“牡蠣の殻”は農業にとって宝だった!?

「瀬戸内かきがらアグリ」事業の挑戦、JAグループ岡山

「里海」の再生につながる米という物語

 牡蠣殻資材を施用した水田で残った栄養分は河川を通じて海に流れ込む。「里海米」の生産を広めることは、海で牡蠣殻として凝縮された栄養分を再び海に還元することにつながる。「里海」再生活動の一つとも言えるのだ。

 「安全安心でおいしい米というのは、もう当たり前の時代です。差別化に向け付加価値を高めようとするなら、商品の背後に物語がほしい。『里海』の再生につながる米というのは、その物語になるはずです」と小原氏は確信する。

収穫を控えた「里海米」。牡蠣殻資材を用いると細胞壁の構築に不可欠なカルシウムの吸収率が高まる。水稲などの茎が太く頑丈になり、倒伏軽減が期待できるという
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収穫を控えた「里海米」。牡蠣殻資材を用いると細胞壁の構築に不可欠なカルシウムの吸収率が高まる。水稲などの茎が太く頑丈になり、倒伏軽減が期待できるという
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収穫を控えた「里海米」。牡蠣殻資材を用いると細胞壁の構築に不可欠なカルシウムの吸収率が高まる。水稲などの茎が太く頑丈になり、倒伏軽減が期待できるという

 JAグループ岡山傘下の2JAで「里海米」の生産を始めたのは、2016年度。流通市場ですぐに高く売れるとは限らない。一方の生産者は、牡蠣殻資材のコスト負担が発生する。そこで当面、その負担分を生産者が相殺できるよう、JAが生産者に対して集荷段階で一定の加算金を上乗せする。そんな始まりであった。JAのサポートがあって成り立つ独自の仕組みを構築したのである。

 事業名は、「瀬戸内かきがらアグリ」。JA全農おかやまの仕掛けだが、瀬戸内エリア全体を視野にいれる。2018年3月には、県内の農業関係者や農畜産物の流通に携わる企業とともに「瀬戸内かきがらアグリ推進協議会」を立ち上げ、事務局を担う。

ポスターやロゴなどを制作し、ブランドの周知に努める。ロゴの青い部分は瀬戸内海、緑の部分は中国と四国、ひし形は牡蠣の養殖に用いる筏(いかだ)もしくは、牡蠣殻そのものを表す
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ポスターやロゴなどを制作し、ブランドの周知に努める。ロゴの青い部分は瀬戸内海、緑の部分は中国と四国、ひし形は牡蠣の養殖に用いる筏(いかだ)もしくは、牡蠣殻そのものを表す
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ポスターやロゴなどを制作し、ブランドの周知に努める。ロゴの青い部分は瀬戸内海、緑の部分は中国と四国、ひし形は牡蠣の養殖に用いる筏(いかだ)もしくは、牡蠣殻そのものを表す

 立ち上げの狙いは、「里海米」の生産から販売まで一貫したバリューチェーンを整えることと「里海」の再生活動を展開することの大きく2つを掲げる。

 重要な役割の一つに「『里海米』取扱基本要領」の策定がある。同要領では牡蠣殻資材の施用量を、メーカー推奨値を参考に水田10a当たり60㎏以上と定めた。JAではこの施用量を基に、「里海米」の生産を管理・認証する。

農畜産物の「里海」ブランド化の一環として育てられたキャベツ。牡蠣殻資材を土づくりに活用している。真ん中の部分が成長する11~12月にかけて収穫期を迎える
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農畜産物の「里海」ブランド化の一環として育てられたキャベツ。牡蠣殻資材を土づくりに活用している。真ん中の部分が成長する11~12月にかけて収穫期を迎える
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農畜産物の「里海」ブランド化の一環として育てられたキャベツ。牡蠣殻資材を土づくりに活用している。真ん中の部分が成長する11~12月にかけて収穫期を迎える

 構成メンバーはいま、農業関係者にとどまらず幅広い。とりわけ漁業関係者の参画は、「里海」の再生活動を展開していくうえで心強い。

 ここにも、「里海」関係者との出会いがある。

 「ある生活協同組合に『里海米』の取り扱いを提案しに行くと、理事長から『誰の許可を得て、この言葉を使っているんですか』と苦言をいただきました。『この人の許可を得るのを勧めます』と紹介されたのが、田中丈裕氏です」(小原氏)

