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「『感激』は、『華美』より小ぶりで量は期待できませんが、抜群に甘い。糖度は平均7度以上。バイヤーに試食してもらった結果、全量買い取りが決まりました」と一瀬氏。特徴をアピールする店頭販促(POP)には知名度アップへの期待を寄せる。
地元の応援も心強い。2021年6月には、飲食店を中心に「いろはにとまとプロジェクト」が立ち上がり、小串トマトを用いたメニュー開発が始まった。きっかけは、規格外品を利用した「トマトピューレ」の誕生である。

この「トマトピューレ」は、地元の観光協会が佐世保の和菓子屋である草加家に特産品の開発を打診したことから生まれた。飲食店では小串トマトを業務用に仕入れるのがその希少性から困難なため、代わりにピューレを活用しようとプロジェクトが立ち上がった。特産品で地元を盛り上げようという、地域を挙げた取り組みだ。
インスタグラムを用いた情報発信に取り組む一方、「トマトピューレ」を用いた家庭料理のレシピ紹介や、地元飲食店が開発したメニューを競わせるコンテストなどを行ってきた。「地域全体で盛り上げてもらえるので、地元での知名度はさらに上がりました。情報発信のおかげで、取材を受ける機会も増えています」(一瀬氏)。
一方、ギフト用の市場開拓にはJA全農が運営する通販サイト「JAタウン」を活用する。JAながさき県央が出品するのは、小串トマトのトマト本来の味・甘味・うまみ・酸味のバランスが追求された化粧箱入り。“幻のトマト”と謳い、特選クラスのギフトの価値を希少性から一段高める。ただし最初からその戦略を採用していたわけではなかった。
もともとは全量を段ボール箱に納めて出荷していた経緯もあり、当初は地元のスーパーに卸していた。主に自宅用の食材売り場である。顧客ニーズと商品の売り出し方にギャップがあった。「案の定、化粧箱入りはスーパーで売れませんでした。値段が高すぎました」と一瀬氏は振り返る。
それなら、どこで取り扱うのがいいのか――。再検討の中で浮上したのが「JAタウン」である。全国各地のJAが出品したものを、全国の消費者に産地から直送する通販サイト。歳暮や中元といったギフト用の商品もちらほら見られる。
化粧箱入り高額商品として、商圏を全国に広げた希少性での販売戦略は見事に当たった。「JAタウン」での注文は伸び、リピーターも出るほど反響を得られている。
実は小串トマト組合が地元のJAと手を結んだのは、ここ30年ほどのこと。それ以前は、組合員自ら商品を市場に持ち込んでいた。「しかし、生産者は販売の素人。安く買い叩かれがちです。そこで、販売戦略にも長けたJAに任せることを決め、そのおかげで生産に集中することができるようになりました」と吉本氏。以降、販売単価の引き上げをJAと二人三脚で追求してきたという。
小串トマト組合が目標に掲げるのは、生産量200t・販売額1億円の達成。販売単価で言えば1kg当たり500円の水準である。これに対して最新の実績は、先ほど紹介した同489円。目標の水準に徐々に迫りつつある。
JAながさき県央の福田氏は手応えをかみしめる。「地元のスーパーに出向き店頭販売に立つなど、地道に知名度アップに取り組んできました。その甲斐もあって地元でも知られるようになり、それが単価アップにつながっています」。歴代のJA担当者が生産者と伴走して築いたブランド力に話題が及ぶと、福田氏は嬉しそうに目を細めた。

目下の課題は、気候変動への対応だ。「昨年2月は例年になく暖かかったため、時期外れの病害が発生し、その対応に追われました」と一瀬氏が苦労を語れば、吉本氏は「5月になると気温が例年になく上がり、水をいつもより与えたくなりました。しかし、収穫直前に糖度は落とせません。水やりには悩まされました」と苦悩を明かす。高温化が新たな課題をもたらす。
そういう状況の下、こだわりの味を保ち一定の収量を確保するには、どうすればいいか――。言い方を変えれば、環境変化に合わせて栽培技術をどう見直すか。一瀬氏や吉本氏と同じ3代目の富田翔一氏は、将来をこう見据える。
「これまで確立してきた技術を基本としながらも、環境が変化する中、新しい技術開発にも取り組む必要があります。栽培技術に正解はありません。学べることはどんどん学び、年間200tという収量の安定確保も目指していきます」
具体的な手立ての一つは、デジタル技術の活用だ。生育環境や水分量と糖度の関係を可視化できれば、高温化という環境変化にも対応しやすくなるはず。感覚頼みだった水の与え方にも一定の目安が得られ、省力化にも繋がるかもしれない。
振り返れば、ハウス栽培でトマト生産に取り組み始めてから約60年。老朽設備の更新に乗り出すタイミングでもある。「それに併せてデジタル技術を取り入れ、年間収量200tという目標も達成していきたい」と一瀬氏は意欲を見せる。

小串郷ではこれまで、小串トマトのブランド化にむけ、生産者が独自の挑戦を続けてきた。3代目の若手たちは、挑戦者魂を受け継ぎながら、“幻のトマト”をどう進化させていくのか――。新しい時代の幕開けが、また始まろうとしている。
