オールジャパンで農産物・食品の輸出1兆円を目指す

農林中金とJA全農が全面支援した「香港フード・エキスポ2017」

提携先の発掘で現地生産につなげる

 福岡県三潴郡(みずまぐん)大木町できのこを生産する農事組合法人「秋香園」(しゅうかえん)は、こうした初参加組とは異なる意図で出展した。大木町は、筑後川の南、久留米市と柳川市の間に位置する温暖な地域で、古くからきのこの産地であり、法人形式でのきのこ生産に取り組む事業者が多い。

 秋香園は、90人ほどの従業員で、しめじ、しいたけ、えのきを生産する大規模な生産法人の1つ。香港フード・エキスポは4回目の参加になるというベテラン組だ。

 同園の廣松伸幸氏によれば、初出展の時に輸出の話がとんとん拍子に決まったという。「いきなり出荷という話になり、最初は船便で不安でしたが、空気を抜いたパッケージの製品を出し始めた時だったので、それがうまくはまりました」と当時を振り返る。

 秋香園としても、当時は国内に販路を求めたかったが、情勢がそれを許さず海外に販路を開拓する方向に舵を切った。現在では、海外で販売するしめじは年間24トンという規模にまで成長。ただ、秋香園のしめじの生産量は1日5トンにもなる。それでも海外への販売量の比率はまだまだ微々たるものにすぎない。

上は秋香園の廣松伸幸氏。下は秋香園の主力商品のぶなしめじ(写真:佐藤久)

 廣松氏も「アジア圏全体に広げたいが、日本から輸送するとやはり限界がある。できれば現地のきのこ生産者と一緒に作りたい。最初のお客様が作り方を教えてほしいということだったのであしかけ7年かけてそれが上手くいきました」と、技術提携や共同経営の相手を見つけることが今回の出展した目的の1つだと語る。

 「きのこの生産には温度や湿度などいくつも条件が重なっています。民族性によっても作り方が違ってくる。どれか1つでも条件が欠けた時にどう帳尻を合わせるかという難しい面があります。ただ、1つの成功パターンがあれば、そのノウハウでどこでも生産できるようになるはず」と期待をかける。

 このように、国内の生産者・事業者は様々な思惑を持ってこのエキスポに参加している。しかし、そのほとんどは規模が小さく独力で実際の輸出にこぎつけることは難しい。それをフルサポートしているのが、農林中金とJA全農だ。生産者・事業者は、国内での相談から始まって、出展料の助成、ブースの出し方、契約の実務、輸送や販売の方法に至るまで相談することができる。

単発ではなく継続的な支援を目指す農林中金

現場を仕切る農林中央金庫 食農法人営業本部 営業企画部 部長代理 藤木諭氏(写真:佐藤久)

 JAグループで金融機能を担う農林中金では、食農法人営業本部を中心に日本の農林水産物全般の輸出拡大を進める方向で、輸出支援に当たっている。支援の目的は生産者・事業者の収益向上だ。彼らの輸出ビジネスがうまく回り収益向上につながれば、農林中金としては運転資金や投資の需要が生まれる。

 農林中金が提供する支援の守備範囲は広い。広報誌『輸出の芽(いぶき)』を使った情報提供を始めとして、エキスポや各種見本市への出展支援、各地域での輸出セミナーの開催、海外スーパーでの実売会の開催支援など多岐に渡る。これらの中でも、2012年から農林中金として取り組みをスタートさせた香港フード・エキスポは最重要イベントと捉えている。

 今回のエキスポで農林中金側の現場を仕切る食農法人営業本部 営業企画部 部長代理 藤木諭氏は、「回を重ねるごとに来場者もバイヤーも増えています。同時に、フード・エキスポに参加したいと手を上げる事業者も年々増えています。農林中金としては出展費用の助成に留まらず、出展しやすいように背中を押したい」と語る。

 農林中金ではこのフード・エキスポを単発の商談の場、出会いの場として捉えるのではなく、その後に続く交渉の第一歩と考えて具体的な手を打っている。

輸出を始めたい事業者に情報を提供する農林中金の広報誌『輸出の芽(いぶき)』

 「エキスポをきっかけにして、その後もバイヤーさんとの関係を保ちながら、商談を続けていけるかどうかが実際の輸出につなげるための鍵です。農林中金としてはそういった継続的なサポートを目指しています」と藤木氏。