 田中氏は元岡山県水産課長で、岡山市内に拠点を置く特定非営利活動法人里海づくり研究会議の理事・事務局長。2012年1月、「里海」の提唱者と言われる九州大学名誉教授の柳哲雄氏とともに、この研究会議の立ち上げに携わった。

 田中氏との出会いは、漁業関係者との関係構築につながる。

農業と漁業が「里海」の再生に向け連携

 農業と漁業は、近くて遠い存在だった。ともに一次産業で資源循環を通して結び付きを持ちながら、それまで接点を持つことはなかった。しかも岡山県の場合、県南の穀倉地帯は児島湾の干拓で生み出されたもの。「それだけに両者には大きな隔たりがあり、対立する歴史もあったほどです」と小原氏は率直に語る。

 そんな関係性が「里海」再生に向け、連携するまでに変わった。

 柱は、「アマモ」という海草(うみくさ)の再生。このアマモは植物同様、二酸化炭素を吸収し、海中の栄養分を基に有機物をつくる一方で酸素を供給する。その働きを強化し、「里海」の再生につなげていく狙いだ。

 この活動に長年取り組んできたのが、岡山県備前市の日生町漁業協同組合や同瀬戸内市の邑久町漁業協同組合である。協議会ではいま、会員でもあるこの2漁協に協力する形で、アマモ再生に取り組んでいる。

 肝心の「里海米」の生産量は、2022年度の4万7813俵をピークに伸び悩むが、30年度の目標には10万俵を掲げる。達成のカギを握るのは、量販店、生協、米卸など実需者へのPRだ。「実需者が『里海米』の生産を米農家に要請するようになれば、拡大が一気に見込めます」と小原氏は展望する。

 可能性はやはり、地域資源の循環が紡ぐ物語にある。

農事組合法人 矢神毎戸営農組合 代表理事 髙月周次郎 氏
農事組合法人 矢神毎戸営農組合 代表理事 髙月周次郎 氏

 「里海米」の生産者として協議会の副会長を務める農事組合法人矢神毎戸営農組合代表理事の髙月周次郎氏が、「里海米」づくりに取り組む動機を語る。「地域資源循環型だからです。海で育った牡蠣殻を田んぼで資材として使うのがいい」

 その価値を髙月氏は、水田の再生に見いだす。「幼少のころ、田植えの時期にはホウネンエビやカブトエビといった生き物が水田に見られました。牡蠣殻資材を用いるようになってから、その光景がまた復活しました」

協議会は多様なバックグラウンドを持つ会員同士が交流を重ねる場。そこでの出会いが活動のさらなる広がりを後押しする。左から、髙月氏、JA全農おかやま農産・園芸部次長の宰務研吾氏、小原氏
協議会は多様なバックグラウンドを持つ会員同士が交流を重ねる場。そこでの出会いが活動のさらなる広がりを後押しする。左から、髙月氏、JA全農おかやま農産・園芸部次長の宰務研吾氏、小原氏

 物語には、語り手がいる。役割を担うのは、協議会に集う多様な会員だ。

 協議会の会員数は2025年10月現在、95者。「自動車、住宅、建設など、言わば異業種の企業参加が目立ってきました。SDGs(持続可能な開発目標)の達成につながる活動として評価されています」(小原氏)

 異業種の企業では、「里海米」2合パックのノベルティ(景品)として活用しているところもある。パック1つを消費すると、「瀬戸内かきがらアグリ基金」に1円が積み立てられる仕組み。それを通して、「里海」の再生につながる米という物語を顧客に伝えられる(基金は「里海」再生を目的に協議会が2020年6月に設立した)。

 語り手や語り口は、さまざま。その多様性にこそ、「里海米」の普及に向けた可能性が見込める。事業開始から10年目の節目を迎え、JA全農おかやまの仕掛けが協議会という場で自走し、瀬戸内エリア全体にさらに広がることが期待される。