花粉銀行って、なんだ?

梨農家を助ける救世主、JAいちかわ

地域ブランド品ならではの恩恵も

 梨農家にとって花粉銀行を利用するメリットは、必要な花粉を効率的に入手できるうえ、都合のいいタイミングで人工授粉に臨める点だ。人工授粉は作業に適した期間が非常に短く、労働力の確保に苦労する。あらかじめ用意した花粉を預けておけば、作業できる時に必要量を確実に調達できる。

 それでも、花粉採取に必要な花摘みまでは梨農家の仕事。労働力不足を背景にその人手さえも賄えなくなり、中国産花粉の利用に転じていった過去がある。花粉銀行の利用は、梨農家そのものの減少もあり、勢いが衰えていたのも事実だ。

 そこに、中国産花粉の輸入停止という非常事態が勃発した。2024年春の受粉に向け自前で花粉を用意しようとする梨農家が、花粉銀行に一気に押し寄せた。JAいちかわによると、同年の花粉採取量は前年比で倍近くに増えたという。共同施設としての花粉銀行が、非常事態に直面した梨農家にとって救世主となった。

 梨農家だけでは人手を賄えそうにない花摘み作業には、市民の手を借りる算段も取り付けた。2024年1月、地元の市川市を通じて花摘みボランティアである「梨花隊」のメンバーを募集。呼び掛けに応じた市民約300人が、3月から4月にかけて市内の圃場で2時間半ほど作業にあたった。地元産の梨が地域ブランド品として市民に広く認知されていた恩恵でもある。

「市川のなし」は地域ブランド品として広く支持を集める。地域ブランドを生かし、加工品の開発にも力を入れる(イラスト提供:JAいちかわ)
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「市川のなし」は地域ブランド品として広く支持を集める。地域ブランドを生かし、加工品の開発にも力を入れる(イラスト提供:JAいちかわ)
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「市川のなし」は地域ブランド品として広く支持を集める。地域ブランドを生かし、加工品の開発にも力を入れる(イラスト提供:JAいちかわ)

 花粉銀行を生かした救済は、梨農家から好評だ。「花粉を確保できる見通しが立たなかっただけに、花粉を少量でも用意できて助かったと感謝されました。しかも花粉銀行を利用する場合、梨農家側が分担すべき花摘み作業に、ボランティアの手を借りられました。花摘み作業まで手が回らない梨農家には、ボランティアとの組み合わせが高く評価されました」。今野氏は総括する。

採取プロジェクトの花粉が欲しい

 一方、新しく立ち上げた花粉採取プロジェクトも、第二の救世主として役割を果たした。2024年春の受粉に間に合わせるため、梨の切り枝を加温し、早期開花させて粗花粉約4kgを採取。そのうち1kgを10gのパッケージに小分けし、梨農家100人に無償提供したのである。残る約3kgは冷凍貯蔵。2025年春の受粉でどの程度発芽するか、検証を待つ。

 花粉採取プロジェクトは花粉銀行と違って、梨農家側に花摘み作業の手間を取らせない。JAいちかわは採取する花粉を販売するだけ。梨農家はそれを購入するだけである。労働力不足に拍車がかかるいま、市民ボランティアを常にはあてにできない。花粉採取プロジェクトはそうした中、梨農家が人手を掛けずに安心して花粉を確保する手段として頼りにされていくことが見込まれる。

 実際、周囲からの期待は大きい。「メディアで報じられてからというもの、問い合わせが相次いでいます。花粉採取プロジェクトから生まれた花粉を、すぐにでも購入したいという声を、いくつもいただきました」(今野氏)。

梨の海外展開も推進する。約10年前から販路をドバイにまで広げた。「ドバイなら富裕層向けに世界最高値を付けられます」と今野氏。ポスターには現地の写真を載せ、梨農家を鼓舞する
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梨の海外展開も推進する。約10年前から販路をドバイにまで広げた。「ドバイなら富裕層向けに世界最高値を付けられます」と今野氏。ポスターには現地の写真を載せ、梨農家を鼓舞する
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梨の海外展開も推進する。約10年前から販路をドバイにまで広げた。「ドバイなら富裕層向けに世界最高値を付けられます」と今野氏。ポスターには現地の写真を載せ、梨農家を鼓舞する

 花粉採取プロジェクトの本当の成果が表れるのは、これからだ。専用圃場に苗木で植えた花粉採取専用樹が花を付け、そこから採取した花粉の流通がほかの産地にまで広がり、プロジェクトとして商業ベースに乗るまで5年は掛かる見通し。だからこそ、将来を見据え、国産花粉の供給体制をいまから整えておくことが重要な意味を持つ。

 全ては生産者のために――。今野氏はことあるごとに口にする。国産花粉の提供による安定生産を通じて、梨農家の所得向上にも結び付けていく。花粉採取用の圃場という新たな農地利用を定着させながら、営農継続という梨農家の経営課題に対して、国産花粉の供給というチャレンジは続いていく。