農業の経営改革って、どうやる?

黒大豆で名を馳せる古豪産地の「伝統と変革」、JA丹波ささやま

販路開拓へ、家庭向け小袋開発

 最大の課題は、販路の開拓や商材のPR。伝統の作物とはいえ、黒大豆は生産量も消費量も限られていた。「いまでこそ、おせち料理に欠かせない食材として一般家庭に広まっていますが、当時はまだ、関西地方の一部の料亭で提供される程度の食材でした。販売には苦戦を強いられました」。大江氏は打ち明ける。

 黒大豆の生産振興に伴い需給バランスが崩れると、価格低下にも見舞われる。JA、県、地元行政の3者は、販路の開拓や商材のPRに向け、知恵を絞った。そこで生まれたアイデアの一つが、一般家庭向けの開拓である。

 当時、黒大豆の流通には30㎏単位の大袋を用いていた。それを卸売商が仕入れ、例えば食品メーカーや料亭などに量り売りしていた。JAでは新たに一般家庭を最終消費者に加えようと、家庭で使いやすい300g単位の小袋を開発し、スーパーマーケットへの流通を開始した。著名人を起用したPR効果も手伝って、その取り組みが成果を上げる。「こうした工夫で黒大豆の流通を全国各地にまで広げられました」(大江氏)。

 産地ではかねて、優良な種子の選抜・交換で品質の高さを追い求めてきた。豆の粒が大きく、煮るときれいに膨らみ、漆黒の色つややモチモチの食感が、高い評価を得てきた。品質の高さは、丹波黒を一躍全国ブランドに押し上げる。

黒大豆を原料にした加工品も豊富にそろえる(左)。JA丹波ささやま直営の「特産館ささやま」にも各種商品が並ぶ(左写真:JA丹波ささやま発行の資料に一部編集追加)
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黒大豆を原料にした加工品も豊富にそろえる(左)。JA丹波ささやま直営の「特産館ささやま」にも各種商品が並ぶ(左写真:JA丹波ささやま発行の資料に一部編集追加)
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黒大豆を原料にした加工品も豊富にそろえる(左)。JA丹波ささやま直営の「特産館ささやま」にも各種商品が並ぶ(左写真:JA丹波ささやま発行の資料に一部編集追加)

 黒大豆や黒枝豆で、いまや日本有数の栽培面積を誇る丹波篠山。この産地ではいま、冒頭に挙げた人手不足や気候変動という課題を受け止め、地域を挙げた変革を進める。生産者が減少する中、収量を落とさず品質を確保し続けるには、何をどう改めていくか――。旗振り役は、販路の開拓や商材のPRを主導してきたJAだ。

 取り組みの一つは、生産組合の集約化だ。「どの生産組合も後継者不足です。また生産者の減少に伴い、組合運営者の数も限られるようになっています。対策の一つが、近隣の生産組合と合併する集約化です」(大江氏)。

 また後継者や新規就農者が不足する中、圃場を預けたいという生産者は今後ますます増える見通し。認定農業者などの担い手をはじめ、生産組合はその預け先の一つとしても期待が寄せられる。ただ一方で圃場を預かるとなると法人格が必要であり、生産組合の法人化が求められるなど課題は残る。

防除作業の受け皿づくりを主導

 この集約化と法人化を、JAでは生産組合の将来像として視野に入れる。「市は今年度から、地域農業の将来像を描く『地域計画』の策定を進めています。JAも関係機関として協議の場に参画しています。将来を見据え生産組合が集約化・法人化を選択するのであれば、JAとしても支援していく方針です」(大江氏)。

JA丹波ささやま 営農部 営農指導課 課長 山﨑久敬 氏
JA丹波ささやま 営農部 営農指導課 課長 山﨑久敬 氏

 もう一つは、農業生産のスマート化である。例えば、防除作業にはドローンを取り入れ、効率化・省人化を図る。JAではこれまで2年間、ドローンを用いた防除作業の費用対効果について検証を重ねてきた。今年度はその結果を踏まえ、事業化に乗り出した。JAが事務局を担う防除組織で受注し、実際の作業は専門の事業者に委託する。JA丹波ささやま営農部営農指導課課長の山﨑久敬氏は「今年度の実績を基に検証を加え、来年度に向け問題点を修正していく予定です」と、今後の展開を見据える。

 気候変動を背景とする高温対策には、先端機器の力を借りる。丹波黒が開花期に水不足に陥るのを避けようと、JAでは18ある市内小学校区のうち6校区に土壌水分計を設置し、計測を続けてきた。今年度は昨年度の不作を教訓に、土壌水分計の設置対象をさらに5校区広げた。

 設置当初は計測結果を紙ベースで生産者に公開していたが、その後、計測結果をリアルタイムにスマートフォンで確認できるシステムを取り入れた。「いまでは公表データを確認したうえで圃場の条件を加味しながら、水やりのタイミングを見計らうことが可能になりました。今年度は昨年度に比べ頻繁に水やり作業を見かけます。生産者が高温乾燥に留意する様子がよく分かります」(山﨑氏)。

 JAでは丹波黒の生産を次代につないでいくことを目標に掲げる。大江氏はこう訴える。「正直、生産者の減少は避けられません。しかし、農業用水が確保可能で獣害を受けない優良な農地は次代に引き継いでいきたい。変革への取り組みは地域の伝統を重んじながら着実に進めていく必要があります」。

「300年も前から何世代にもわたり独自の伝統技術の中で培われ、将来に向けて受け継がれるべき農業システムである」として2021年、「丹波篠山の黒大豆栽培」が「日本農業遺産」の認定を受けた
「300年も前から何世代にもわたり独自の伝統技術の中で培われ、将来に向けて受け継がれるべき農業システムである」として2021年、「丹波篠山の黒大豆栽培」が「日本農業遺産」の認定を受けた

 変革への取り組みを進めていくうえで見過ごせないのは、地域の伝統でもある協同性との兼ね合いだ。地域の文化を築き、風土を形成してきた協同性。生産組合の集約化・法人化や協同作業の外注化を促すあまり、その伝統が損なわれてしまっては、産業としての農業は継承されても、地域そのものは空洞化しかねない。

 「地域内で協同の意識をどこまで高められるかが、カギを握ります。農道や水路の維持管理に地域住民が参画することで、地域農業を支えるのもいい。農業が地域を形成してきた歴史を忘れてはいけません」。地域農業という視点の重要性を、大江氏はこう指摘する。協同の精神に根差したJAの役割はこれまで以上に大きい。