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プロジェクトではまず、この商流に喝を入れる。JAが出荷する掛川産の和栗を、春華堂が和洋菓子の原材料として安定的に高値で仕入れる。kg当たり単価は2023年産で1500円。平均800円程度という通常単価の倍近い水準だ。
春華堂はもともと、代表作「うなぎパイ」と並ぶ人気の商品「栗むし羊羹」に掛川産の和栗を用いてきた。人気が高まり生産量を増やす過程で、仕入れを安定させる必要から、熊本産や茨城産といった大量出荷が可能な産地に仕入れ先をやむを得ず切り替えた経緯がある。存続の危機に立つ掛川産の和栗が消滅すると、自社商品の消滅にもつながりかねない。こうした危惧が世界ブランド化という成長エンジンと重なることで、第1次産業の持続・発展のモデル構築を進める決断につながった。
仕入れた掛川栗はプロジェクトの一環として新しく開発した和洋菓子に用いる。粒状に削った栗をわらび餅に振り掛けた「朝採れ 遠州掛川 栗粉餅」と大粒の栗をシュー生地で挟んだ「咲クレール 熟成 遠州掛川栗」の2つである。
これらの商品は2023年11月、プロジェクトの参加企業で浜松市内に店舗を構える遠鉄百貨店の日本の味名品展に個数限定で並んだ。販売スタッフは同じくプロジェクトの参加企業である日本航空の客室乗務員(CA)。同社は新型コロナウイルス禍を背景に、春華堂と和洋菓子を共同開発し、互いの販路を通じて提供してきた間柄だ。
通常単価の倍近い水準で仕入れたとはいえ、商品の販売価格まで高値に設定するわけにはいかない。「原材料をkg当たり1500円で仕入れていたのでは商売にならないのは事実。ただ、この程度の水準に設定しないと和栗生産の持続・発展は考えられません。海外に商圏を広げたり、世界ブランド化に向かって具体策を講じたりする一環としての、未来への投資と位置付けています」。単価設定に込めた思いを宮崎氏は明かす。
春華堂が仕入れた掛川産の和栗は2023年産で約2t。出荷量全体約5tの4割相当だ。JAでは残る約3tをこれまで同様、最終顧客である地元の菓子メーカーに供給した。この既存の販路への単価設定に、𠮷政氏は苦労したという。
「今回の事例を基に2022年産に比べて高値に設定しました。価格交渉の末、総額を変えないように仕入れ量を減らすことで高値に対応した出荷先もありますが、その水準を受け入れてくれた出荷先もあります」
掛川産の和栗が適正な対価で売れるようになれば、生産意欲も高まる。「和栗の産地として掛川を存続させる一方、新規就農者の確保も視野に入れています。当社として農業法人を立ち上げ、受け入れられるよう検討していきたいです」と宮崎氏。和栗の生産だけで生活できるようなビジネスモデルの構築を目指すという。
春華堂のこうした仕掛けと並行して、JA掛川市や掛川市では、市内で栗の圃場整備を促そうと補助金を投入する。例えば市は今年度、栗圃場整備等事業費補助金を創設。市内で栗栽培に取り組む人やこれから取り組む人を対象に、圃場整備や苗木購入に必要な経費に関し、上限額を設定したうえで2分の1まで補助する。
プロジェクトでは和栗の産地を、掛川市内を起点に遠州地域一帯に広げていく方針だ。「地域内のJA遠州中央やJA遠州夢咲と連携し、JAとして集荷体制を整える検討を始めています。和栗の生産に将来性が見込めそうなことが、管内の生産者には口コミで伝わっています」。今後の展開に𠮷政氏は期待する。
JA間連携で和栗の出荷量を10年後にはJA掛川市管内のピークに匹敵する30tにまで拡大させることを目標に掲げる。「春華堂の仕掛けを起点に、適正な対価で販売できるような出口戦略を打ち出せれば、和栗の生産に乗り出す人は増えていくはず。管内では実際、補助金の効果で苗木の植樹が増えています」(𠮷政氏)。
地元遠州におけるネットワークづくりには、研究部会や広報・人事部会への参加が期待される大学もいよいよ加わる。農産官学が勢ぞろいするであろう2025年2月には、これまで築き上げてきた地元遠州におけるネットワークを基に、協議会組織を設立する予定だ。世界ブランド化に向けた体制づくりは着々と進む。
海外まで含めた座組にすることで、存続の危機からの脱出を図るJA掛川市。𠮷政氏の目線は早くも、新しい産地像を見据える。
「和栗生産の経営モデルを構築したいと考えています。収益性を見通せれば、農業経営の将来を描き易くなります。また生産者リストのデジタル化も必要です。圃場の見える化を実現できれば、例えば収穫作業にボランティアの手を借りる仕組みを構築するなど、生産性の向上を図る取り組みを進め易くなります」
ゆくゆくは、産地を「面」で支える第1次産業の持続・発展モデルを、ほかの産地や作物に水平展開していくことを念頭に置く。この地でモデル構築に成功すれば、そのモデルはこう呼ばれるに違いない。「掛川モデル」――と。