 こうした継続的な取り組みとの1つとして、今回のフード・エキスポで関係が作れたバイヤーや顧客とのマッチングについて次に開催される商談会を通じて支援していくという。

 具体的には「JTB西日本と協力して、来年2月に香港で商談したい相手を引き合わせるガチンコ勝負の商談会があります。これをめがけて橋渡しをしたいと考えています。イベントごとに単発で終わらせるのではなく、別のイベントと結び付けて有効に機能するような流れを作っていきたい」(藤木氏)というのが農林中金の考える継続的なサポートだ。

JA全農はその場の成約率を上げる取り組み

 農林中金と連携しながら、フード・エキスポをきっかけに実際の販売や契約につながる具体的なプランを作っているのがJA全農だ。

 今回のエキスポで目指したのは、会場での成約率をいかに上げるか。日本の食材を現地の嗜好に合わせた料理として試食提供して、その魅力を実感してもらい、販売や契約にスムーズにつながるブース設計を手がけた。基本的な設計は昨年とほぼ同じだが、今年のエキスポでは実際の販売や契約に結び付く確率を高めるために2つの工夫を加えた。

 1つは、香港にも多くの料理教室を持つABCクッキングスタジオの全面協力を仰ぎ、香港の人向けにアレンジした日本食メニューを試食できるようにしたこと。もう1つは、香港の大手ECサイト「香港電視網上購物」(香港TVモール)の協力を得て、調理スペースのすぐ前で気に入った食品・食材を購入できるようにしたことだ。

左は「今年は食べたものを手に入れていただくところまで実現したかった」と語るJA全農輸出対策部 澁谷廣居氏。右はABCクッキングスタジオの協力で試食の料理を提供するスペース(写真:佐藤久)

 料理はABCクッキングスタジオ側が行うため、紹介や販売に当たるJA全農の関係者は、来場者やバイヤーとの交渉に集中する環境ができた。商談に移れるスペースの取り方にも気を配った。

 こうした改善により機会損失をできる限り少なくするという考えだ。今回現場を担当したJA全農輸出対策部 澁谷廣居氏は、「昨年は食べて知ってもらうところまでだったが、今年は食べたものをご購入いただくところまで実現したかった」と語る。

 香港TVモールについても、「現場での購入にテコ入れしたかったのと、多様な販売チャネルを広げたかった」(澁谷氏)ことがあって、今回の協力につながった。バイヤーが気に入った食材の販売価格がすぐわかり、仕入れ価格が計算できるという副次的な効果も念頭に置いた。

 このほか、JA全農では、香港で2店舗展開する直営レストラン「和牛焼肉 純」の紹介や、香港から日本への観光客を取り込むインバウンドの需要もPRしている。エキスポの場をフル活用して現地の消費者やバイヤーのニーズを徹底的に探る取り組みを進めた。

 澁谷氏は「プロダクトアウトの考えではなく、現地の方の希望を叶えるマーケットインの立場でものを提供していきたい」と語る。単に作りたいものを売るのではなく、徹底的に市場のニーズを掘り起こし、そこに合った産物を提供することでしか実際のビジネスは生まれないし、それを支援することが生産者の団体でもあるJA全農の役割だと考えている。

 こうした取り組みと同時並行でJA全農 輸出対策部では、輸出を希望する生産者が確実にJAの支援体制にアプローチできる取り組みも進めている。具体的には「輸出ワンストップ窓口」というサイトを立ち上げ、ここで輸出に関する様々な情報を提供。このワンストップサービスを利用すればJAグループとの結び付きが弱い事業者も、JA全農に直接アクセスできる。問い合わせを受けた全農側では速やかに関係者と連絡を取り合い情報共有しながら支援に取りかかる体制になっている。

オールジャパンで輸出拡大を目指す体制

 今回のエキスポ初日には、齋藤健 農林水産大臣を始めとして、農林中金食農法人営業本部を率いる宮園雅敬 代表理事副理事長、JA全農の輸出関連の総責任者でもある岩城晴哉 代表理事専務など、日本の農産物・食品の輸出プロジェクトのオールスター級のメンバーが顔を揃えた。

 香港という最大の輸出先に対して、オールジャパンで生産者・事業者をバックアップしていく意欲の現れだ。もちろんその視線の先は中華圏があり、アジア圏がある。さらに先には世界規模での輸出拡大へと道はつながっている。確かな魅力のある農産物や食材を持つ事業者・生産者にとって、金融サイドから農林中金が、生産・販売の現場サイドからJA全農が連携しながらフルサポートするJAグループの支援体制は頼りになる。言葉は悪いが、使わない手はない。輸出を考える生産者にとって、世界に飛躍するまたとない、いや千載一遇のチャンスが到来していると言えるだろう。

左から齋藤健 農林水産大臣、宮園雅敬 農林中金 代表理事副理事長、岩城晴哉 JA全農 代表理事専務(写真:佐藤久)