲間づくりという意味合いから、久留須氏の誘いに乗ることを決めました」(藤崎氏)。
最初の活動は全共来場者のおもてなしだ。地元の食材を用いたふるまい汁として豚汁やさつま汁などを提供する一方で、鹿児島黒牛のPR活動を展開する計画。久留須氏らはまず、大会事務局を務める県の担当部門に掛け合い、予算を確保した。
ふるまい汁は会期3日間で計3000食の想定。多くの人手が欠かせないことから、JAあいらに調理に必要な人手の派遣も要請した。
応援要請を受けて対応したのはJAあいら女性部である。部員30人以上が調理要員として協力の手を差し伸べた。東條氏は「当JAの中條秀二組合長は、『和牛女子』立ち上げ以来、その活動を全面的に応援しています。JAのリソースでもある『人』や『場』を提供する形で色々と支援してきました」と、背景を説く。
PR活動に向けては、若手メンバーを中心に関連グッズの企画を練った。例えば買い物に用いるエコバッグ。会場に出店する店舗で購入した肉などを、品質を保ったまま傾けずに持ち帰れるよう底の広い保冷バッグ仕様とした。色は黒毛和牛にちなんで黒。「I♡USHI」というゴールドやシルバーのロゴ入りだ。

2022年10月、全共来場者のおもてなしという最初の活動は成功裡に終わる。さらに、鹿児島県は、全9部門のうち6部門で1位になり、各部門で農林水産大臣賞を受賞した。1部門はさらに内閣総理大臣賞も受賞。そしてその受賞牛は、JAあいらの出品牛であり、その名のとおり「和牛日本一」の栄冠を手にしたのである。
全共を終えると、「和牛女子」は活動を経営力の向上にシフトさせていく。「若手メンバーにアンケートを実施したところ、畜産経営を基本から学びたいという声が上がりました。そこで、研修会を定期的に開催することにしたのです」(久留須氏)。
名称は、畜産基本技術研修会。毎月、若手メンバーが当番制でテーマを定め、参加者を募る方式をとる。講師は畜産を専門とする県職員に依頼し、この1年ほど続けてきた。
このほか春と秋には全員参加の研修会を開催したり、年末には忘年会、農閑期の2~3月には定期総会を開催したりする。JAあいらが毎年、管内の小学生を対象に実施する食農教育活動「ちゃぐりんスクール」には、PR活動を兼ねて若手メンバーが講師役で参加したこともある。
これらをグループの公式活動とすれば、グループLINEを通じた情報交換は個人間の活動だ。それが経営の役に立つという。「出荷する子牛の月齢・日齢をJAあいら管内の家畜市場以外と比較したり、病気への対処方法を相談したりするなど、LINE上のやり取りはとても有用ですね」(久留須氏)。ほかの家畜市場との比較は経営面で役に立つと藤崎氏も指摘する。「自ら飼育する雌牛をどの種雄牛と交配させるのがいいか、適切な判断を下すのに必要な情報をここで得られます」。
繁殖農家にとって肥育農家は買い手にあたる。その買い手がどんな子牛を求めているか把握できれば、その情報に基づき分娩・哺乳を管理することで市場ニーズに見合った、すなわち「高く売れる」子牛を提供できる。一方で出荷する子牛の月齢・日齢を短く抑えられれば、出荷サイクルをそれだけ短くできる。その結果、子牛の回転率は高まり経営面でプラスに働く。
立ち上げから4年近く。活動の効果は徐々に表れ始めているようだ。語るのは東條氏。2023年4月、人事異動に伴い3年ぶりにJAあいらで畜産担当に就いたところ、家畜市場にある変化が見られたという。
「日齢300日超の子牛をあまり見かけなくなりました。しかし、体重は変わりません。良質な子牛を育てる技術が上がったと考えられます。だからこそ、出荷サイクルを短くできるようになったのではないでしょうか」
JAの信頼も得る中、「和牛女子」に提供される「場」は徐々に増えてきた。その一つが、家畜市場に子牛を買い付けに来る肥育農家と月1回開催する懇談会。いま「高く売れる」のはどんな子牛なのか、市場ニーズを即時につかみ取れる貴重な機会だ。そうした「場」への出席は、それまで男性が定番だったが、「和牛女子」のメンバーにも門戸が開かれるようになってきたのである。「これまでにはない、斬新な視点の発言が聞けています」(東條氏)。
女性が家族の外に出て互いにつながる――。それは、内向きの目線を外に開き、他者と連携するということ。そこから新しい発想や新しい価値が生まれる。女性活躍の真骨頂は、ここにあるのだろう。ただ家族のあり方は人それぞれ。外に出ていく女性には、家族への感謝の気持ちや外で得てきたものを生かす姿勢が欠かせないという。
「例えば研修会に参加して帰ってきたら、『今日はありがとうね。こういうことを勉強してきた』と、成果を一つでも家族に伝え、今後の経営に生かせないか、相談することが大切です」。自らの実践を踏まえながら、畜産農家における女性活躍が長続きする秘訣を、久留須氏はこう後進に伝えている。
